オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ
監督: ジム・ジャームッシュ
出演: トム・ヒドルストン、ティルダ・スウィントン、ミア・ワシコウスカほか
日本公開:2013年
数世紀に渡るヴァンパイアの記憶と、
港街・タンジールの息吹
舞台はアメリカのデトロイトと、モロッコのタンジール。ヴァンパイアのアダムはアメリカのデトロイトで匿名ミュージシャンとして活躍しています。恋人で同じくヴァンパイアのイヴは、モロッコのタンジールで老年のヴァンパイア作家を匿いながらひっそりと暮らしていますが、アダムを訪ねデトロイトへやってきます。数世紀に渡る命を持っているヴァンパイアの彼らであっても、やはり久々の再会は会話を弾ませ、夜の街や楽器に溢れたアダムの家の中で他愛のない会話に花が咲きます。そこに、イヴの妹・エヴァが転がり込んできて、ふたりの大切な時間が徐々にかき乱されていきます…
本作はほかのヴァンパイア映画にみられるようなホラーシーンがほとんどなく、iPhoneやインターネットを使いこなすヴァンパイア同士のウイットのきいた会話が中心であるというとても珍しい映画です。「モーツァルトの弦楽五重奏曲第一番は実は自分が作曲した」とアダムが言うなど、歴史上の人物にからんだエピソードも登場してコミカルな部分も見られますが、人間の何倍もの長さの寿命を持つヴァンパイアの視点から「命とは何か」ということが語られる不思議なドラマです。
その独特な雰囲気を後押しするのが、仄暗いデトロイトの街並みと、そしてなんといってもタンジールの街並みです。私自身もタンジールの街には思い出があります。12月半ばからクリスマスにかけてモロッコを旅行し、あえてクリスマスはタンジールで過ごし、12月26日にフェリーでタンジール港から1時間半くらいであっという間にスペインのアルヘシラス港に渡りました。当然ながら、モロッコではクリスマスの日には特に何も起こらない普通の日で、スペインに入るとクリスマスの余韻が街に残っていました。ローマ帝国時代や、レコンキスタの時代から様々な歴史の蓄積がある街ですが、文化の境目に自分が立っているかのような、五感で街の歴史を感じ取れるような街でした。
また、タンジールのシーンで登場するレバノン人歌手、ヤスミン・ハムダンの美しい歌にも注目です。
一風変わったヴァンパイア映画を見てみたい方、タンジールの不思議な雰囲気に浸ってみたい方にオススメの映画です。