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パキスタンの野生動物保護とハンティング事情

パキスタンのアイベックス (5)

ヒマラヤアイベックス Himalyan Ibexの親子

いまどきハンティング?と、私には考えられないのですが、パキスタンのハンティン グと 野生動物保護について考える機会がありましたのでご紹介したいと思います。

10月上旬、デオサイ高原国立公園 Deosai National Parkとクンジュラブ国立公園Khujerab National Parkへ行って来ました。デオサイ高原では、苦労もしましたが貴重なヒマラヤヒグマ Himalayan Brown Bearに出会うことができ、クンジュラブ国立公園ではアイベックスの群れをあちこちでみかけました。

パキスタンのアイベックス (2)

国立公園のスタッフによると、野生動物の個体数は確実に増えているとのこと。パキスタンのワイルドライフもなかなか…と思ったのですが、よ~く話を聞いていると、単なる自然愛護や保護の話ではありませんでした。

クンジュラブ国立公園は、「世界の屋根」パミール高原の南部に位置する国立公園。 公園の中央を「カラコルム・ハイウェイ」が貫通し、中国とパキスタンの国境となる「クンジュラブ峠」を含みます。1975年に国立公園が設立されたとき、この公園となった地域はワヒ族の土地でした。このことで土地を失うことになったワヒ族の人々は、村民による議会Khunjerab Villager Organization(KVO)を設立。事実上、国立公園は違法ハンティングの取り締まり以外のすべての事項に村民議会(KVO)の承認が必要となりました。また、スストなどワヒ族の暮らす7つの村が位置する地域は、「KVO保護地域」としてKVOの管理下に置かれることになりました。

ここでハンティングについてです。現在、クンジュラブ国立公園内でのハンティングはもちろん認められていません。また、KVO保護地域でも「許可された狩猟」を除く一切の狩猟は禁止されており、10年ほど前に最後の違法狩猟が摘発され厳しく罰せられた事件以来、違法ハンティングはないとのこと。

この「許可された狩猟」というのが「トロフィーハンティング」。肉や毛皮のためではなく、合法に、趣味として「大型野生動物を撃つ」というものです。剥製などを「トロ フィー」として持ち帰ります。

毎年10月半ば以降に、トロフィーハンティングの許可証がオークションされます。2014年の価格は、アイベックスなら5000ドル(外国人ハンター)か1500ドル(パキスタン人ハンター)、ブルーシープだと8500ドル(外国人ハンター)か5000ドル(パキスタン人ハンター)くらいとのこと。KVO保護地域では、2014年度はアイベックス18頭、ブルーシープ2頭、総数20頭のハンティングが許可されました。

この許可証による収入は、パキスタンの山奥の村にとっては 非常に大きなものです。KVO 保護地域で「トロフィーハンティング」が始まったのは、1993年のことです。この時、狩猟が許可された頭数は1頭。そのころから村人がトロフィー・ハンティングを許可される個体数を増やすために「野生動物の保護」を考えるようになったのだそうです。

トロフィー・ハンティングの対象となる動物の数は、毎年、AKRSP, WWF, Nationa Park, KVO, Wildlife Department Gilgit-Baltistanなどの機関が調査を行い、その結果で割り当てを決めることになっているといいます。野性動物の数が多ければ多いほど、トロフィーハンティングの数が増える=収入が増えるのです。

1993年に1頭から始まったトロフィーハンティングは、2014年には20頭(アイベックス18頭、ブルーシープ2頭)に。このシステムが始まってから違法ハンティングに対する取締りが厳しくなり、アイベック スや ブルーシープの数は確実に増えているといいます。

2014年度のKVO保護地域の調査に よる個体数は、(クンジュラブ国立公園の野生動物個体数は含みません)アイベックスが2300頭、ブルーシープが270頭とのことでした。

「トロフィーハンティング」に差し出された20頭の犠牲が、2000頭を救う…。なんとも切ないですが、地元の人々の収入となり理解を得て、進められる野生動物保護のひとつの形なのでしょうか。

次に、この「トロフィーハンティング」により得られた収益の使い道に関してです。初めての収入を得たとき、365人の村人に5000ルピーづつ分配したのだそうですが、みんなすぐに使ってしまい、良い結果が出ませんで し た。そのため、その後、トロフィーハンティングの収入の有益な利用を目指す目的でKVO Multi-Purpose Cooperation Societyを設立し、60%はKVOの見張りやスタッフ、調査費用・給与に当て、40%は教育・福利厚生に使うことになりました。

具体的な事例としては、高校のないこの地域の学生を就学させるために、ギルギットに土地を買い、2008年に女学生寮が完成しました。2015年現在70人の女学生が通っています。また、毎年貧しい40家族の医療保険代をサポートしたり、救急搬送、そしてビジネスを始めたい人へ低金利での貸付も行っています。

さて、この「トロフィーハンティング」ですが、これも厳しい条件で行われています。

パキスタンのアイベックス (3)

まず、ハンターは「1発」で仕留めなければいけないこと。何回も撃っていいものではありません。原則、はずしたらそこまでです。そして、狙っていい対象は、アイベックスなら角が38インチ(97センチ)以上、ブルーシープなら角が22インチ(56センチ)以上の固体。このページの写真の中にいるアイベックスたちはすべて対象外です。

なぜかと理由を聞くと、角の大きな固体は年寄りで、もう繁殖能力もないのでハンティングの対象としても良いと。自然に死ぬくらいなら、収入になったほうがいいと。

これも、かなり切ない話です。

Photo & Text : Mariko SAWADA 澤田真理子

Observation : Oct 2015, Khunjerab National Park, Pakistan

Reference : 情報はMr Mahabat karim, Office Manager of Khunjerab Villagers Organization (KVO),Mr.Sultan Gohar, Khunjerab National Park (KNP)によるものです。

デオサイ高原のヒマラヤヒグマ Himalayan Brown Bear

Himalayan Brown Bear ヒマラヤヒグマ (8)

パキスタンのデオサイ高原は、希少なヒマラヤヒグマ Himalayan Brown Bearが暮らす平均標高4,100mの高原です。急激に個体数を失ったヒマラヤヒグマの保護のため1993年に国立公園に指定されました。

ヒマラヤヒグマについて

ヒマラヤヒグマ Himalaya Brown Bear はヒグマの亜種でヒマラヤ山脈とその周辺に暮らすヒグマ。もともと、ネパール、チベット、北インド、北パキスタンに広く生息しましたが、トロフィー・ハンティングや毛皮・薬の材料目的として狩猟され、また生息地域を失い激減しました。ブータンではすでに絶滅したと考えられ、インドの北部山岳地帯に数百頭、パキスタンに150~200頭ほどが生息するのみとなりました。

デオサイ国立公園で最初のセンサスが行われた1994年には30~40頭ほどを数えるだけでしたが、狩猟が取締りされ、保護が徹底された結果、2013年のセンサスによると72頭に増えました(国立公園の資料では60頭ですが、センサスに参加した職員によると子供を含めて72頭だと)。20年でほぼ2倍にはなりましたが、まだまだ厚い保護が必要な状態です。ヒマラヤヒグマは3年ごとに1~2頭の子供を産みます。国立公園の人によると11~12月には冬眠に入り5月ごろに出て来て夏の間、草を食べ、時にはマーモットを捕食する光景も見られるそうです。

 

キュートなヒマラヤヒグマと遭遇

これまでも何度かデオサイ高原を訪れ、そのたびにガイド氏から「ここにはヒマラヤ・ブラウン・ベアーがいます」と説明を受けながらも見たことは一度もありませんでした。

10月、デオサイ国立公園カラパニ地区のヒマラヤヒグマ保護観察をしているグルマン・ラザ氏と一緒にサイティングにチャレンジしました。私に与えられたサイティング・チャンスの時間は合計で2日。バラパニのデオサイ国立公園と警察の詰め所にキャンプし、ここをベースとしました。

デオサイ キャンプ (1)

バラパニの国立公園チェックポストにキャンプ

デオサイ高原 (1)

ヒマラヤヒグマを探す、グルマン・ラザ氏

ヒマラヤヒグマをジープ道から見ることは難しく(たまにはあるそうです)、本格的なサイティングのためにはヒマラヤヒグマが頻繁に目撃される谷や湿地帯へ行ける所までジープで行き、その後は歩いて探します。到着した初日は、ヒマラヤヒグマの観察で一番アクセスのいい「ウォッチング・ポイント」と呼ばれるところへ行き、双眼鏡で探しましたが見つかりませんでした。

この日はもう、夕暮れ、タイムアウトとなりキャンプへ。夜は満点の星空を撮影。夜、テント内にも霜がおり、すべての液体が凍りました。

朝7時30分、キャンプ場に十分に日が当たり、活動開始。再び、ウォッチングポイントを目指しますが、ヒマラヤヒグマはいません。少し遠出してバリラ方面の谷、シャトゥン・ナラの谷を見に行きますが見当たらず。そしてランチ・ブレイク。残された時間が少なくなり、少々焦りが出てきました。

2日前の目撃例をもとに、バラパニの谷をジープで行ける所まで行き、そこから歩いて川原を見渡すポイントへ。

双眼鏡で必死になって探しました。「ベアー!!」グルマン・ラザ氏が、草を食べるヒマラヤヒグマを発見。

でも遠い・・・双眼鏡で「点」のように見えるヒマラヤヒグマ、写真はおろか「どれがクマ?」のような状態です。距離にして約4~5キロ。現在15:30。ここは標高4000mの湿地帯。日没時間、歩くスピードを考えた結果、近づくことにしました。

はじめは猛スピードで移動しましたが、クマに近くなるとしゃべらずに、体をかがめて歩きます。

Himalayan Brown Bear ヒマラヤヒグマ (1)

ようやく、クリアーにヒマラヤヒグマが見えてきました。もう少し近づきます。風上に私たちがいると臭いで感づかれるので気をつけて、音を立てないように歩きます。

Himalayan Brown Bear ヒマラヤヒグマ (7)

もう、これ以上近づくと良くないだろうというところまで来ました。若いオスのクマのようで、私たちに気づかずせっせと草をはんでいます。

Himalayan Brown Bear ヒマラヤヒグマ (6)

ようやく気がつきました。大きなレンズを構えて写真を撮る私の姿は怖いはず。ごめんなさい。

Himalayan Brown Bear ヒマラヤヒグマ (2)

冬眠前のまるまるとした体。そしてなんてかわいらしい。夕方の美しいライティングの中で出会うことができました。

Himalayan Brown Bear ヒマラヤヒグマ (3)

しばらくこちらを見ていましたが、ついに後ろを向いて歩き出してしまいました。

Himalayan Brown Bear ヒマラヤヒグマ (4)

大きなおしりです。もこもこしていてたまりません。そしてついに走り出してしまいました。怖かったのでしょう、ごめんなさい。

そして私たちもタイムアウト、日没までにジープのあるところへ戻るギリギリの時間になっていました。山で陰になった冷たい湿地帯を歩きながら、今日の出会いに感謝です。

2015年8月、デオサイ高原の保護をめぐるニュースがありました。ギルギット・バルティスタン州政府が、ラマ湖からアストール、そしてデオサイ高原にかけてのラリーやポロ競技などの大型イベントの企画をしたことに対し、WWFパキスタンを中心にソーシャルメディアを通じて反対運動が起こり、このイベントを中止させた、というものです。パキスタンの人々の自然保護への意識が高くなってきたことを実感すると同時に、旅行ブームでパキスタン人観光客が急激に増えたデオサイ高原のゴミ問題・環境破壊が発生しているのも事実です。

 

Photo & Text : Mariko SAWADA 澤田真理子

Observation : Oct 2015, Deosai National Park, Pakistan

Reference : Mr.Ghulman Raza – Deosai National Park, Wikipedia( EN)

パキスタン デオサイ高原のワイルドライフ

パキスタンのオコジョ (1)

パキスタンのデオサイ高原はパキスタン北西部、ヒマラヤ山脈とカラコルム山脈の間にある高原です。

広さは3,000平方キロメートル、平均標高は4100m。決して広大とは言えない高原ですが、急激に個体数を失ったヒマラヤヒグマの保護のため1993年に国立公園に指定されました。

デオサイ高原 (2)

11月~5月は雪に閉ざされ、「天空の湿地帯」とも呼べる豊かな植生が残されています。現在はDNP=Dosai National Parkが運営・管理し、WWFやUS-AIDの支援行われています。よくよく考えるとこれだけの大自然、無数の小川が走り、野生動物を育む湿地帯が残っていることは大変貴重であり重要なことなのです。

さて、10月初旬、標高4,000mの高原でキャンプ、寒さに耐え出会った、デオサイ高原のワイルドライフをご紹介します。

デオサイを一番有名にしているのが、ヒマラヤヒグマ Himalayan Brown Bearの存在です。

Himalayan Brown Bear ヒマラヤヒグマ (2)

ヒマラヤヒグマ Himalaya Brown Bear はヒグマの亜種でヒマラヤ山脈とその周辺に暮らすヒグマ。もともと、ネパール、チベット、北インド、北パキスタンに広く生息しましたが、トロフィー・ハンティングや毛皮・薬の材料目的として狩猟され、また生息地域を失い激減しました。ブータンではすでに絶滅したと考えられ、インドのヒマーチャール・プラデーシュ州の国立公園に35頭ほど、パキスタンに150~200頭ほどが生息するのみとなりました。標高4,000mを越える高原を歩き、近づいて撮影した1枚です。

★ヒマラヤヒグマのサイティングはこちら

デオサイ キャンプ (3)

デオサイ高原の湖や川原には渡り鳥が来ていました。

デオサイ キャンプ (4)

オオズグロカモメ Pallas’s Gullです。ロシア南部~中央アジアで繁殖し、冬はアラビア半島からインドの沿岸へと渡ってくるカモメ。その渡りの途中でこのデオサイ高原にいるのでしょうか。

オオズグロカモメ

オオズグロカモメ Pallas’s Gullは繁殖期の個体は頭が黒いですが、そうでない個体と若い固体は頭は白です。目のふちの白と黒の模様が特徴的です。

ヒマラヤマーモット

ヒマラヤ・マーモット Himalayan Marmot はデオサイ高原で簡単に出会うことができる動物です。キャンプ場の近くにも巣穴があり、親子のマーモットを観察できました。もうすぐ冬眠の季節です。

パキスタンのオコジョ (2)

たまらなくかわいいオコジョ Stoat

ヤマイタチとも呼ばれるオコジョ、顔が丸っこく、さらに耳も丸いのです。季節ごとに毛の色が変わり、夏は背中側は茶色、お腹側は白、冬は全身真っ白で尻尾の先が黒くなります。この写真の子はもう冬バージョンです。

デオサイ高原に滞在中、キツネも観察することができました。秋のデオサイ高原は本当に寒く、キャンプの朝はテント内でもマイナス5度まで気温が下がりました。

最後に、ワイルドライフではありませんが、デオサイ高原の星空です。標高4,000mの星空、秋晴れの夜空ならでは景色。

デオサイ高原 (5)

降るような、星空でした。

Photo & Text : Mariko SAWADA 澤田真理子

Observation : Oct 2015, Deosai National Park, Pakistan

Reference : Mr.Ghulman Raza – Deosai National Park, Wikipedia( JP & EN), Helm Field Guide “Birds of the Indian Subcontinent”

 

ウランゲリ島 夏のホッキョクグマ (極東ロシア)

ウランゲル島のホッキョクマ シロクマ (4)極東ロシアのウランゲリ島とヘラルド島は世界で最もDEN(ホッキョククマの巣)の密度が高く、世界最大の繁殖地、「ホッキョクグマのゆりかご」と呼ばれている島です。

ここではホッキョクグマたちは海に氷がある間はギリギリまで氷の上にいて、溶けてしまうとウランゲリ島やヘラルド島へ上陸してきます。氷がないとアザラシが捕食しにくいため、陸上にある「食べられるもの」を探して、再び海が氷に覆われるのを待ちます。

ウランゲル島のホッキョクマ シロクマ (1)

8月下旬のウランゲリ島、赤くそまるツンドラを歩くホッキョクグマ

ウランゲル島のホッキョクマ シロクマ (3)

なんとも健康そうなホッキョクグマの兄弟。

ウランゲル島のホッキョクマ シロクマ (5)

ちょっと威嚇気味か、まるまるしています。太ったホッキョクグマを見ると幸せです。

ウランゲル島のホッキョクマ シロクマ (6)

こちらは3兄弟?それとも子供大きな親子か。

ウランゲル島のホッキョクマ シロクマ (9)

人間を見ると、こわいのか海へ入っていきます。

ウランゲル島のホッキョクマ シロクマ (11)

続いて3兄弟も海へ

ウランゲル島のホッキョクマ シロクマ (14)

泳ぐ3兄弟。ホッキョクグマは泳ぐのが大変上手で、もともと「海の生き物」。学名は Ursus maritimus で、文字通り「海熊」。

ウランゲル島のホッキョクマ シロクマ (19)

立ち泳ぎ中?

ウランゲル島のホッキョクマ シロクマ (17)

疲れたのか、海から出てくる子、海から私たちの様子を伺っている子も。

ウランゲリ島西部、Dream Headと飛ばれる海岸には30頭を数えるホッキョクマが観察されました。

Photo & Text  :  Mariko SAWADA 澤田真理子

Observation :  Aug 2015 , Dream Head, Wrangel Island – Russian Far east