7月上旬に行った、天売島在住の自然写真家・寺沢孝毅さんによる「天売島海鳥塾」。この日の夕方は雲がありましたが、風がなくベタ凪。わずかに夕陽に期待してケイマフリ号で海へ出ました。やさしい太陽の光の中をウトウが群れを作って飛びます。
水面ぎりぎりを飛翔するウトウ。日没前に繁殖地の崖の下の海に集まり、帰巣のタイミングを待ちます。
ウトウがどんどん集まっています。
でも、いつもと様子が違うのです。お魚をくわえたウトウがほとんどいません。通常だと、巣にいる雛に与える魚をくちばし一杯にくわえて海面で待機したり、飛んでいるのに。
「今日は不漁?」と聞くと、寺沢さんが「毎日が不漁。もう雛の半分は餓死しているだろう。」と。
つらい現実です。繁殖の初期から栄養価の高い魚を親鳥が運ぶことができず、雛たちは餓死。巣穴付近で見た雛の死体も、この巣立ちを迎える季節なのにまだ小さく、栄養が足りてないことを物語っていました。
美しい天売の空を飛ぶウトウの姿、もう待つ雛がいない親鳥が多いのでしょう。
翌日の夕方は赤岩の展望台でウトウの帰巣を待ちました。
陽が沈むとウトウが鳴きながら巣に戻ってきました。やはり魚を持って帰るウトウの数は多くなく、魚を持っているウトウが見られると「がんばったね!」と、観察する人たちの間から声が上がりました。
ようやくお魚をくわえたウトウを近くで発見。例年だと、魚をくわえた親鳥が着地すると、それを横取りする他のウトウがやってくるのですが、今年はその光景もありませんでした。それほどに、雛がいないのです。
寺沢さんによると、過去にもこういうことはあったそうです。何とか一羽でも多く巣立つことを祈るばかりです。
どうして今年は魚がいないのか、海水温上昇のためなのか、潮の流れが変わったのか、どこかで誰かが獲っているのか。天売島は世界最大のウトウの繁殖地です。この天売島で繁殖ができなくなったらウトウはどうなってしまうのでしょう。気候など、私たちにどうしようもないことが原因かもしれませんが、これ以上の要因がないように、何かできることはないのか考えさせられました。
Text : Mariko SAWADA
Photo : Mariko SAWADA, Wataru HIMENO
Observation : July 2021, Teuri Island, Hokkaido
Special Thanks : 自然写真家・寺沢孝毅さん