パキスタン・カラコルム山脈の7,000m峰に挑む
スパンティーク登頂
- パキスタン
2013.08.01 update
パキスタン北部、四方をカラコルムの名峰・秀峰に抱かれた桃源郷フンザ。フンザを見下ろす山々の中でも、ひときわ目立つ7,000m峰がスパンティーク(別名ゴールデンピーク:7,027m)です。1902年、アメリカのワークマン夫妻に試登されて以来、日本はもちろん世界各国の登山家から愛され続けたスパンティーク。その南東稜は、数ある7,000m峰の中でも比較的登りやすいことで有名です。山容の美しさもさることながら、カラコルムの氷河の中でも最も美しいとされるチョゴルンマ氷河を渡ってのアプローチや、周囲に聳える名峰群(マルビティン、ライラ・ピーク、クプルタン・クン)の圧巻の景色が多くの登山家を魅了し、毎年各国から公募隊がこぞって訪れています。 カラコルムの隠れた名峰、憧れの7,000m峰に来夏は踏み込んでみませんか?
アランドゥからベースキャンプへ
首都イスラマバードから飛行機で1時間。K2をはじめとするカラコルム登山の玄関口、スカルドゥ(2,341m)から旅は始まります。ここで装備や食料の買い出しと最終確認をして、いざ最奥の村アランドゥ(2,924m)へ。ガタガタ道をジープで走ること約5時間、人口1200人程度のアランドゥ村は、晴れ渡る青い空と周囲を取り囲む雪山、黄色や緑色に輝く田畑の色彩が美しいのどかな場所です。村にひとつしかない学校では子どもたちが健やかに育ち、人々はヤギや羊、牛やゾッキョ、ヤクなどを飼って暮らしています。
フウロソウ科
キク科
ベンケイソウ科
ムラサキ科
スミレ科- キンポウゲ科
マンピ・クーラ(ManpiKhura:3,335m)とボロチョ(Bolocho:3,800m)の2ヶ所のキャンプにテントを張り、スパンティークのベースキャンプ(B.C.:4,385m)を目指します。アランドゥ村を出発するとすぐにチョゴルンマ氷河がお目見え。その左岸のアブレーションバレーを詰め上がります。日中の気温が上がるにつれて、感じられる氷河の胎動。やがて、モレーンが成す灰色の世界から白氷の世界へといざなわれます。 最初のキャンプ地であるマンピ・クーラへ到着する直前、初めて前方にスパンティークが顔を出しました。高ぶる興奮を感じながら、これからの登山への覚悟を固めていきます。そんな緊張を、道中に咲き誇る高山植物の香りが癒してくれます。2番目のキャンプ地ボロチョからは、スパンティーク、マルビティン(7,458m)、ライラ・ピーク(6,985m)などの名峰群を眺めながら氷河上を歩きます。大きく口を開けたクレバス(氷河の割れ目)に注意しながらB.C.へ。時にはジャンプを強いられることもあります。
チョゴルンマ氷河の先にスパンティークを望む
C1から拝むチョゴルンマ氷河の美しさ
ベースキャンプからC3へ
B.C.から先はタクティクス(戦術)がとても重要になってきます。ただでさえ天候が崩れやすく、かつ読みにくい山の天気。高度順応や荷上げ、積雪の締まり具合や体調など、様々な要素を考慮しながら慎重に進まなければなりません。C1(5,050m)へは稜線に抜けるための急登を約4時間で登ります。軽量化に努めてはいたものの、大量の荷上げや悪天候による後退により、4回もここを登る羽目になってしまいました。 C1からはいよいよ雪のついている南東稜線上を登っていきます。特にC1からC2(5,445m)の区間は日中であればゆうに腰まで埋まってしまうので、雪の締まる深夜から明け方までに行動しなくてはなりません。 核心部はC2からC3(6,155m)までの急登です。表からは見えないヒドゥンクレバスが多いため、フィックスロープを張り、ユマーリング(固定したロープにかけて使う登攀用具を用いてロープに沿って登ること)します。道中、ルプガール・サール(7、200m)、モムヒル・サール(7,343m)、トリボール(7,733m)、ディスタギル・サール(7,885m)といったヒスパー山群や、遠くK2(8,611m)、ラトック山群を拝むことができました。
前方にスパンティークを望みながらC2へ
C3へ向かう核心部の急登
登頂
頂上から拝むライラ・ピーク、ハラモシュ、奥にはナンガパルバット
深夜12時30分、C3を出発し遂に頂上を目指します。最初のアタックは悪天候により失敗し、一旦B.C.に引き返してからの2度目のアタックです。麓に広がる大きな雪田は、積雪の締まり具合によっては大変なラッセル(深い雪をはらいのけ道を開きつつ進むこと)を強いられます。高所では、一歩一歩にどれだけ体力を削がれないかが重要、極力楽な方法で歩くように努めます。 早朝5時26分、朝日に導かれるように頂上に立ちました。ハラモシュ(7,409m)や世界第9位の高峰ナンガパルバット(8,126m)、フンザの名峰ラカポシ(7,788m)やディラン(7,257m)もはっきりと眼前に聳えています。360度広がる展望とともに、達成感に満たされて過ごした頂上での約40分間。凍える指を駆使して写真撮影をし、興奮した声でもって衛星電話による日本への登頂報告。なんと隣ではパートナーが携帯電話を使っていました。ここまで標高も上がり展望が開ければ、電波も繋がります。 下山後、イスラマバードにあるACP(AlpineClubofPakistan)のオフィスに赴き登頂証明書を発行してもらい、大切にファイルに入れ持ち帰りました。 この登山は、今後の飛躍に繋がる貴重な経験となりました。苦労が多ければ多いほどに思い出深くなり、達成感は増し、頂上からの景色も格別なものに変化します。何より変わったのは自分自身かもしれません。
そんな皆様の人生を変える一山に、スパンティークをぜひ加えてみませんか?