今回はイランのほぼ中央に位置する砂漠都市ヤズドと、最大のみどころである「沈黙の塔」についてご紹介いたします。ヤズドは、イランにおいて古い歴史をもつ都市のひとつで、人口は約50万人。ゾロアスター教文化の中心地です。
■ゾロアスター教とは…
経典は「アヴェスタ」、開祖は「ザラス・シュトラ」。ゾロアスター教という名称自体も、開祖であるザラス・シュトラの名前に由来するといわれています。ゾロアスター教の全寺院には、火が絶えることなく燃えています。寺院内には偶像はなく、信者たちは火に向かって礼拝しますが、決して火を崇拝しているのではありません。光と善の最高神“アフラ・マズダ”を唯一神としており、火は彼にしか作れないと信じているため、信者たちは火を大切にするといわれています。
ヤズドの旧市街
この地は年間降水量が大変少ないため土漠・岩漠が多く、農耕には不向きな環境でした。そこでヤズド州ではカナート(地下水路)が発達し、このカナートによって灌漑が行われてきました。
夏は著しい暑さのため、ヤズドの旧建築の多くは大きな「バード・ギル」という天然クーラーの役割を果たす設備を設けています。また、近傍の山地にある氷を蓄えるヤフチャール(氷室)を備えるものもあります。
ほぼ全体が日干し煉瓦で建築された都市としては世界最大の規模。迷路のように入り組んだ旧市街には、日干し煉瓦の上から土で塗り固められた家々が並び、強い日差しのもとで歩く茶色い街並みは、まさに砂漠都市の名がふさわしい場所です。
ヤズドの古い街並み
町で見かけるバード・ギル
また、ヤズドではセラミックやタイルの産業が盛んです。イランの国教であるシーア派12イマームの3代目ホセイン氏のゆかりの地としても知られ、ホセイン氏の殉教を追悼するアーシュラーの日には、巨大な神輿がヤズドの街を練り歩きます。
巨大な神輿
ゾロアスター教の聖地「沈黙の塔」
そして、ここヤズドにはアケメネス朝、ササン朝時代に国教だったゾロアスター教の信徒が今も暮らしています。その象徴として残されているのが、ヤズドの一番のみどころでもある「沈黙の塔」です。
夕日に照らされた沈黙の塔
「沈黙の塔」は、不毛の山頂に建つ高さ3~4mの壁で囲まれた直径十数mの円形構造物です。男女別にそれぞれ建物が分かれており、男性用の建物が高い位置に造られます。小高い丘の上たたずむ岩山は、「ゾロアスター教徒の墓場」を意味する「ダフメイェ・ザルトシュティヤーン」と名づけられており、古代ペルシャのゾロアスター教徒が遺体を葬る鳥葬(風葬)の場として実際に使用されていました。天井はなく、床には同心円が描いてあり、真ん中に深い穴があります。鳥に食べられた後の白骨は、後に遺族によって衣類(布)に包まれ、その真ん中の穴に投げ込まれたようです。ゾロアスター教徒は火や水、土を神聖なものとしており、これらを汚すことになる火葬や土葬を嫌いました。そのため、遺体を鳥が食べることで自然に還すという方法を選びました。
沈黙の塔に続く道
骨を投げ込む穴(沈黙の塔)
1930年代に王がその習慣を禁止とするまで、この地では実際に鳥葬が行われていましたが、現在はイスラム教徒と同様に土葬になりました。かつて鳥葬が執り行われていたこの塔に登ることもできます。内部には骨を入れていた穴が残るのみですが、そこからは麓の集落が見え、遠方にはヤズドの町を望むことができます。
沈黙の塔からの眺め
また、ゾロアスター教寺院のなかでも最も重要とされるヤズドの拝火神殿は、異教徒でも入場が可能です。善の象徴として火を尊ぶため、拝火教とも呼ばれるゾロアスター教。拝火神殿の内部には、ゾロアスター教の開祖であるザラスシュトラが点火したといわれる火が、1500年以上絶えることなく燃え続けています。そして、信者たちはこの炎に向かって礼拝をします。
拝火神殿
ゾロアスター教の聖火
鮮やかなタイル装飾や美しいレリーフもイランの大きなみどころですが、ゾロアスター教徒の需要な聖地として息づく土地、ヤズドもイランならではの魅力ではないでしょうか。ぜひ、砂漠都市の異国文化をご自身で歩いてみて下さい。
■旅のひとくちメモ:日本の自動車メーカー「マツダ」とゾロアスター教
日本の自動車メーカー「マツダ」(MAZDA)の名称の由来は、ゾロアスター教の光と善の最高神アフラ・マズダだといわれています。「叡智・理性・調和の神アフラ・マズダを、東西文明の源泉的シンボルかつ自動車文明の始原的シンボルとして捉え、また世界平和を希求し自動車産業の光明となることを願って」つけたそうです。
※この記事は2014年4月、2015年4月のものを修正・加筆して再アップしたものです。
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