【視察レポート】ケララ北部の秘祭を撮る
テイヤムの神と女神たち【その1】
- インド
2019.08.14 update
ケララ州北部に古代から伝承される「テイヤム」の祭りは、憑依儀礼とも表現される、いわゆる神降ろしの祭儀。日本ではまだあまり知られていませんが、地元には「テイヤム・プランタン」と呼ばれるテイヤム“オタク”がいるほど。奇抜なメイクアップや衣装の強烈なインパクトは、一度見たら忘れられません。
何千年もの時を経て今なお地元で受け継がれている、南インドの“秘祭”を視察してきました。
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テイヤムの神のひとつ「クッチ・チャタン」
原色を用いた奇抜な衣装と派手なメイクアップ、繰り出されるアクロバティックな芸やパフォーマンス。一見すると観光客向けのショーのようにも思えますが、これらはすべて実際に行われている本物の儀式です。
現地の観客以外には外国人観光客はほとんどおらず、私たちが訪れた2019年3月も、儀式の様子をじっくりと間近で見学することができました。テイヤムは北ケララでは有名で、2018年にオープンしたカヌールの空港には、テイヤムの神を描いた絵が飾られていたり、街中には祭りを知らせるポスターが貼られ、土産物店にはテイヤムの神を形どった人形も売られています。
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マラヤーラム語で書かれた、開催を知らせる現地のポスター
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テイヤムの神をモチーフにした人形
どんな祭り?
テイヤム(Theyyam)は、ケララ州北部で伝承されている神降ろしの宗教儀礼。「テイヤム」とは、サンスクリットで神を意味する「デイヴァム(daivam)」が、ケララで話されるマラヤーラム語に変化したもので、祭儀に登場する神々の総称や祭り自体のことを指します。その起源は2000~3000年前といわれ、祭儀で唱えられるトーッタムという文章の中で語られたり、口伝によって伝承されています。テイヤムの神々は、古代からの女神信仰や英雄崇拝、祖先、動物、精霊、疫病の神など、⼟着の信仰にヒンドゥーの宗教が影響した独特の型をもち、400以上もの神がいるといわれています。
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女神「パタラムルティ」
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ヴィシュヌの化身のひとつ「ナラシンハ」
いつ、どこで行われる?
祭りが行われるのは11~5月。カヌール地区・カーサルゴード地区に点在する「カブー」とよばれる寺院で、3~4日間にわたって行われます。寺院ごとに祀られる神が違うため、見られる祭儀の種類も寺院によって異なり、なかには夜通し行われるものもあります。私たちはPYYANNUR EDATTU KAAVUという寺院で、朝から晩まで6種類のテイヤムを見学させてもらいました。敷地内は土足厳禁のため、裸足(靴下はOK)。演目中もあまり人がおらず自由に会場を行き来することができ、観覧席や日陰で休憩することもできました。昼食は、この村の祭りで提供される施しの食事で、南インドらしいバナナの葉にのったベジタブルミールスをいただきました。
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儀式が行われるカブー。太鼓が打ち鳴らされる
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観客や村の人たちと一緒に食事
演者は北ケララのみに存在するカーストの人々
テイヤムの神が憑依する霊媒「テイヤッカーラン」を担うのは、北ケララにのみ存在する、世襲によるテイヤム演者のカーストの人々。99%が男性で、彼らはアウト・カーストのため社会的地位は低いのですが、祭りでは自ら神が降りてくる器となり、神の起源を語り、神託を行います。また、テイヤッカーラン以外にも、祭儀に携わる人々の役割はカーストによって細かく分担されています。例えば、祭司の服を洗うのは洗濯をするカーストの女性、道具を磨くのは鍛冶のカースト、椰子酒の供物を用意するのは椰子酒作りのカーストといった決まりがあります。期間中に振舞われる⾷事や演者への⽀払いなど、祭りの費⽤は中規模のものでも60万Rs(約8,600ドル) ほどかかるそう。費⽤の負担は村によって様々で、祭りのオーガナイザーが⽀払ったり、村⼈たちで出し合ったり、寄付で賄います。
1. Malaya
2. Vannam
3. Munnoottan
4. Anjoottan
5. Velan
6. Pulaya
7. Koppalan
次回は、テイヤムのみどころポイントや、具体的な祭りの流れをご紹介します!
参考図書:「神話と芸能のインド」- 儀礼と神話にみる神と人(古賀万由里)(鈴木正崇 編/山川出版社)
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