インド最北の祈りの大地 ラダック
- インド
2013.01.01 update
「ladwags」峠を越えて、という意味を持つラダック。 ラダックは、ヒマラヤ山脈とカラコルム山脈の間のインダス河源流域に位置し、インドでもっとも高い高山地帯の一部です。
ラダックの中心地レーの街並み
ラダックへ
インドの首都デリーから航空機で約1時間。暑く、ぬるい風が吹くデリーから標高3,500mのラダックの中心地・レーへの移動。空路では峠を越えた実感は伴いませんが、陸路でレーを目指す場合は3,000~5,000m級の峠をいくつも越えて行かなければなりません。
航空機がレーに到着して機外から出ようとするときに感じる冷たく澄んだ空気、見渡すと広がっている荒々しい山肌、そして顔つきの違うラダックの人々。インドのなかのチベット仏教圏ラダックは、寒冷期は雪に閉ざされていたため、独自のチベット文化が受け継がれてきた場所でした。
デリーからレーへの山岳フライト
ラダックの女性
ラダックの仏教美術 ~リンチェンサンポ様式の代表・アルチ僧院~
ツァワ・リンチェンサンポという人物がいます。リンチェンサンポは11世紀にグゲ王の命を受け、当時仏教が盛んだったカシミールに2度留学。戻った後は膨大な数の経典翻訳に励んだことから、大翻訳家(ロツァワ)と呼ばれ、仏教発展に大きな足跡を残しました。ロツァワは2度目の帰路時に、カシミールから32人の大工や仏師、絵師を連れ帰ったことで、カシミール様式の仏教美術を西チベットに持ち込むことに成功し、グゲにトリン僧院、ラダックにニャルマ僧院、そして仏教美術の宝庫・アルチ僧院を建てました。
ラダックの仏教美術は11世紀のリンチェンサンポ時代と、14世紀頃からのポスト・リンチェンサンポ時代に分けることができます。
リンチェンサンポ様式の代表・アルチ僧院
リンチェンサンポ様式はカシミールや中央アジア美術の系統をひいており、壁画の着色に<群青>を多用していることが特徴として挙げられます。対しポスト・リンチェンサンポ様式はカシミールの様式が薄れ、チベットの影響を受けるようになり、かつ<赤>の多様が目立ちます。
リンチェンサンポ様式の代表・アルチ僧院スムツェク<三層堂>に入ると、まずは三立像が迎えてくれます。壁には青を基調とした千体仏が描かれています。また視線を上にずらすと壁の隅には白鳥の絵が描かれており、柱は溝彫り式でうずまき模様が施されています。そして独特の明り取りの仕様であるラテルネン・デッキ(持ち送り式天井)。どれもカシミール様式の特徴といえます。
そしてこの堂内での見所は何と言っても般若波羅密仏母の壁画です。堂内に入って左側、観音菩薩の立像の足元にひっそりと佇む仏母は、細字の黒色の線で美しくくま取りされ、丁寧に施された着色、ななめ下に向けられた視線は控えめな美しさを感じさせます。手持ちのライトで光を当てるとはっと、息をのむほどです。
残念ながらアルチ僧院内部の写真撮影は許可されていませんので、内部の様子をこの場で写真を用いてご紹介することができないのは残念ですが、このアルチ僧院を、ぜひ体感していただきたく思います。
ラダックの祭り ~ヘミス・ツェチュ~
ラダックではお祭りが冬季ではほぼ毎月催されており、そのほとんどが仏教関連です。チベット暦に合わせて行われるので開催日は毎年変動します。
ラダック全域に共通する行事は、釈迦の誕生・成道・入滅を記念するサカダワ、ゲルクパの開祖ツォンカパの命日を記念するガルダン・ナムチョ、そして正月のロサルなどです。
6月には夏のラダックの最大の祭典、へミス僧院のツェチュが開催されます。「ツェチュ」というのは「月の10日」という意味で、聖者グル・リンポチェ(パドマサンバヴァ)の誕生とさまざまな事蹟が、いずれも10日に起きたことを記念しています。
お祭りの際には、地元の人が大挙となって押し寄せ、僧院の中庭にて行われるチャム(仮面舞踊)に見入ります。若者は普段よりおめかしをして会場に訪れ、若者同士たむろしおしゃべりに興じています。ラダックのお祭りは若い男女の出会いの場ともなっています。
ラダックの最大のツェチュが開催されるへミス僧院
見物客で賑わう会場
2012年に訪れた際のヘミス・ツェチュの様子を紹介させていただきます。チベットホルンが低重音を響かせシンバルが一定のリズムで叩かれる中、舞踊は始まります。
まずはタンカの開帳。ヘミス僧院ではタクツァン・レーパのタンカがご開帳です。次にハトゥワという祭り会場が清浄であるかどうかの確認、その後ジャナといわれる黒帽13人の踊り。そして祭りの主役パドマサンバヴァの登場、グル・ツェンゲ(パドマサンバヴァの八変化)。馬頭観音や憤怒尊、そして観客にいたずらをして会場を沸かせるチティパティがひととおり登場し舞を披露し、祭りは幕を閉じます。
クツァン・レーパのタンカ
黒帽の舞
パドマサンバヴァの登場
墓場の主チティパティ
ラダックの昔ながらの暮らしにふれる
ラダックの中心地・レーでは観光客用のお土産物やレストランが並び、いち観光地として賑やかですが、一足村のなかへ入ると、昔ながらの伝統的な衣服をまとい、農耕を営みながら自然とともに生きる人々の暮らしが見えてきます。
ラダックは冬季の寒さが厳しいため、村に暮らす人々の活動は4月半ばから10月までに限られます。4月半ばから5月初旬はヤクを引いての田おこし、そして種まきの時期。8月は黄色に色付いた田畑で収穫作業が行われます。
村をのぞきに行くと、気さくな笑顔で迎えてくれ、お茶か、チャン(ラダックのどぶろく。チンコー麦から作る)、そして焼き立てのラダッキ・ブ レッドをひっきりなしに勧めてくれます。家の造りも、ラダックの冬季の寒さに対応できるよう1階が家畜用のスペース、2階に夏用の部屋、冬用の部屋と区別されており、それぞれ窓の仕様などが違います。
伝統として受け継がれてきた、生きるための知恵と工夫は至る所に見られ、気付くと同時に深く納得させられます。
シュクパチャン村
春の田お越し
8月は収穫の季節
焼きたてのラダッキ・ブレッド
ダックのベストシーズンは短いですが、春先には杏の花、夏には眩しく光る新緑、秋には黄葉、とそれぞれのシーズンそれぞれの景色で私達を迎えてくれます。お祭りの時期に合わせての訪問もおすすめですし、一度ラダックを訪れた方にはラダックの村里で民家に宿泊するツアーもおすすめです。
リキール僧院で学ぶ子供たち
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