K2・バルトロ氷河トレッキング2022 (vol.3) コボルツェからウルドゥカスへ

コボルツェ(3,834m) からウルドゥカス(4,061m)のキャンプへと移動するおよそ7kmと短い行程の一日です。途中、ウルドゥカスピークス(Urdukas Peaks)から発する氷河を2つ渡り、ついに今晩から4,000m以上でのキャンプです。

 

K2・バルトロ氷河トレッキング vol.01 スカルドゥからパイユへ

K2・バルトロ氷河トレッキング vol.02 パイユからコボルツェへ

K2・バルトロ氷河トレッキング vol.03 コボルツェからウルドゥカスへ

K2・バルトロ氷河トレッキング vol.04 ウルドゥカスからゴレⅡへ

K2・バルトロ氷河トレッキング vol.05  ゴレⅡからコンコルディアへ

コンコルディア滞在、K2、ブロードピーク、ガッシャーブルム山群、カラコルムの高峰群に囲まれて

 

コボルツェを出て間もなくウルドヵスピークスからの氷河を渡ります。足元は大きな岩ごろごろ。

 

遠征隊の荷物を積んだラバが続々と通り過ぎます。ポーターに聞いたところ、2つの遠征隊がパイユからウルドゥカスを目指していると。キャンプ場が混雑しそうです。

 

氷河の水を飲む、バルティ族のポーターさん。

 

ウルドゥカスが近づくと緑が増え、高山植物の花が咲いていました。これ以降のキャンプはすべて氷河上になるため、荷を運ぶ動物たちにとってフレッシュな草が食べられるのはここが最後です。

 

それにしてもキャンプ地とその上の動物たちが放牧されている付近は花が沢山咲いていました。

 

7月上旬まで花が見られるとのこと。花だけでなく、野鳥も一番多くの種類がいられました。

 

キバシガラス yellow-billed Chough、Pyrrhocorax graculus。雑食でキャンプ場の周りで人間が出発するのを待っています。

 

ベニハシガラス Red-billed Cough、 Pyrrhocorax pyrrhocorax。木の実や昆虫などを採餌しますが、ここでは雑食のキバシガラスと一緒に残飯を狙っていました。こんなに厳しい環境下ですから何でもご馳走です。バルトロ氷河トレッキング中は、キバシガラスの方が多く、ベニハシガラスの方が稀です

 

上記2つのカラス科の野鳥に加え、ワタリガラスの姿も。この地域のワタリガラスは亜種C. c. tibetanus(英名でTibetan ravenと呼ばれることも)で、ワタリガラスの中で一番大きくゴージャスです。このキャンプ地以降、コンコルディアまでいずれのキャンプ地でもこの3種のカラスの仲間を見ることになります。

 

撮影できてうれしかったのが、このムネアカマシコ Red-fronted Rose finch、Carpodacus puniceus。分布図によるとチベット高原周辺の高山に生息している鳥です。

 

我々がキャンプ地に到着したときは自分達だけでしたが、そのあと続々と2隊が到着。

 

夕方までにキャンプ場はとても賑やかになりました。ウルドゥカスのキャンプ地の問題は常設トイレが非常に遠いこと。欧米人はともかく、トイレの近い日本人にはつらいものです(うまくいくと、管理人にお願いしてMyトイレテントを建ててもらえます)。我々は1泊でしたが、パイユから1日でウルドゥカスまで来るグループは2泊してまる1日休養をとったりする場所です。

 

この日、渡したちが連れてきたヤギが解体され、我々には「レバーの炭火焼」が提供され、スタッフは腸を使った煮込み料理を楽しみました。このヤギの肉は最終日まで私たちの糧となりました。ちなみに登頂隊のグループはヤクやゾ(ヤクと牛の交雑種)を連れていました。

 

夕食前のキャンプ場からの景色。バルトロ氷河とその向こうにトランゴキャッスル(Trango Catsle)とウリビアホ(Uri Biaho)。

 

日が落ちたウルドゥカスのキャンプ場西側。背後にウルドゥカスピークス(Urdukas Peaks)の一部が顔を出し、間もなくここから月が上がりました。

 

Photo & text : Mariko SAWADA

Trek date : early JUN, 2022

 

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K2・バルトロ氷河トレッキング 2022 (vol.2) パイユからコボルツェへ

本日はパイユからコボルツェへの行程です。バルトロ氷河のルートは氷河が動いたり崩れたりするため毎年、いやその時によってルートが変わり距離も変動します。今年は氷河の真ん中付近を進み、リリゴ(Liligo)キャプ手前でモレーンに上がりました。

 

K2・バルトロ氷河トレッキング vol.01 スカルドゥからパイユへ

K2・バルトロ氷河トレッキング vol.02 パイユからコボルツェへ

K2・バルトロ氷河トレッキング vol.03 コボルツェからウルドゥカスへ

K2・バルトロ氷河トレッキング vol.04 ウルドゥカスからゴレⅡへ

K2・バルトロ氷河トレッキング vol.05  ゴレⅡからコンコルディアへ

コンコルディア滞在、K2、ブロードピーク、ガッシャーブルム山群、カラコルムの高峰群に囲まれて

 

距離にして15キロ、標高3,420mのパイユ(Paiju)から3,834mのコボルツェ(Khoburtse)までの行程で、我々には無理のない行程でしたが、欧米の多くのトレッカーは一気にウルドゥカス(Urdukas)を目指します。

 

パイユのキャンプ地から北側のブラルドゥ川の川岸を4kmほど歩いたところからバルトロ氷河に上がります。

 

ブラルドゥ渓谷(Braldu valley)を作り出す、バルトロ氷河から流れ出す水。

 

背景にトランゴタワーズ(Trango Towers)。

 

バルトロ氷河上から見たグレートトランゴタワー(Great Trango Tower)、6,286m。トランゴタワーズは世界有数の大岩崖を擁することで知られています。

 

休憩タイム。

 

リリゴ(Liligo)を越えてからの景色。バルトロ氷河の向こうにバルトロカテードラル(Baltoro Cathedral)とロブサンスパイア(Lobsang Spire)。

 

到着したコボルツェ(Khoburtse)のキャンプ地。パイユやウルドゥカスに比べ小さなキャンプ地です。今晩も貸し切りでした。

 

我々のキッチン。トレッキング中の夕食は毎日18時30分頃と早めです。

 

夕食も済み、日が暮れたコボルツェのキャンプ地。ポーターさんたちの天幕に明かりが灯りました。そして山も晴れてきました。

 

左がパイユピーク(Paiju Peak)、右(手前)がウリビアホ (Uli Biaho)。

 

コボルツェのキャンプ場はトランゴキャッスル (右手)(Trango castle)がの目の前です。

 

今日も、静かな夜を迎えることができました。

 

Text & Photo : Mariko SAWADA

Trek Date : Early JUN, 2022

*The altitudes and distances traveled from site to site that are listed, are based on our own measurements and GPS equipment. Please note that these may differ from other reference materials.

 

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K2・バルトロ氷河トレッキング 2022(vol.1) スカルドゥからパイユへ

西遊旅行としてはパンデミック後の最初のバルトロ氷河トレックとなった2022年6月の記録です。2019年のツアー以降、大きく変わったのはジープ道。アスコーレ(Askole)までだったジープ道はジョラ(Jhola)とスカムツォク(Skam Tsok)の間まで伸びていました。現在も断続的に工事が行われています。大きなグループはジョラのキャンプ地を利用していますが、小さなグループは道中のブラルドゥ川の河原でもキャンプが可能です。(注:パキスタンで言う「ジープ道」とは地元でTOYOTA JEEPと呼ばれている車種なら通れるレベルの、かなりラフな道のことです。)

 

K2・バルトロ氷河トレッキング vol.02 パイユからコボルツェへ

K2・バルトロ氷河トレッキング vol.03 コボルツェからウルドゥカスへ

K2・バルトロ氷河トレッキング vol.04 ウルドゥカスからゴレⅡへ

K2・バルトロ氷河トレッキング vol.05  ゴレⅡからコンコルディアへ

コンコルディア滞在、K2、ブロードピーク、ガッシャーブルム山群、カラコルムの高峰群に囲まれて

 

今年のバルトロの大きな特徴は、3年間待った「登頂隊」がたくさんやってくること、でしょうか。バルトロエリアはインド国境に近いため、パキスタンへ入国のために必要な査証も、申請時から「トレッキング」または「登山」の査証を取得する必要があり、この査証に紐づいてスカルドゥでグループの許可申請を出し、認可後に出発することとなります。今年のシーズン最初はこの「トレッキング」「登山」査証の申請が急激に増えたため、取得にかなりの時間を要しました。バルトロエリアのトレッキングを計画の方は45日前には申請できるように準備しましょう。

 

最初のキャンプ地へと向かう我々のポーターさんたちを載せた車。6月は登頂隊の荷揚げが集中するため、ポーターさんもラバ(馬・ロバも)大忙しです。

 

シガール渓谷を走行中に、ドライバーさんの暮らす村ハイデラバード(Hyderabad)を通過。ドライバーさんの奥さんが収穫したての「桑の実」を持ってきてくれました。

 

信じられないくらい甘かった「桑の実」。

 

以前の車道最終地点のアスコーレ村(Askole)付近です。アスコーレはバルトロ氷河トレッキングのポーター/荷揚げなどで賑わうほか、宝石の採掘でも有名です。この写真の岩に空いている穴は宝石の採掘抗で、この時も大規模に作業が行われていました。

 

アスコーレから先は、今回初めて通るジープ道です。バルトロ氷河から始まるブラルドゥ 川(Braldu river)に沿って進みます。途中、かなり絶壁アップダウンも。

 

ジョラ(Jhola)に新しい橋ができており、そこを渡ってしばらく進むと現在も工事が行われている地点へ到着です。ここから少し歩いた河原で今晩はキャンプです。

 

翌日はブラルドゥ川 沿いに歩きます。スカムツォク(Skam Tsok)のキャンプ地を通過。

 

前方に、バルトロ氷河、雲の隙間にトランゴタワーズ( Trango Towers )の一部、バルトロカテードラル(Baltoro Cathedral)、そしてパイユ(Paiju)のキャンプ地が見えてきました。

 

パイユは水が豊富で緑の中のキャンプ地です。まだシーズン始まったばかりで往路の宿泊は貸し切りスティでした。

 

パイユではポーターさんたちがバルティ族のパン作りをしていました。明日からの氷河上トレッキングに持っていくパンです。

 

焼きあがったパン。

 

こちらは食事中のラバ。以前は家畜はほどんど使用されていませんでしたが、今はラバが主流で馬とロバも使われます。

 

明日からの氷河に備えて蹄鉄もを新しく。シーズンが始まった、という感じです。

 

パイユのキャンプ地から望むバルトロ氷河沿いの山、左がトランゴタワーズ(Trango Towes)の一部、真ん中がバルトロカテードラル(Baltoro Cathedral)、その右横がロブサンスパイア(Lobsang Spire)。

私たちしかいないパイユの夜は大変静かでした。

 

Text & photo : Mariko SAWADA

Trek Date : Early JUN 2022

追記:2022年7月初旬にアスコーレの先4km付近の橋が洪水により流されてしまい、それ以降はアスコーレからのトレッキングとなっています。

 

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ヒマラヤアイベックス Himalayan Ibex fighting for the dominance

クンジュラブ峠近くで見た、ヒマラヤアイベックスの角合わせの動画です。ヒマラヤアイベックスが優位を競って争う様子は繁殖期の12~1月をピークに行われますが、春のある雪の日、大きな舞台のような岩の上で角合わせをするヒマラヤアイベックスのグループを見ました。

クンジュラブ峠近くで見た、ヒマラヤアイベックスの角合わせの動画です。アイベックスが優位を競って争う様子は繁殖期の12~1月をピークに行われますが、春のある雪の日、大きな舞台のような岩の上で角合わせをするアイベックスのグループを見ました。

 

Himalayn Ibex fighting for the dominance ヒマラヤアイベックス

 

2021年の12月~2022年の2月にかけて、クンジュラブ国立公園では違法なハンティングが行われ多数のアイベックスが殺されました。これまではクンジュラブ国立公園とKVO(Khunjerab Villagers Organization)が管理し、KVOエリア内のトロフィーハンティング以外の狩猟は厳しく取り締まられていましたが、ここにきて一部の心無い人々の不正により、ようやく回復してきたアイベックスの数が減り、それがユキヒョウへも影響し家畜の被害例が増えた冬となってしまいました。

 

すでにこの事件は担当者の処分が行われ、解決したことになっていますが、失われた個体数は戻りません。次の冬シーズンも心配されます。

 

Image & text : Mariko SAWADA

Observation : Apr 2022, Khunjerab National Park

 

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インダス河沿いに残る失われゆく岩絵④ ゴナールファーム

インダス河畔に残る岩絵のご紹介の最後は、ゴナールファーム(GONAR FARM)です。チラスからカラコルムハイウェイを東に1時間程走り、車を降りてさらに30分程歩いて到着する村の外れに、岩絵が点在してます。まさに、知る人ぞ知る岩絵です。

インダス河沿いに残る失われゆく岩絵① カラコルムハイウェイ沿い

インダス河沿いに残る失われゆく岩絵② タルパン

インダス河沿いに残る失われゆく岩絵③ シャティアール

 

岩だらけの道を歩いてゴナールファームへ

行きは軽い登りで、最後は村の畑の中も歩いていくと到着です。

 

巨大な仏陀の岩絵

村外れの開けた場所の大きな岩に、沢山の岩絵が残っていました。

 

仏塔の岩絵と背後の山々

後ろは峻険な山並みです。

 

遠くに見えるインダス河の支流と岩絵

この場所が不思議なのは、インダス河から少し離れた場所にあることです。かつて人々が渡河をしていたインダス河が流れを変えたのか、それとも元々河から離れた場所に人が集まった場所があったのか、想像を掻き立てながら岩絵を見て回ります。

 

保存状態がよい仏陀の姿

ゴナールファームの岩絵の特徴は、何と言ってもその保存状態の良さです。訪れる人が少ないためか、鮮明な岩絵ばかりでした。この仏陀も、微笑んでいるような表情、組んだ手、袈裟のひだが良く分かります。

 

鮮明に残る仏塔の岩絵

岩絵はほとんどが仏教に関する絵で、仏塔の絵も沢山残っています。

 

植物と手形

足元の岩に描かれたこの仏塔も、踏みつける人が少ないため鮮明な状態で残っています。

仏教以外の絵もいくつか残っており、これは植物と手形の絵です。

 

足元の岩に描かれた仏塔

今までご紹介してきた岩絵は、2027年までにダム建設によりダムの底に沈む運命にあります。いくつかの岩絵は政府によって移設、保存される予定ですが、5万点を越えるそのほとんどは水没してしまいます。シルクロードを行き交った人々の営みや思い、信仰も刻まれたこれらの岩絵が、消えゆく前に少しでも多くの人の目に焼き付いて残ることを、願ってやみません。

 

Photo & text : Koji YAMADA

Visit  : Nov 2021, Gonar Farm, Gilgit-Baltistan

 

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インダス河沿いに残る失われゆく岩絵③ シャティアール

今回の岩絵は、シャティアール(Shatial)の岩絵です。一般のフンザを訪れるツアーでも訪問する場所で、巨大な仏塔の岩絵があることから「仏教サイト」として知られるシャティアール。時間をかけてゆっくり見学したところ、仏塔以外にも様々な珍しい絵が描かれているのがわかりました。

最新の記事:シャティアールの岩刻画 失われるインダス河畔の岩刻画・シルクロードの遺産 をご覧ください(2023年6月UP)

インダス河沿いに残る失われゆく岩絵① カラコルムハイウェイ沿い

インダス河沿いに残る失われゆく岩絵② タルパン

インダス河沿いに残る失われゆく岩絵④ ゴナールファーム

 

シャティアールの仏塔の岩絵

この場所もまた、古来からインダス川を渡るポイントだったため、仏教徒以外も、商人、巡礼者、旅人がここを通過し、色々なものを刻んでいきました。珍しい岩絵の数々をご紹介いたします。

 

右手を上げた人物

この右手を上げた人物は、一見すると怒って手を上げているように見えますが、顔の後ろに丸い光背が描かれていることから、仏陀なのかもしれません。

 

これは卍を表しています。法輪と共に仏教のシンボルです。

 

三又

これは三又です。武具として使われたのか、宗教的なシンボルなのか、農業用なのか想像を搔立てられますが、いずれにしても古来から使われていたものです。

 

刻まれた文字

絵だけではなく、様々な文字も刻まれています。カロシュティ文字、ソグド文字、アラム文字等が見つかっているとのことです。

何であるか判別できないものもありました。

 

謎の物体

これは爪のある三本の指のように見ますが、植物でしょうか。

 

ナーガもしくは拝火壇

これはナーガのように見えますが、炎が燃えている姿のようにも見えるので、拝火壇という説もあるそうです。

 

仮面を被った人

これは角が付いた丸い仮面を被った人です。スカートのような衣装も印象的でした。

動物も沢山描かれていました。

 

ラクダの顔

駱駝はやはり、シルクロードを行き来した旅人の重要な動物だったのでしょう。

 

インドの象も、ここまで来ていたんでしょうか。

 

 

小さな絵でしたが、レイヨウのような動物も描かれていました。シャティアールには、古来の人々が使ったもの、見たもの、そして信仰したもの、様々なものが岩絵に刻まれて残されていました。岩絵を見ているだけで、古き時代のシルクロードの喧噪に触れた気持ちになりました。

 

Photo & text : Koji YAMADA

Visit : Nov 2021, Shatial, Khyber Pakhtunkhwa

 

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インダス河沿いに残る、失われゆく岩絵② タルパン

今回のインダス河沿いの岩絵はタルパン (THARPAN)の岩絵です。チラスからカラコルムハイウェイを東に走り、橋を渡ってインダス河を渡りタルパンロードという道にそった場所が岩絵のある場所です。ここは川原の面積が大変広いので岩絵が広範囲に渡って残っており、点在する岩も巨大なため様々な岩絵が描かれています。

インダス河沿いに残る失われゆく岩絵① カラコルムハイウェイ沿い

インダス河沿いに残る失われゆく岩絵③ シャティアール

インダス河沿いに残る失われゆく岩絵③ ゴナールファーム

仏塔が描かれた岩

 

推測ですが、ここは川原が広いので昔はインダス河の渡河ための人々の一大集結場で、様々な人々が沢山集まった場所だったと思われます。仏教徒が多かったため、仏教に関する岩絵が多いのですが、シャープな直線を用いた大きく立派な仏塔が多く残っています。

 

旗をなびかせたチベット様式の仏塔

 

仏陀は線のみで描かれたものが多く、繊細な装飾はあまり見られませんでした。

 

左手に数珠を持った仏陀像

仏教関係以外の岩絵も、目を見張るものばかりで大変興味深いものが残っていました。

 

天秤のようなものを持つ人物

これは、仏塔と一緒に天秤のようなものを持つ人物です。仏塔を建立した労働者なのでしょうか。

 

アイベックスと円

この絵は、アイベックスと太陽のような円が描かれています。考古学者のガイドさんの説明では、この円は狩猟に使う「わな」を描いたものとのこと。様々な民族の一大集結場だったためか、際立った様相の人物像も残っています。
下は、ペルシャ風の衣装を纏った人物です。

 

ペルシャ風の衣装を纏った人物

ペルシャ風で描かれた動物の岩絵も残っていました。

 

ペルシャ風の画風で描かれた動物

大きな円だけで描かれた目が、ペルセポリスのレリーフと共通します。

 

ペルセポリスのアパダナの獅子と雄牛のレリーフ

そしてタルパンで一番目を引いたのが、このパルティア人と思われる人物像でした。

 

パルティア人と思われる人物像

現在のトルクメニスタンで発祥し、紀元前3世紀から広く西アジアを支配したパルティアは、その治世末期の紀元20年頃分派し、ゴンドファルネス王によってインド・パルティア王国が建てられました。タキシラも一時都としたインド・パルティアはこのインダス河一帯でも活躍していたのです。下は、テヘラン考古博物館に収蔵されているパルティア人の像です。つばの付いたヘルメットのような物を被っている姿が岩絵と共通します。

 

テヘラン考古博物館のパルティア人の像

また、右手に獲物、左手に剣を持つ姿も、西アジアで古くから使われたデザインです。
この写真は、テヘラン考古博物館所蔵のアゼルバイジャン地方で出土した紀元前1000年期の銅皿です。中心に、両手に獲物を持った人物が配されています。また、大きな円形の回りを20の小さな円が取り巻く「連珠紋」のデザインの原型でもあります。

 

テヘラン考古博物館所蔵の銅皿

この写真も、テヘラン考古博物館に所蔵されている青銅器時代のジーロフト文化のソープストーン製の器です。両手に巨大なサソリを持っています。これらのデザインと、インダス河沿いの岩絵のデザインが共通していることにも、大変驚きました。

 

テヘラン考古博物館所蔵のジーロフトからの出土品

次の写真は、このパルティア人が描かれた岩を遠くから撮った写真です。

 

様々な絵が描かれた岩

写真中央下にパルティア人、その左にペルシャ風の動物が描かれていますが、パルティア人の右側の側面には仏陀と四人の従者が描かれています。

 

仏陀と四人の従者

インド・パルティアでは仏教も信奉されていたので、これらの岩絵が描かれた時代はほぼ同時期と思われます。ただ、同じ岩に色々な画風で民族や宗教、動物が描かれていることは、このタルパンが様々な人々の一大集結場であり、まさにシルクロードを体現する場所だったことを教えてくれました。この場所が、ダム湖の底に沈むと思うと、悲しまずにはいられません。

 

Photo & text : Koji YAMADA

Visit : Nov 2021, Tharpan, Gilgit-Baltistan

 

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インダス河沿いに残る、失われゆく岩絵① カラコルム・ハイウェイ沿い 

2021年11月に訪れたインダス河沿いに残る岩絵の数々を、数回に分けてご紹介します。

インダス河沿いに残る失われゆく岩絵② タルパン

インダス河沿いに残る失われゆく岩絵③ シャティアール

インダス河沿いに残る、失われゆく岩絵④ ゴナールファーム

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パキスタン北部、シャティアールからフンザにかけてのインダス河畔には、5万点を越えると言われる岩絵が残っています。これらの岩絵が残る場所は、かつてのシルクロード上でインダス川を渡河した場所であり、インダス川の水位が下がるまで滞在する間に、各地からの巡礼者、商人、旅人が刻んだものです。その多くは仏教に関する岩絵が多いのですが、仏教がこの地を通過する以前から刻まれたアイベックスやユキヒョウなどの動物や民族などのモチーフの他、カローシュティー文字、ソグド文字、ブラーフミー文字などの言語が刻まれています。

 

インダス河に架かる橋

通常のフンザなどへ行く観光ツアーでは移動時間の制限もあり、カラコルムハイウェイ上でバスを停めてゆっくり岩絵を見学する時間が取れません。昨年11月に訪れた視察ツアーではチラスに連泊して岩絵をゆっくり見学する時間を取り調査。「普段通過していたカラコルムハイウェイ沿いに、こんなに沢山の岩絵があったのか」と驚かされました。写真はチラスから20分程カラコルムハイウェイを西に走ったフドル(HUDUR)にあったものです。

 

風になびくを巻いた仏塔の岩絵

フドル以外にも仏塔の岩絵は数多く見られ、クシャン朝時代の仏教最盛期に様々な地から多くの仏教徒がこの地を行き交ったことがわかります。

 

広げた両手に物を持つ人物

左手に武具、右手に獲物の動物を持った人物。人物を正面向きに描き、広げた両手に物をもつデザインは、古くから西アジアで使われていたデザインです。

フドルから10分程東に走ったギチ (GICHI)には、仏教徒が多く滞在したのか、仏塔の岩絵が多く残っていました。

 

ギチの仏塔①
ギチの仏塔②

ギチからさらに10分程東に走った所にあるのがオシバット (OSHIBAT)。バスを降りてすぐに絵が描かれた岩が沢山転がっていましたが、どれも興味深いものばかり。

 

右下にアイベックスが描かれた岩

右下に長い角を持ったアイベックスと、それを追いかけた狩人でしょうか左に躍動感のある人物が描かれています。

 

手形と足形が描かれた岩

インダス河の渡河を待つ長い間に描かれたただの落書きか、呪術的な意味があるか、定かではありません。

 

ギリシャ人と思われる人物が描かれた岩

何かの道具と思われるものと一緒に描かれたこの人物は、ギリシャ人風の髪型で、ギリシャ風の画法で描かれています。

 

ギリシャ人の顔と思われる岩絵

真横に向いた顔、大きく強調された目、なびく長髪は、下のアレキサンダー大王の姿と共通するものがあります。

 

アレキサンダー大王のモザイク

ブーケファラスに跨るアレキサンダー大王のモザイク(ソグド州立博物館 タジキスタン ホジャンド)。

最後の写真は、チラスで宿泊したシャングリラホテルからバスで5分のところにある岩絵で、フンザなどの一般観光ツアーでも時々見学する岩絵です。ゆっくり見学すると、かなり繊細に描かれた仏塔だったことがわかりました。

 

岩絵の上に描かれた仏塔
繊細な画法で描かれた仏陀と仏塔

これら全ての岩絵は、2027年までにダム建設によりダムの底に沈む運命にあります。いくつかの岩絵は移設、保存される予定ですが、5万点を越えるそのほとんどは水没してしまいます。失われゆく貴重な岩絵をご紹介していきたいと思います。

 

Photo & text : Koji YAMADA

Visit : Nov 2021, Chilas area, Gilgit-Baltistan

 

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カラコルムの自然を守る – クンジェラブ峠清掃活動を実施

この4月のパキスタンのユキヒョウツアーはサイティングにも恵まれ素敵な旅となりましたが、訪れたクンジュラブ峠付近はごみが散乱しマーモットがごみを巣穴に運ぶ姿もみかけました。ツアーご参加のみなさまのご支援を受け、アブル・ハーン氏とモルホン村のボーイスカウトが5月4日にクンジュラブ峠付近の清掃活動を行いました。行政へお願いしても迅速な対応は期待できず、パキスタン国内観光客のごみに対する意識改革にも時間を要します。今シーズンはあと2回の清掃活動を行う予定にしています。

 

ごみを巣穴へ運ぶマーモット

 

冬眠明けのお腹を空かせたマーモットがごみを食べる姿はつらいものでした。

 

モルホン村のコミュニティホールで清掃活動についての説明をするアブル氏。

 

中国との国境付近は観光客の最終目的地で一番ごみが多い場所です。標高4,600mを越える高所での作業は地元の人々の協力が強力が必要です。

 

カラコルムハイウェイ添いの溝を清掃。お菓子のパッケージ、ペットボトル、オムツ、マスクなどが落ちていました。どうして車窓からごみを投げ捨てることができるのでしょうか。

 

ごみ拾いに参加した子供。

 

集めたごみは、峠で焼却処分しました。

今年はシーズンの前と後の2回の清掃を行いたいと思っています。今なら美しい自然を取り戻すことができます。「世界の尾根」と称されるカラコルム山脈、パミール高原の自然と野生動物の環境を守るため、微力ですができるとことからやっていきたいと思います。

 

<ご支援のお願い>

西遊旅行の取り組み ”持続可能なツーリズムを目指して” カラコルムの自然を守る クンジェラブ国立公園 クリーンナップ募金のご案内

Image & text : Mariko SAWADA , dated on 10May

 

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トロッコ列車でケウラ岩塩坑へ 

「ピンクソルト」「ヒマラヤ岩塩」として出回っている岩塩の採掘がおこなわれている、世界第2の規模を誇る岩塩坑がケウラ岩塩坑 Khewra Salt Mine。

パンジャブ州のソルトレンジ(Salt Range、塩の山脈)のポトハル高原にある岩塩坑で、その発見はアレキサンダー大王の時代にまで遡ります。紀元前326年、アレキサンダー大王のインド遠征の際に軍馬が地面をなめていたことから塩が発見されました。その後、ムガール帝国時代に商業用の採掘が始まり、イギリス領インド帝国時代の1872年にメインのトンネルが開掘され大規模な採掘が始まりました。

ピンクソルト、ヒマラヤ岩塩に関する記事:ソルトレンジ Salt Range- ヒマラヤ岩塩を産出する塩の山脈

ケウラ岩塩坑は内部を見学することができます。1930年、イギリス領インド帝国下で開通したケウラ岩塩坑鉄道 Khewra Sale Mines Railwayの600mm軌間のトロッコ列車が観光客を内部へと運んでくれます。

トロッコ列車に乗って、岩塩坑へ。ケウラ岩塩坑は観光客向けに開放しているセクションと現在も採掘が進められているセクションがあります。

チャンドニーチョウク Chandni Chowkに到着、ここでトロッコ列車を降りて、岩塩坑ガイドの案内で歩き始めます。到着したトロッコ列車からいくつかのグループ分けがされ、パキスタン人のグループにはウルドゥ語で、外国人の我々には英語で説明をしてくれます。

通路の両側にはムガール時代にも遡る採掘の跡が残っています。

昔の採掘場には雨水がたまり、それが飽和ブライン溶液となりホースで外部へ送り工場へと販売されています。

通路を進むと最初に現れるモニュメントがこのカラフルな塩のブロックで作られたモスク。赤い塩は鉄分、ピンクの塩はマグネシウムが多く含まれています。

この「岩塩でできたモスク」はラホールにあるバードシャーヒーモスク Badshahi Mosqueをモチーフにしたもので、50年以上前に作られたものなんだそうです。

さらに大きな広間のような空間に出ました。塩のつらら、塩の鍾乳石。昔の採掘で使われた大砲も展示されていました。そして奥に見えるモニュメントが有名な「岩塩でできたミナーレ・パキスタン Minar-e-Pakistan。

ケウラ岩塩坑の紹介で良く出てくるのがこの岩塩のブロックで作ったミナーレ・パキスタン Mina-e-Pakistanと先ほどのバードシャーヒーモスク Badshahi Mosque。おそらく同じ時期に作られたものでしょう。ミナーレ・パキスタンはラホールにあるモニュメントで、1940年に全インド・ムスリム同盟がラホール決議(後のパキスタン決議)を可決した場所に建てられたものです。イギリス領インドのムスリムに独立した祖国を求める最初の公式声明で、パキスタン誕生に関わるモニュメントなのです。

メイン通路から少し入ったところにあるのが Crystal Palace。

緑・赤・青と変わるライトアップのせいでオリジナルの色と光がみれないのが残念ですが、壁面は塩の結晶で輝いていました。結晶は小さなサイコロ状、柱状などでした。

こちらはシーシマハルSheesh Mahal<鏡の間>と呼ばれる空間。透けたピンクソルトの壁が光り輝いています。

シーシマハルの奥には塩水面がまさに鏡のように塩の壁と結晶を映し出していました。

これでほぼ一周し、帰路のトロッコ列車もちょうど到着。

ケウラ岩塩坑はイスラマバードやラホールからも簡単に日帰りできる場所にあります。インド大陸とユーラシア大陸がぶつかりあった場所という壮大なロケーションに加え、アレキサンダー大王の軍馬が発見した岩塩、ムガール時代から続く採掘場跡と、歴史ロマンを一度に体験できる場所です。

 

Photo & text : Mariko SAWADA

Visit : Jan 2022, Khewra Salt Mine, Punjab

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