ペシャワール博物館 Peshawar Museum

ガンダーラに関する収蔵品では断トツのペシャワール博物館。展示品のほとんどがガンダーラ美術に関するもので仏伝図のパネルや装飾の数々を見ていると時間がたりなくなる博物館です。

 

他の博物館と同じく、イギリス領インド帝国時代にさかのぼる博物館で1907年にヴィクトリア女王を記念する「ヴィクトリアホール」として建てられました。

 

ペシャワール博物館のメインホールです。このメインホールと入り口から入って左側のギャラリーにガンダーラの作品が展示されています。

 

スワートを中心とする遺跡から出土した、僧院やストゥーパの基壇や壁を飾ったであろう彫刻を施した片岩のパネルが展示されています。仏陀の前世の物語(ジャータカ物語)と仏陀の一生です。あまりにもたくさんの展示があり、同じシーンでも作風が異なるのでぜひ、博物館でゆっくりご覧になってください。

 

「誕生」のパネルです。中心にいるのがマーヤー夫人で右手を挙げて木につかまり、その右わき腹から太子が上半身を出しています。インドラ神がそれを受け止め、その後ろでブラフマン神が祝福しています。

 

「仏陀の一生」のパネルは白い象が夢に現れる托胎霊夢から始まり、出家、苦行、降魔成道、梵天勧請、初転法輪、舎衛城の奇跡、入滅、そして火葬と八舎利分配まで続きます。

 

仏陀の前世の物語(ジャータカ物語)の中でもガンダーラで大変人気があったのが燃燈仏授記(ディーパンカラ本生)です。

 

”燃燈仏が町にやってくると聞いた敬虔な青年メーガ(前世の釈尊)は、敬意を表そうとして散華(花をまき散らして仏に供養すること)のために花を買おうとしますが、国王が花を買い占めていたので買うことができません。そこに通りかかった乙女から蓮華の花を5本買いました。燃燈仏が現れたのでメーガは花を投げかけたところ、その花は地上に落ちず、仏の頭の上にとまりました。その奇跡に打たれたメーガはぬかるみで仏の御足が汚れないように自分の長い髪を投げ出します。燃燈仏はメーガを祝福し「お前は未来に悟りを開いて仏陀になるであろう」と予言しました。”

 

パネル下左寄りに髪の毛を投げ出す青年、メーガの姿があります。

 

そしてこの博物館の重要な展示物のひとつが「仏陀苦行像、断食する菩薩像(Fasting Siddhartha)」です。ラホールのものに比べると失われた部分が多いのですが、浮き上がる血管や助骨は大変リアリスティックです。

 

太子樹下観耕像(初めての瞑想)。

 

太子が木の下で畑仕事を見ていると、鍬で掘り返した土から虫がでてきて、それを小鳥が食べて、その鳥を大きな鷲が食べてしまいます。命のはかなさを感じ、後に出家・成道に至るきっかけとなった出来事です。

台座には春初めての観耕式の図が彫刻されています。見えにくいですが台座の右側には2頭立てで畑を耕す牛が描かれています。

 

そしてペシャワール博物館と言えば、シャージ・キ・デリー出土のカニシカ王の舎利容器。

 

クシャン朝時代のガンダーラの冬の都はプルシャプラ、現在のペシャワールです。ここで唯一発見された遺跡がシャージ・キ・デリーで、カニシカ大塔として知られています。この遺跡から舎利容器が見つかり、カロシュティ文字で「カニシカ王の元年にカニシカ寺に奉献された」と記されており、伝説のストゥーパが実在したことを裏付ける発見となった舎利容器です。

 

で、これはホンモノか?ネット情報に載っている写真とはかけ離れるものなので、レプリカですね。

 

ペシャワール博物館は2階建てです。2階はカイバル・パクトゥンクワ州 Khyber Pakhtunkhwa の民族の展示です。特にカラーシャ族の木像ガンダウ(死んだ男性の記憶、どんな貢献、功績があったかを偲ぶために作られる像)は立派なものはカラーシャの谷でも見られなくなっていますので貴重な収蔵品です。

 

Photo & text : Mariko SAWADA

(Photos are from a trip in Feb2020)

Location : Peshawar Museum, Peshawar, Khyber Pakhtunkhwa

カテゴリ:ガンダーラ遺跡 > ■カイバル・パクトゥンクワ州 > ◇ パキスタンの博物館
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ラホール博物館 Lahore Museum

始まりは1865年という歴史を持つラホール博物館。1894年に現在の位置で開館し、その建物自体の建築も展示方法も間違いなくパキスタン一の博物館です。

 

この博物館が建築されたのはイギリス領インド帝国時代。ヴィクトリア朝のゴシック・リヴァイヴァル建築とインドの伝統的建築の要素を持つ「インド・サラセン様式」の建物で、ラホール出身の建築家ガンガ・ラムによる作品です。

「インド・サラセン様式」の体表的な建物と言えばインドのムンバイにあるチャトラパティ・シヴァージー・ターミナス駅(旧ヴィクトリア駅)がありますが、パキスタン国内の古い町でも同様の建物をみることができます。

 

イギリス領インド帝国時代の1875 – 1893年には「ジャングルブック」で知られる作家ラドヤード・キップリングの父がラホール博物館の館長を務め、その後のキップリングの作品「少年キム」には当時のラホールが描かれています。

 

ラホール博物館のエントランスです。スワート渓谷の木彫ドアの展示から始まります。

この博物館はパキスタンの歴史ごとにギャラリーが設けられ、インダス文明(閉鎖中のこともあります)、ガンダーラ美術、ムガル帝国時代、英国領インド時代など多岐にわたる展示があるのが特徴です。

 

この博物館が、いやパキスタンが世界に誇る名宝がこれ、「菩薩苦行像」「 断食するシッダールタ像」「Fasting Siddhartha」。シクリ(カイバル・パクトゥンクワ州)の伽藍跡から出土した2~3世紀ごろの作品です。

 

”シッダールタは出家後、各地を遍歴して道を求めたが、最後には山林にこもって6年間の苦行を行った。彼の身はやせ衰えてしまったが、どうしても悟りを開くことができなかった”(引用:「ガンダーラの美神と仏たち」樋口隆康著)

 

落ち窪んだ眼、血管や助骨まですけて見える体。厳しい修行をやりぬいた神々しいまでの精神力を表現し、この苦行像はガンダーラ美術の神髄とも言われています。

「仏陀苦行像」はラホール博物館以外ではペシャワール博物館にも展示があります。

 

「仏陀苦行像」のそばに展示されている、同じシクリの遺跡から出土した石造のストゥーパ。

 

これはハーリーティー、鬼子母神の彫像です。これもシクリ出土のもの。

 

人の子をさらう人食い鬼だったハーリーティー。釈迦により子供を奪われて苦しむ親の気持ちを知り、我が子も他人の子も愛すようになり「子供の守護神」となりました。また、ハーリーティーは500人とも1,000人とも言う多産だったため「安産の守護神」ともされ、「多産」のシンボルでもある柘榴(ざくろ)の花を髪につけています。

 

このハーリーティー、ギリシャの女神のようですよね、ギリシャの運命の女神テュケーなのです。ギリシャの神々がガンダーラの仏教美術に現れた東西文明の融合を見る作品です。

 

そしてこちらはインドギャラリー。ツアーで訪問すると、ガンダーラギャラリーでほぼ時間を使い(忙しい時は「仏陀苦行像」を中心)、他のギャラリーはあまりゆっくり見る時間がないのですが、ムガル帝国時代のミニアチュール等、みどころいっぱいの博物館です。

 

Photo & text : Mariko SAWADA

(Photos are from a trip in Oct 2019 – Feb 2020)

Location : Lahore Museum, Lahore, Punjab

カテゴリ:ガンダーラ遺跡 > ■パンジャブ州 > ラホール > ◇ パキスタンの博物館
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