始まりは1865年という歴史を持つラホール博物館。1894年に現在の位置で開館し、その建物自体の建築も展示方法も間違いなくパキスタン一の博物館です。
この博物館が建築されたのはイギリス領インド帝国時代。ヴィクトリア朝のゴシック・リヴァイヴァル建築とインドの伝統的建築の要素を持つ「インド・サラセン様式」の建物で、ラホール出身の建築家ガンガ・ラムによる作品です。
「インド・サラセン様式」の体表的な建物と言えばインドのムンバイにあるチャトラパティ・シヴァージー・ターミナス駅(旧ヴィクトリア駅)がありますが、パキスタン国内の古い町でも同様の建物をみることができます。
イギリス領インド帝国時代の1875 – 1893年には「ジャングルブック」で知られる作家ラドヤード・キップリングの父がラホール博物館の館長を務め、その後のキップリングの作品「少年キム」には当時のラホールが描かれています。
ラホール博物館のエントランスです。スワート渓谷の木彫ドアの展示から始まります。
この博物館はパキスタンの歴史ごとにギャラリーが設けられ、インダス文明(閉鎖中のこともあります)、ガンダーラ美術、ムガル帝国時代、英国領インド時代など多岐にわたる展示があるのが特徴です。
この博物館が、いやパキスタンが世界に誇る名宝がこれ、「菩薩苦行像」「 断食するシッダールタ像」「Fasting Siddhartha」。シクリ(カイバル・パクトゥンクワ州)の伽藍跡から出土した2~3世紀ごろの作品です。
”シッダールタは出家後、各地を遍歴して道を求めたが、最後には山林にこもって6年間の苦行を行った。彼の身はやせ衰えてしまったが、どうしても悟りを開くことができなかった”(引用:「ガンダーラの美神と仏たち」樋口隆康著)
落ち窪んだ眼、血管や助骨まですけて見える体。厳しい修行をやりぬいた神々しいまでの精神力を表現し、この苦行像はガンダーラ美術の神髄とも言われています。
「仏陀苦行像」はラホール博物館以外ではペシャワール博物館にも展示があります。
「仏陀苦行像」のそばに展示されている、同じシクリの遺跡から出土した石造のストゥーパ。
これはハーリーティー、鬼子母神の彫像です。これもシクリ出土のもの。
人の子をさらう人食い鬼だったハーリーティー。釈迦により子供を奪われて苦しむ親の気持ちを知り、我が子も他人の子も愛すようになり「子供の守護神」となりました。また、ハーリーティーは500人とも1,000人とも言う多産だったため「安産の守護神」ともされ、「多産」のシンボルでもある柘榴(ざくろ)の花を髪につけています。
このハーリーティー、ギリシャの女神のようですよね、ギリシャの運命の女神テュケーなのです。ギリシャの神々がガンダーラの仏教美術に現れた東西文明の融合を見る作品です。
そしてこちらはインドギャラリー。ツアーで訪問すると、ガンダーラギャラリーでほぼ時間を使い(忙しい時は「仏陀苦行像」を中心)、他のギャラリーはあまりゆっくり見る時間がないのですが、ムガル帝国時代のミニアチュール等、みどころいっぱいの博物館です。
Photo & text : Mariko SAWADA
(Photos are from a trip in Oct 2019 – Feb 2020)
Location : Lahore Museum, Lahore, Punjab
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