インダス川にできる2つのダムのため、永久に失われることになる貴重なシルクロードの遺産、”インダス河畔の岩刻画”について記録しています。
「捨身飼虎(しゃしんしこ)」ジャータカをご存じでしょうか。日本では法隆寺所蔵の国宝「玉虫厨子(たまむしずし)」の側面に「捨身飼虎の物語」が描かれています。
チラスのインダス川沿いには、劣化はしているものの、その図を見ることができる岩刻画が残っています。
捨身飼虎(しゃしんしこ)ジャータカ Vyaghri-Jataka
昔、インドに3人の兄弟王子を持つ王様がいました。ある日、王と3人の王子たちは竹林に遊びに行きました。そこで7匹の子虎を連れた母虎と出会いました。親子共々飢えてやせ衰え、餓死寸前でした。3人の王子は深く憐みの心を抱きましたが、二人の王子は「救うことはできない」とその場を立ち去りました。3番目の王子は、「菩薩は慈悲の心でわが身を捧げ、他人を救う。私はこの身を捧げ飢えている虎の親子の命を救おう」と決心しました。王子はその身をゆだね、虎は王子を食べました。この虎の親子の命を救った王子こそが、お釈迦様の前世であった、という物語です。
捨身飼虎(しゃしんしこ)ジャータカや法隆寺の「玉虫厨子(たまむしずし)」については各お寺様のホームページなどで詳しく紹介されています。
かなり薄くなっていてわかりにくいのですが、下記がこの岩刻画のスケッチ。
図はこの岩刻画をスケッチしたものですが、横たわる王子と王子を食べようとしている虎のトラの親子、その様子を岩の陰から見ている父王と二人の兄弟王子を現しています。
この図のそばに書かれているブラフミー文字の解読により、この図が捨身飼虎(しゃしんしこ)Vyaghri-Jatakaであることも証明されているそうです。
「捨身飼虎(しゃしんしこ)」ジャータカの描かれている岩の全面です。中心に大きなストゥーパが描かれています。方形基壇の上に半球状の伏鉢、仏舎利を収めた容器、傘蓋、旗などガンダーラ様式の特徴が伺えます。上部インダス川では5世紀ごろが仏教の最盛期だったと考えられます。
残念ながらこの、尊い岩刻画もダムの完成によって失われます。残念、という言葉で片づけられるものではありません。この岩刻画の破壊は1960年代のカラコルムハイウェイの建設から始まり、道の拡張工事の度に破壊されてきました。さらには、一時期仏教のモティーフを好まない人々により上にペンキや石灰が塗られて失われたものもあります。
カラコルムハイウェイ沿いのペンキを塗られた岩刻画。中央の「アイベックスを追うユキヒョウ」の図は2020年12月に洗い落としたものです。
今回もかぎられた時間の中で塗られた岩刻画を洗う作業をしました。
これが現在の岩刻画の状況。右から文殊菩薩、宝冠仏陀とその右横に香炉かランプを持つ信者、ストゥーパが描かれています。三つ葉形のアーチが仏陀の全身を囲んでおり、カシミール様式で描かれています。
下記の写真はペンキが塗られる前の図です。
このパネルのペンキの洗い落とし作業を続けていきます。
この素晴らしい仏教徒の遺産を、ダムに水没する前にぜひ見に来てください。
Photo & text : Mariko SAWADA
Site : Chilas, Gilgit-Baltitstan
※記事について:古い書籍をもとに記事を書いています。別の見解や説明も存在するかと思います。勉強したいので是非お知らせくださるとうれしいです。Reference:”Human records on Karakorum Highway” “The Indus, cradle and crossroads of Civilization”
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