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幸福路のチー

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台湾

幸福路のチー

 

幸福路上 On Happiness Road

監督: ソン・シンイン
出演: グイ・ルンメイ、ウェイ・ダーション ほか
日本公開:2019年

2019.11.27

目が潤む、涙をのむ、懐かしむ―幸福の形を見つめ直す中年女性・チーの心象風景

台湾の田舎町で必死に勉強し、渡米してアメリカ人と結婚し子どもをつくり、一見順風満帆な人生を歩んでいる女性・チーは理想と現実のギャップに思い悩んでいる。

そんなある日、祖母の訃報を受けたチーは故郷の「幸福路」に久々に戻る。しかし、故郷の景色はすっかり変わってしまっていた。子ども時代の懐かしい思い出を振り返りながら、チーは人生や家族の意味について思いを巡らせる・・・・・・

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本コラム「旅と映画」では実写だけではなくアニメーション映画も紹介したいなと常々思っていましたが、『幸福路のチー』がその第1作目となりました。

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本作を観た印象を漢字一字で表すとすれば「懐」がふさわしいでしょう。部首のりっしんべんは「心」、旁(つくり)の上下は「衣服の襟元」、そして真ん中の部分は「目から涙が垂れている様子」を表した象形文字です。ポスターデザインも「懐」の漢字が意味するように、真っ白なシャツと水色の涙が映えるようなデザインになっていますが、本作は主人公・チーの目から流れる涙が物語の主軸になっています。

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チーは1975年生まれ。民主化へと向かう国内政治、中国との国際関係、9.11テロなど、さまざまな時代背景を盛り込みながらチーの過ごしてきた人生が描かれていきます。アニメーションのタッチは、観客の想像力が入り込めるような余白が設けてあり、観客は自身の思い思いの記憶を混ぜることができます。一方で、チーの思い出に引き込まれる場面では余白の割合が少なく、色彩も力強く放たれているように思えます。

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ソン・シンイン監督とは個人的に会ったことがあり、台北にある仕事場にもお邪魔したことがあります。京都大学に留学していたということで、日本語がとても上手い監督です。国や時間の境目を「懐かしさ」で越境していくスタンスは、日本のアニメーション作品に多大な影響を受けながら確立したと聞きました。

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未来への展望のしかたによって過去の意味合いは変わると信じさせてくれる『幸福路のチー』は11/29(金)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー。そのほか詳細は公式ホームページをご確認ください。

 

星空

a59ec4a06f064085(C)HUAYI BROTHERS MEDIA CORPORATION TOMSON INTERNATIONAL ENTERTAINMENT DISTRIBUTION LIMITED FRANKLIN CULTURAL CREATIVITY CAPITAL CO., LTD ATOM CINEMA CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED

台湾

星空

 

星空

監督:トム・リン
出演:シュー・チャオ、リン・フイミン、レネ・リウほか
日本公開:2017年

2017.10.11

旅先の星空のように、忘れられない思い出を求める少年少女の旅路

モネ・ゴッホなどの絵に囲まれて、台湾の都会で広々とした家に暮らす13歳の少女・シンメイはいつも孤独を感じていた。美術商の両親は出張で家を留守にすることが多く離婚寸前で、優しかった祖父も亡くなってしまったからだ。そんなある日、シンメイの学校にスケッチブックを抱えてさまよう不思議な少年・ユージエが転校してくる。

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孤独を共鳴させたシンメイとユージエは、この世でもっとも美しい星空を見るため、一緒に家出をする・・・

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日本でも素晴らしい星空に出会うことはありますが、海外の旅行先で出会う星空は、時に強烈に心に焼き付くものです。私がよく覚えている星空は、中国・青海省のまわりに何もないゴビ砂漠で見た満天の星空。そして、インドヒマラヤの懐深くに位置するザンスカールで、夕方から夜にかけて吹く谷風に吹かれる雲混じりの星空です。花火を間近で見た時のような、自分のところに降ってくるかのような大迫力の星空は、今でもはっきりと周囲の状況とあわせて思い出すことができます。

彗星群が近づいた時、花火を見る時・・・人々は足を止めて空を眺めます。地球が丸いとわかるずっと前から、人は夜・暗闇に畏怖の念を抱いていて、星空は守り神でした。『星空』の物語の中でも、現代社会の抱える孤独・不和・焦燥感・怒りを、星空がそっとかき消していきます。

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しかし、いくらきれいな星空を見て幻想的な気分になっても、必ず朝が来て現実に戻らなければいけません。そうした意味で、劇中で何気なく映し出される、シンメイが友だちとクレープを食べるシーンは印象的です。ただのファンタジー映画ですまさず、少女がクレープを食べるという日常のささやかな楽しみの中にも星空の美しさが宿っているということを伝えてくれる、とても美しいシーンです。

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日本から楽曲提供で参加しているworld’s end girlfriendと湯川潮音の、旅情をかきたてられる懐かしさを秘めたサウンドトラックも必聴の『星空』。10月28日(土)よりK’s cinemaにてロードショーほか全国順次公開。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

恋恋風塵

poster2(C)CENTRAL MOTION PICTURE CORPORATION 1987

台湾

恋恋風塵

 

戀戀風塵

監督:ホウ・シャオシェン
出演:ワン・ジンウェン、シン・シューフェンほか
日本公開:1987年

2017.5.24

日本人だからこそピンとくる、古き良き時代の台湾の情景

舞台は1960年代の台湾。鉱山の村・九份で幼いころから兄妹のように育ったワンとホン。中学を卒業したワンは台北に出て働くことになり、ホンも1年後台北に出て働き始める。台北に出てからも互いに励ましあい、2人の間にはいつしか恋心が芽生える。そんなある日、ワンのもとに兵役の知らせが届く。ホンとの結婚を考えていたワンは、毎日手紙を書くと約束し、自分の宛名を書いた千通の封筒を託す・・・

ワンとホンの出身地に設定されている九份という場所は、『千と千尋の神隠し』(2001年)で主人公の千尋が滞在することになる旅館・油屋のモデルとして有名ですが、それより前にホウ・シャオシェン監督の本作と『悲情城市』(日本公開:1990年)で一躍有名になりました。

東京・神保町をメインロケ地とした『珈琲時光』(2004年)を監督するなど、日本との関わりも深いホウ・シャオシェン監督が描き出すゆったりとした情緒あふれる映像は、「旅」の雰囲気に満ちています。

本作で特に印象的なのは、電車・駅・線路など、鉄道に関わるシーンです。電車がトンネルを抜けていく、線路の上を男女が歩く、電車を待つ、駅で待ち合わせをする、信号が切り替わる、出発した駅に戻ってくる・・・そうしたフレーム内のささやかな運動の積み重ねが、深く大きい(「潮流」とも例えれるような)情感を映画にもたらしています。

台湾では日本の植民地時代に鉄道が整備されたこともあり、撮影当時の駅舎の雰囲気や電車の車両などに共通点を多く見つけることができます。そのため、駅に電車が入ってくるシーンなどは、まるで昭和の日本の映画を見ているような感覚になります。ホウ・シャオシェン監督は、『珈琲時光』など他の映画でも鉄道に関わる要素を多くストーリーの中に組み込んできましたが(『珈琲時光』では浅野忠信演じる肇が電車マニアの設定)、本作の劇中には特に日本人の観客に懐かしさを感じさせてくれる光景が広がっています。

ノスタルジックな気分に浸ってみたい方、栄える前の九份が見てみたい方、鉄道好きな方にオススメの一本です。

台湾最高峰・玉山(3,952m)登頂

コンパクトな日程で最高峰登頂と下山後の温泉も楽しむ旅 5日間コースでは九份も訪問。

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九份

狭い路地の階段に沿って建つ建物に、提灯が灯る夕暮れ風景をお楽しみください。

湾生回家

3f957571fe6dd0c9(C)田澤文化有限公司

台湾

湾生回家

 

湾生回家

監督: ホァン・ミンチェン
出演:冨永勝、家倉多恵子、清水一也、松本洽盛、竹中信子、片山清子 他
日本公開:2016年

2016.10.26

故郷は台湾、国籍は日本
6人の湾生の心を探るドキュメンタリー

1895年の下関条約締結から終戦の1945年まで、台湾は日本の統治下にありましたが、この間に台湾で生まれ育った約20万人の日本人は湾生(わんせい)と呼ばれます。「回家」の「回」は中国語で「帰る」という意味を持ち、本作『湾生回家』は湾生たちがそれぞれの思い出を胸に、心から愛してやまない台湾を訪れるドキュメンタリー映画です。

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湾生たちの多くは敗戦後も台湾にそのまま住んでいたいと願っていたそうですが、ほとんどの人々が日本に強制送還されました。この映画では台湾を去った湾生とともに、台湾に残った湾生も紹介されていて、戦争の終結という歴史的出来事が人々の人生にどのように影響してきたのかを映し出しています。

旅に出る目的の中でも、自分のルーツを振り返る旅であったり、思い出を探し求める旅というのは美しく、また時に悲しいものです。「回家」という単語が示す通り家に帰るのであれば「ただいま」と言えますが、台湾を去った湾生にはそうした帰る家は残されていません。かわりに自分と同様に年齢を重ねた同志や、友人の子どもや、自然の景観に触れ合っていきます。

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劇中では数十年来の感動的な再会、70年・80年のあいだ家族の墓を探し求めてきた人の姿、戸籍という文字の資料が一人の人間の中に眠っていた感情を涙が溢れるほどに喚起させる場面に遭遇することができます。

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戦後70年以上がすぎ、人々から忘れられようとしている湾生の人々に目を向けることで私たちは何を学ぶことができるでしょうか。湾生を生んだのは戦争です。日本が台湾を統治したこと、湾生たちが台湾を離れなければいけなかったこと、そのどちらにも戦争が関わっています。 たとえば、現在ヨーロッパでは中東や北アフリカなどからの移民が大きな社会問題となっていますが、日本人にとってそれはどうしても実感がわきにくい問題です。かつて日本と台湾の間で何が起こったのか、そしてどのように人々が交流してきたのかを振り返ることで、そうした現在の諸問題に対して日本人らしい関わり方を持てるかもしれないと私は思いました。

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湾生の人々の儚く美しい思い出に触れることで、きっと自分の故郷への思い出も湧き出てくることでしょう。

『湾生回家」は11/12より岩波ホールほかにてロードショー。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

天空からの招待状

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台湾

天空からの招待状

 

看見台湾

監督:チー・ポーリン
出演:西島秀俊(日本語版ナレーション)、ウー・ニエンジェン(オリジナルナレーション)
日本公開:2014年

2016.10.19

全編空撮!
上から台湾を見て、内から自分の心を探る

高い場所に来て街の景観を眺めるという経験は、海外だけではなく国内の旅行でもおそらく一度はどなたもされたことがあるかと思います。また、飛行機で窓側を必ずリクエストされる方は、空から景色を見ることの醍醐味を既にご存知でしょう。

街並みや自然をじっくりと眺める…その時に何を思うかは人それぞれですが、日常における些細な悩みや、何か案じていることがある時に心が晴れるような気持ちになったことがある方は多いのではないかと思います。

この映画を監督したチー・ポーリン監督は長年にわたり航空写真家として活躍してきて、誰よりも台湾の国土のことを知り、そして台湾を愛する人物です。初監督作品にもかかわらず約90分全編空撮という前代未聞の形で、台湾の国土から全世界に問題を投げかけるドキュメンタリーを撮ることに成功しました。

日本人にとって懐かしくなってしまうような田園風景、雄大な山(玉山・雪山の素晴らしい映像もたっぷりと含まれています)や海の景観、農作業から都会の人々の営みまで…3年かけて地道に撮影したという映像は数々の奇跡的な光景がおさめられています。一方、気候変動・エネルギー問題・ごみ問題・山地住宅開発などによる環境破壊など、目を背けたく成るような台湾社会の憂慮も、美しい光景を見つめてきた視線と同じままで見つめていきます。この映画に映し出される映像は、さながら神の視線を体現しているかのようです。

『天空からの招待状』は台湾では2013年の年間興行ランキング第3位になるなど大ヒットを記録しましたが、この作品の原題は『看見台湾』というタイトルです。言葉のリズムなど詩的な理由もあるということですが、ただ「見」るだけでなく、「看る」と「見る」という二つの言葉を重ねることで、鑑賞者の心の中をも映し出そうとしているようにも思えます。鳥になったような気分で台湾を眺めて、何が自分の心に思い浮かんでくるか楽しみにご覧ください。

 

台湾最高峰・玉山(3,952m)と
第二の高峰・雪山(3,886m)登頂

台湾五岳の最高峰・玉山と第二の高峰・雪山を登頂するよくばりコース。主峰を含む11連峰の見事な山容の玉山、対照的に、尾根上に広がる草原や森など変化に富んだルートを歩く雪山。どちらも台湾の山旅を十分に満喫できるトレッキングコースです。