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ぼくたちの哲学教室
監督:ナーサ・ニ・キアナン デクラン・マッグラ
出演:ケビン・マカリービーケビン・マカリービー、ホーリークロス男子小学校の生徒たち
日本公開:2023年
北アイルランドの苦難が生んだ、子ども・大人関係なく「一緒に悩める」場
北アイルランド紛争によりプロテスタントとカトリックの対立が繰り返されてきたベルファストの街には、現在も「平和の壁」と呼ばれる分離壁が存在する。
労働者階級の住宅街に闘争の傷跡が残るアードイン地区のホーリークロス男子小学校では「哲学」が主要科目となっており、「どんな意見にも価値がある」と話すケビン・マカリービー校長の教えのもと、子どもたちは異なる立場の意見に耳を傾けながら自らの思考を整理し、言葉にしていく。
宗教的、政治的対立の記憶と分断が残るこの街で、哲学的思考と対話による問題解決を探るケビン校長の挑戦を追う。
本コラム「旅と映画」にはまだまだ取り上げていない国がたくさんありますが、今回は初の北アイルランド関連作品です。僕自身は学生時にイギリスで学んでいたとき「こんな機会でもなければ行かないだろう」と思いアイルランドまでは行ったのですが、アイリッシュ音楽の関連地を巡るだけにとどまりました。
厳密に言うと、頑張れば行けたのですが、当時は世界史・現代史を重点的に学んでいて「IRA」というイメージが強く北アイルランドにあったため、最後の一歩が出なかったのをよく覚えています。
その僕の感覚は、あながち間違いではなかったのだと本作を観て思いました。いわゆる「北アイルランド問題」は2020年代(ちょうどコロナ禍になる前後にロケがされ、一部コロナ対応の描写もあります)においても依然として問題・課題を市民や子どもたちに突きつけています。
宗教対立についてどう思うか等、かなり抽象的かつ難解な問いを小学生たちがわからないながらも語る姿はとても堂々としています。
自分たちの言葉でしっかりと語っていますし、主人公の一人と言える校長先生やベテランの先生が「問題行為」に対処をしている光景を間近でカメラにおさめていることから、撮影クルーの学校・被写体に対するコミュニケーションや、本作の撮影を受け入れている学校・保護者たち・子どもたちの寛容さを感じます。
「日本人の子どもたち・大人たちははこんな風に振る舞えるだろうか」という感想も多く出てきそうな本作ですが、校長先生のような「哲学的問い」を投げかける人物がコミュニティに誰かしらいれば、胸の奥に秘めている思いが発露され、皆が共進化していくのではないだろうかと感じました。そうした波及効果とでも呼ぶべき「思いの伝播」が本作にはとらえられています。
こども家庭庁も発足し、「子どもの意見表明・意見形成権」等をはじめとした「子どもの権利」に対する理解促進がおこなわれていくはずの2023年にぴったりな『ぼくたちの哲学教室』は5/27(土)よりユーロスペースほか全国順次公開。その他詳細は公式HPよりご確認ください。