タグ別アーカイブ: レバノン

存在のない子供たち

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レバノン

存在のない子供たち

 

Capharnaum

監督:ナディーン・ラバキ―
出演:ゼイン・アル=ラフィーア、ヨルダノス・シフェラウほか
日本公開:2019年

2019.7.17

「存在しないはずの少年」を苦しめる、レバノン社会の歪み

レバノンの法廷で、12歳の少年・ゼインが「僕を生んだ罪で両親を訴えたい」と口にする。なぜゼインはそうするに至ったのか? そう観客に疑問を抱かせながら、物語は幕を開ける。

サブ1

ゼインは両親が出生届を提出していないため、IDを持っていない。ある日、ゼインの妹が年上の男性と強制的に結婚させられたことで、日々溜まっていたゼインの怒りは爆発し、家を飛び出す。

サブ3

仕事を探しにさまようゼインは、沿岸部のある町でエチオピア移民の女性・ラヒルと出会う。ラヒルは寝食に困っているゼインを自宅に泊まらせ、ゼインはラヒルの赤ん坊を世話をして危機をしのぐ。こうして、ゼインの新しい日常が始まるが、それもそう長くは続かず・・・

サブ2

旅ををすることで得られる喜びのひとつは、「世の中にはこんな場所があるのか!」「世の中にはこんな生き方の人がいるのか!」といった、未知のものと出会う驚きにあると思います。「驚き」というのは、ワクワクするようなポジティブさをもって語られる場面が多いですが、人は圧倒的な惨状・困窮状態などを目にした時にも、言葉に詰まるような、悲しみを伴った驚きを感じます。

サブ7

本作で観客が感じる驚きは、その両方が複雑に混ざって容易には消化できないものとなるでしょう。一方で、隣国・シリアやアフリカからの押し寄せる難民を抱えるレバノン社会問題の深刻さに、言葉を失うような驚きを感じます。しかし他方で、12歳の少年が大人を凌駕する力強さで状況を打開していく圧倒的なエネルギーに驚き、勇気をもらうことができます。

サブ8

とはいえ、まだ12歳のゼイン少年は「大人の壁」にぶつかり涙を見せることがあります。その涙は彼が自分の心の中を隅から隅まで旅した証で、観客は彼から見た世界の広大さをそこに見出すことができるでしょう。

メイン

『存在のない子供たち』は、7/20(土)よりシネスイッチ銀座、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

荘厳のバールベック レバノン一周

古代遺跡から緑豊かな自然まで、多様な見どころが点在しているレバノン。その魅力を余す所なく楽しんでいただく8日間です。国土が岐阜県ほどの大きさしかないため、移動距離も少なくゆったりとした日程です。

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ベイルート

レバノンの首都で、経済・政治の中心地。人口は約180万人。住民はキリスト教徒、イスラム教徒が共存しており、文化的に多様な都市の一つともなっています。1975年から15年に渡る内戦によりイスラム教徒地区の西部と、キリスト教徒地区の東部に分割されています。

セメントの記憶

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レバノン

セメントの記憶

 

Taste of Cement

監督:ジアード・クルスーム
出演:シリア人移民・難民労働者たち
日本公開:2019年

2019.2.6

きらびやかなベイルートにそびえ立つ、
「透明な」ランドマーク

舞台はレバノンの首都・ベイルート。かつて「中東のパリ」とも呼ばれたベイルートは、1975年から15年続いた内戦を乗り越え、経済成長の真っ只中にある。

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地中海沿いのにぎやかな通りを望む高層ビルの建設現場で、黙々と働くシリア人移民・難民労働者たち。勤務中も勤務終了後も、彼らは口を開くことなく、心の殻に閉じこもったまま過ごしている。レバノンへ亡命したシリア人監督 ジアード・クルスームは、彼らの心の内を想像する・・・

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カメラは映画において観客の「目」となりますが、そこに映らないものがあります。それは、匂いです。映らないので、映画という言語によって「匂わせる」しかありませんが、本作は全編に渡ってセメントの無味乾燥とした匂いが(無味乾燥という言葉と矛盾するようですが)強烈に香ってきます。

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私は本作を見ながら、インドのアジャンタ石窟寺院・エローラ石窟寺院を訪れたときに感じた不思議さを思い出しました。石窟寺院とは、建てたのではなく、岩壁や丘陵をくり抜いて作った寺院です。特にエローラで一番有名なカイラサナータ寺院は圧巻で、8〜9世紀頃に100年をかけてつくられたと言われています。立派な寺院は残っていますが、それを作った何千・何万人の心の内は想像するしかありません。

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「何のために?」と労働者が考えた時、神という力強い存在が当時はあったのでしょう。1000年以上前につくられたとは思えない寺院ですが、むしろ、現代人には再現不可能なのではないかと思いました。同じ程度のものつくりきるために、一致団結することができないからです。

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本作はそんな複雑な感覚を観客に味あわせてくれます。ベイルートの絶好の立地に、見張り台のように建つビル。その中で何が起こっているのか、人々は考えずに通り過ぎていきます。まるで存在しないかのように扱われている労働者たちが、そこに意思なくビルを建てていきます。「何のために?」という思いが欠落して建てられたビルは、どんな未来をつくりだすのでしょうか。

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監督はその未来を、故郷の土をなくしても依然として心にあり続ける、破壊しつくされても立ち上がろうとする、郷愁の念に託しました。シリアの惨状も劇中で多く示されますが、本作の詩的な映像の連なりは負のイメージではなく、レバノンやアラブの歴史・風土の魅力について目を向ける機会にもつながるはずです。

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『セメントの記憶』は、3/23(土)よりユーロスペースほか全国順次ロードショー。詩的な雰囲気が感じられる予告編はこちら。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

荘厳のバールベック レバノン一周

古代遺跡から緑豊かな自然まで、多様な見どころが点在しているレバノン。その魅力を余す所なく楽しんでいただく8日間です。国土が岐阜県ほどの大きさしかないため、移動距離も少なくゆったりとした日程です。

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ベイルート

レバノンの首都で、経済・政治の中心地。人口は約180万人。住民はキリスト教徒、イスラム教徒が共存しており、文化的に多様な都市の一つともなっています。1975年から15年に渡る内戦によりイスラム教徒地区の西部と、キリスト教徒地区の東部に分割されています。

判決、ふたつの希望

46afd7e15996fdc6(C)2017 TESSALIT PRODUCTIONS – ROUGE INTERNATIONAL – EZEKIEL FILMS – SCOPE PICTURES – DOURI FILMS
PHOTO (C) TESSALIT PRODUCTIONS – ROUGE INTERNATIONAL

レバノン

判決、ふたつの希望

 

L’insulte

監督:ジアド・ドゥエイリ
出演:アデル・カラム、カメル・エル=バシャほか
日本公開:2018年

2018.10.10

レバノン社会に山積した負の感情が、希望に生まれ変わる時

レバノンの首都・ベイルートで自動車修理工場を営むキリスト教徒のレバノン人・トニーと、住宅補修に従事するパレスチナ難民・ヤーセル。水漏れを直しにきたヤーセルの対するトニーの粗野な対応は、ヤーセルの「クズ野郎」という一言を招き、トニーはそれに対して謝罪を要求する。

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そして、二人のこの些細な口論は裁判に発展してしまう。両者の弁護士が論戦を繰り広げメディアの報道も加わり、事態はレバノン全土を巻き込む騒乱へと発展していく・・・

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旅をすることで素晴らしい歴史・文化を知ったり、景観を眺めたり、人々と交流したりすることは私たちの感性に大きな影響を与えてくれます。しかし、旅をするだけでは感じ取るのが難しいこともあります。その一つは、人々の本音です。

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最近私は編集作業のため経済制裁中のイランに行き、様々な困難や国を出ようとしている人々の話を聞きましたが、心の中にある不安や記憶というのは基本的に「潜んでいる」ものです。町を歩いたり、ひとときの交流の中で何かそうしたことがキャッチできるかと言うと、なかなか難しいといえるでしょう。

本作は、日本人にはなかなか踏み入れがたいパレスチナ問題の実像を、感情面からわかりやすく私たちに示してくれます。「この映画を見ればパレスチナ問題がわかる」というわけでは決してありません。しかし、MeTooムーブメントのようなSNSによる急速な情報の拡散、そして同調の気運が日常的になった私たちに、本作はパレスチナ問題が決して理解不能ではないということを気づかせてくれます。

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わからなく掴み難い状態はそのままで、なんとなく「こういうことか」と思わせてくれる。それだけでも理解促進において大きな一歩ではないかと私は思います。

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そして何より本作の価値は、暗くなりがちな題材を、邦題にある通り「希望」を以って描いている点にあります(原題は「侮辱」の意)。パレスチナ問題に対して様々な立場が渦巻く中で、勇気と信念がある制作者だけがこうした作品を作ることができます。それは決して映画の制作者にとってだけ重要なものではなく、生きるパワーとして観客に伝わるものなのではないかと思います。

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全国で絶賛上映中の『判決、ふたつの希望』、上映詳細等は公式ホームページからご確認ください。

レバノン一周

レバノンが誇る5つの世界遺産 レバノン杉の森や数々の歴史遺産が残るレバノンを巡る8日間

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ベイルート

レバノンの首都で、経済・政治の中心地。住民はキリスト教徒、イスラム教徒が共存しており、文化的に多様な都市の一つともなっています。

キャラメル

149985_01(C)Les Films des Tournelles – Les Films de Beyrouth – Roissy Films – Arte France Cinema

レバノン

キャラメル

 

سكر بنات

監督:ナディーン・ラバキー
出演:ナディーン・ラバキー、ヤスミン・アル・マスリーほか
日本公開:2009年

2016.12.14

「中東のパリ」レバノン・ベイルート
色とりどりの憂鬱を持った女性たちの物語

レバノンの首都・ベイルートにあるエステサロンで、おいしそうなキャラメルがぐつぐつと煮られているシーンからストーリーが始まります。

エステサロンの経営者で妻子持ちの恋人がいるラヤール(監督のナディーン・ラバキーが演じています)、恋人との結婚を控えたニスリン、男性が苦手なリマ、女優志望の中年主婦ジャマル、老いた姉と住むローズ・・・20代の若者から年輩まで、恋愛から老いの悩みまで、幅広い年齢の女性たちそれぞれの憂鬱に焦点をあてながらも常にいくらかの希望を携えて物語は進んでいきます。

この映画を見て初めて知りましたが(むしろ特に男性にとっては、見るまで知らなくてあたり前かもしれませんが)、中東の国々ではキャラメルがムダ毛処理のために使われることがあるそうです。甘い砂糖をぐつぐつと煮てキャラメルをつくり、苦すぎるコーヒーを飲むように顔を歪めてそのキャラメルを使う・・・この小さくも意味深い文化のように、レバノン人女性たちのほろ苦くも美しい生き方が映し出されていきます。

この映画の特筆すべき点は、1975年から1990年まで続いたレバノン内戦のことや内戦中にベイルートが東西に分裂したことに一切言及していないことです。

「中東」という言葉や中東諸国の国名は、いまだなお多くの日本人に戦争やテロなどネガティブな事柄を連想させる言葉にとどまっています。世界には道を歩いていると撃たれたり拉致されてしまう場所も確かにあります。距離や関心の問題でそうでない地域にもそのイメージが波及して、偏見が生まれてしまうことは避けがたいかもしれません。

たしかにベイルートでもテロは過去にありました。この物語はそうした事実がさもないかのように進んでいきます。無視しているということではなく、カメラのレンズで焦点を絞るように、レバノンに暮らす女性たちの悩みや希望に焦点を合わせているのです。多くの映画がベイルートを危険な街として描いてきた中で、この作品はそれにつられず真摯に人間そのものを描ききり、キリスト教とイスラム教が共存してきた歴史や、コーヒー占い(コーヒーの沈殿物の模様で運勢を占います)など庶民の文化をさりげなくストーリーに散りばめています。

この映画を見れば明らかですが、ベイルートの街でも日本と同じように普通の人々が普通の日常を送っています。その事実を映画を以って世界中の人々に知らせることができるというのはとても素晴らしいことだと、映画という媒体そのものの良さ・大切さを感じることができる作品でもあります。

レバノンの首都の日常を見てみたい方、アラブ人女性の悩みに共感できるかどうか試してみたい方にオススメの一本です。

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ベイルート

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