タグ別アーカイブ: モロッコ

青いカフタンの仕立て屋

(C) LES FILMS DU NOUVEAU MONDE – ALI N’ PRODUCTIONS – VELVET FILMS – SNOWGLOBE

モロッコ

青いカフタンの仕立て屋

 

THE BLUE CAFTAN

監督:マリヤム・トゥザニ
出演:ルブナ・アザバル、サーレフ・バクリ、アイユーブ・ミシウィ ほか
日本公開:2023年

2023.6.7

ペトロールブルーは熱い色―ベテラン仕立て屋夫婦の人生と、モロッコのジェンダー

モロッコ、海沿いの町、サレ。旧市街(メディナ)の路地裏で、25年連れ添った夫婦・ミナとハリムは小さな仕立て屋を営んでいる。

家業を継いだハリムは女性を美しく包むカフタン作りの伝統を守り続けてきた。夫の技術と人柄に惚れ込むミナは、完璧を求めるあまり作業が遅れがちなハリムを急かしつつ、完成を心待ちにする女性たちとのやりとりを楽しんでいた。

ある日、2人はユーセフと名乗る若い男を助手として雇い入れる。より紐作りも刺繍も慣れた手つきでこなし、古い手刺繍を愛でる審美眼もある。

ハリムはユーセフを気に入り、豪奢なカフタン制作に参加させることにした。しかし、その順調さにミナは嫉妬を抱く・・・

本コラムで以前ご紹介した『モロッコ、彼女たちの朝』の監督の最新作。前作ではマラケシュの町にあるパン屋さんを軸に、場所はほとんど動かないまま物語が展開されていました。本作についてもそのスタイルは踏襲されています(ちなみに主演の女優さんも続投しています)。

仕立て屋からほとんど動かずに、現代モロッコの伝統文化と近代化の相克、ジェンダー、LGBTQ当事者たちの葛藤が描れています。

物語が進むにしいたがって、ミナは乳がんで死期が近く、ハリムは同性愛者であることをひた隠しにしていることが明らかになってきます。

まったく作風は違うのですが、『アデル、ブルーは熱い色』という2013年のフランス映画(監督はチュニジア出身)を思い出しました。『アデル〜』はクローズアップ・手持ちカメラを多用してレズビアンの若者2人の出会いと別れを描いた作品なのに対し、本作は静かで滑らかなカメラワークを基調として中年夫婦を描いています。

両作がまず似ている点は、青という色がテーマなことです。本作ではただの青ではなくて「緑と青の中間」のような色であるブルー(ペトロールブルー)がシンボルカラーになっています。抑えつけられている感情や、ジェンダーマイノリティの立場など、作中の様々なエッセンスを象徴しているように思えました。

また、食事シーンが官能的であることも似ています。『アデル〜』は若さや恋心の表現を食事シーンが助長していましたが、本作ではミナが体調を崩した時、青の補色であるオレンジ色のタンジェリン(マンダリンオレンジ)をミナが口にしたり、タジンやルフィサなどの伝統食がストーリーにしっかり紐づいているなど、ただの「食事シーン」ではない綿密な計算された演出がなされていると感じました。

ちなみにロケ地のサレという町は、西遊旅行のツアーでも訪れる大西洋沿いの町・ラバトの近郊にある小さな町だということです。ラバトには行ったことがあるのですが、海辺のキレイなシーンが終盤にあり「この町にも行ってみたかった」と思いました。

未だ見ぬモロッコをみせてくれる『青いカフタンの仕立て屋』は6月16日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町・新宿武蔵野館ほか全国公開。その他詳細は公式HPをご確認ください。

サハラ砂漠と青の町シャウエン モロッコ周遊の旅

シャウエンやマラケシュでは旧市街の中、フェズでは全客室から世界遺産の旧市街ビューを、メルズーガでは砂漠を眺めるだけでなく、サハラの中で宿泊。観光だけでなく滞在にも趣向を凝らした西遊旅行ならではの旅をお楽しみください。

モロッコ、彼女たちの朝

2f79f1c9d18b00f3(C)Ali n’ Productions – Les Films du Nouveau Monde – Artemis Productions

モロッコ

モロッコ、彼女たちの朝

 

Adam

監督:マリヤム・トゥザニ
出演:ルブナ・アザバル、ニスリン・エラディほか
日本公開:2021年

2021.8.18

大都市・カサブランカの片隅で、傷を癒やしあう2人のムスリマ(ムスリム女性)

臨月のお腹を抱えてモロッコの大都市・カサブランカの路地をさまようシングルマザーのサミアは、美容師の仕事も住居も失い途方に暮れていた。

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めげずに必死で稼ぎ先を探すも断られ続けていたサミアに救いの手を差し伸べたのは、小さなパン屋を営む一児の母・アブラだった。

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アブラは夫を事故で亡くし、幼い娘との生活を守るため、粛々と働き続けていた。パン作りが得意でおしゃれなサミアの存在は、孤独だった母子の日々に変化をもたらしはじめる・・・

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もう13, 4年前のことですが、私はモロッコを縦断する旅をしたことがあります。当時はイギリスに留学中だったのですが、格安航空でロンドンから古都・マラケシュから入り、サハラ砂漠を体験したあと北上して迷宮のような王都・フェズと近隣の古都・メクネス、青の町・シャウエン、港町・タンジェからジブラルタル海峡を渡ってスペイン・アンダルシア地方に渡るという行程でした。

本作の舞台になっているカサブランカは詰め詰めの行程だったためスキップしてしまったのですが、北上するときに電車の車窓から町の様子を眺めて「大都市だな」という印象を持ったのをよく覚えています。しかし、サミアとアブラを中心に描かれる本作の世界(行動範囲)はかなり狭いです。一番距離的に遠い場所は、おそらく町外れにある長距離バスのバスターミナルではないかと思います。

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SNS映えするような観光名所が数多くあるカサブランカですが、本作に登場する観光スポットはカサブランカの旧市街のみです。モロッコの観光地となるような都市にはだいたいメディナと呼ばれる迷路のような旧市街があるのですが、サミアは映画の冒頭、メディナで文字通り路頭に迷っています。

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迷うサミアの姿の大部分は、かなり極端なクローズアップで映されます。つまり、移動距離だけではなく、登場人物たちが行動する空間も狭く見えるように演出されているということです。実際、ワイドショットやロングショット(遠くから撮った広いフレーミング)はほとんど無く、一番広がりを感じるショットはアブラの住居の屋上にある洗濯場だったように記憶しています。

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これらの演出はすべて、モロッコにおける女性の境遇を表現するためなのでしょう。全体を通じてとても静かで穏やかな映画なのですが、小さい、狭い、限られた裁量や権利しか女性に認められない現状に対する、作り手の強いプロテストがストーリー奥底にこめられていると私は感じました。

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タジンなどが一時ブームとなったモロッコ料理の、よりローカルなメニュー(クレープのようなムスンメン、パンケーキのようなルジザ)も知ることができる『モロッコ、彼女たちの朝』は、8月13日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか、全国公開中。その他詳細は公式HPをご確認ください。

サハラ砂漠と青の町シャウエン モロッコ周遊の旅

シャウエンやマラケシュでは旧市街の中、フェズでは全客室から世界遺産の旧市街ビューを、メルズーガでは砂漠を眺めるだけでなく、サハラの中で宿泊。観光だけでなく滞在にも趣向を凝らした西遊旅行ならではの旅をお楽しみください。

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カサブランカ

人口約320万人を擁する北アフリカ最大の商業都市カサブランカ。映画「カサブランカ」で一躍その名前が有名になりました。カサブランカの歴史は古く、12世紀のムワッヒド朝時代にはすでに貿易港として栄えていました。一時ポルトガルによって破壊されましたが、18世紀に再建され、スペイン商人らがこの町に住み着くようになりました。それまで町はアラビア語で「ダール・バイダ(白い家)」呼ばれていたのですが、それがスペイン語に翻訳されて「カサブランカ」と呼ばれるようになったのが町の名前の由来です。1907年のフランスによる占領後、外国人の住民が増え、ヨーロッパの影響を色濃く受けるようになりました。

オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライブ

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モロッコ

オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ

 

Only Lovers Left Alive

監督: ジム・ジャームッシュ
出演: トム・ヒドルストン、ティルダ・スウィントン、ミア・ワシコウスカほか
日本公開:2013年

2016.11.2

数世紀に渡るヴァンパイアの記憶と、
港街・タンジールの息吹

舞台はアメリカのデトロイトと、モロッコのタンジール。ヴァンパイアのアダムはアメリカのデトロイトで匿名ミュージシャンとして活躍しています。恋人で同じくヴァンパイアのイヴは、モロッコのタンジールで老年のヴァンパイア作家を匿いながらひっそりと暮らしていますが、アダムを訪ねデトロイトへやってきます。数世紀に渡る命を持っているヴァンパイアの彼らであっても、やはり久々の再会は会話を弾ませ、夜の街や楽器に溢れたアダムの家の中で他愛のない会話に花が咲きます。そこに、イヴの妹・エヴァが転がり込んできて、ふたりの大切な時間が徐々にかき乱されていきます…

本作はほかのヴァンパイア映画にみられるようなホラーシーンがほとんどなく、iPhoneやインターネットを使いこなすヴァンパイア同士のウイットのきいた会話が中心であるというとても珍しい映画です。「モーツァルトの弦楽五重奏曲第一番は実は自分が作曲した」とアダムが言うなど、歴史上の人物にからんだエピソードも登場してコミカルな部分も見られますが、人間の何倍もの長さの寿命を持つヴァンパイアの視点から「命とは何か」ということが語られる不思議なドラマです。

その独特な雰囲気を後押しするのが、仄暗いデトロイトの街並みと、そしてなんといってもタンジールの街並みです。私自身もタンジールの街には思い出があります。12月半ばからクリスマスにかけてモロッコを旅行し、あえてクリスマスはタンジールで過ごし、12月26日にフェリーでタンジール港から1時間半くらいであっという間にスペインのアルヘシラス港に渡りました。当然ながら、モロッコではクリスマスの日には特に何も起こらない普通の日で、スペインに入るとクリスマスの余韻が街に残っていました。ローマ帝国時代や、レコンキスタの時代から様々な歴史の蓄積がある街ですが、文化の境目に自分が立っているかのような、五感で街の歴史を感じ取れるような街でした。

また、タンジールのシーンで登場するレバノン人歌手、ヤスミン・ハムダンの美しい歌にも注目です。

一風変わったヴァンパイア映画を見てみたい方、タンジールの不思議な雰囲気に浸ってみたい方にオススメの映画です。