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禁じられた歌声

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マリ

禁じられた歌声

 

Timbkutu

監督:アブデラマン・シサコ
出演:イブラヒム・アメド・アカ・ピノ、トゥルゥ・キキほか
日本公開:2015年

2023.1.4

マリ共和国・トンブクトゥで、2012年何があったのか?―「遠く」に思いを馳せる

ティンブクトゥ近郊の街で暮らす音楽好きの男性キダーンは、妻・サティマ、娘・トーヤ、12歳の羊飼い・イッサンと共に幸せな毎日を送っていた。ところがある日、イスラム過激派が街を占拠し、住人たちは音楽もタバコもサッカーも禁じられてしまう。

住人の中にはささやかな抵抗をする者もいたが、キダーン一家は混乱を避けてトンブクトゥに避難する。しかし、ある漁師がキダーンの牛を殺したのをきっかけに、彼らの運命は思いがけない方向へと転がっていく。

あけましておめでとうございます。2023年は「遠く」に気兼ねなく行ける年になりそうだと予感しています。実際僕自身も、この3年パッタリ流れがなくなっていた海外出張の波が、昨秋の釜山・今月のシンガポールときています。僕は今福岡に住んでいますが、海外から来た旅行客の方を見かけることも日々増えてきました。

「遠く」というと思い浮かべるのが、僕にとってはマリ共和国なので、今回はマリを舞台にしたフランス・モーリタニア合作の本作をご紹介できればと思います。

詳しく文化や歴史を知っているわけではないのですが、西遊旅行での勤務経験や写真・ドキュメンタリーで得た知識から、マリ(特にトンブクトゥ)にはぜひいつか訪れたいと思い続けています。マリのティナリウェンというトアレグ族のバンドが好きなこともあるかと思います。僕が西遊旅行に勤務していた2011年時点ではマリのツアーは催行されていましたが、2012年のマリ北部紛争が勃発したのを契機に、段々とマリは訪れにくい、色々な意味で「遠い」国になっていったように思えます。

本作は2012年にマリ北部・アゲルホクで実際に起きた、イスラム過激派による若い事実婚カップルへの投石公開処刑事件に触発されて、2014年に制作された映画です。イスラームの戒律やイスラーム法が、現代社会の慣習や土着文化と衝突するというのが本作のあらすじで、そう言っていいのかわかりませんが、映画のストーリーテリングでは(特にイスラーム圏の映画では)「よくある」設定です。

本作が単に「よくある映画」にとどまっていなく、フランスでは100万人を動員したのは、特異なドキュメント性があるためです。フィクションの物語ではあるのですが(特に多少なりともマリの情勢に関する知識があるならば)、一体どうやって撮影が成立したのだろうと思うようなシーンの連続です。

言語・風貌的に明らかに「地元」の人々によって、明らかにセットではない「現地」で、明らかにごく最近あったけれども「遠く」の手が届かない彼方にあるかのような出来事が、演技によって再現されていきます。特に、フランス映画的なユーモアが散りばめられた、軽やかな笑いに満ちたシーンが冒頭にあるのはなんとも皮肉です。

2023年は「遠く」にいけるようになると共に、隔たり・衝突といった「遠さ」が少しでも緩和・解決されていくように願いながら本作をご覧いただければ、決して明るくはない本作を楽しみながらご覧いただけると思います。2023年もワールド映画の情報をコツコツお届けできればと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

「黄金の都」トンブクトゥ

砂漠の民の宿営地として誕生し、やがてマリ帝国の時代には「黄金の都」と呼ばれるまでに繁栄したトンブクトゥ。サハラ砂漠の西部で採掘された岩塩は、何十日もかけてトンブクトゥに運び込まれ、ニジェール川を遡りセネガルで金と交換されました。そしてその金はキャラバンによってトンブクトゥへ運ばれたのです。 18世紀、ヨーロッパの探検隊はこの「黄金の都」を目指して旅に出ました。 現在のトンブクトゥは、砂漠の侵食によって街は急速に衰退し、現在も街は砂に埋もれつつあります。日干し煉瓦の住居や独特の形をした泥のモスクに、多くの探検家が探し求めた幻の黄金都市の栄華の跡を訪ねることができます。また、ラクダに乗ってトンブクトゥ郊外の遊牧民トアレグ族の村も訪問し、厳しいサハラの環境に暮らす砂漠の民の生活を垣間見ることもできます。