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ポルトガル、夏の終わり
監督:アイラ・サックス
出演:イザベル・ユペール、ブレンダン・グリーソン
日本公開:2020年
人生という光を、観る―ポルトガル随一の観光地・シントラで交差する人生
ポルトガルの首都・リスボン近郊、町そのものが世界遺産のシントラ。ヨーロッパを代表する女優フランキーは自らの死期を悟り、「夏の終わりのバケーション」と称して親戚や知り合いを呼び寄せる。
集まったのは元夫、息子、義理の娘夫婦とその娘(フランキーの孫)、映画の現場で出会ったヘアメイクスタッフとその恋人。
彼女は自分の亡き後も愛する者たちが問題なく暮らしていけるよう、すべての段取りを整えようとしていた。しかし、フランキーの思い描ける“筋書き”は、彼らの人生のほんの一部分なのだった・・・
本作のロケ地となったシントラはいわゆる観光地で、その美しい景観は作品の大きな見どころのひとつです。ところで、「観光」という言葉は一般的に使われますが、「光」を「観る(じっと見る)」というのは不思議な漢字の組み合わせだなと思ったことはないでしょうか。私は何度か文字を書いたりタイプをするときに手を止めて、言葉の成り立ちについて考えたことがあります。
「観光」という言葉は、国の威光を観察するという意味でもともと使われていたようです。他の国に行くとなると、だいたい遠くに行く。それが転じて、旅行に行くという意味合いを持つようになったのでしょう。
映画で描かれているひとときは、やや特殊なシチュエーションではありますが、観光の中でもバケーション(バカンス)にあたります。ちなみに、バカンスの語源はラテン語で「空っぽ」という意味です。
そう考えると、本作を鑑賞するということは、登場人物それぞれが抱える空白から放たれる光を観ることにほぼ等しい、と言うことができると思います。
まだ若いフランキーの孫は、自ずとまばゆい光を放ち、その光の色についてなど全く気にもせず気の赴くままに行動します。
「フランキーと別れて正解だった」と話す元夫は自分の光に確信を持っており、別れ話・離婚話をするカップル・夫婦は互いの光の違いを知った上で反発し合います。
死までの秒読みがはじまっているフランキーは、「自分の人生はこういう色をしていたのか」と、人生という空白から放たれる光の色を、呼び寄せた人々とのやりとりの中で自覚していきます。
短いひとときを描きながらも 四季が巡ったかのように様々な「光の色」で観客を錯覚させる『ポルトガル、夏の終わり』は、4/24(金)よりBunkamura ル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー。詳細は公式サイトからご確認ください。