タグ別アーカイブ: ポルトガル

ポルトガル、夏の終わり

1a0267d3d5f2b570(C)2018 Photo Guy Ferrandis / SBS Productions

ポルトガル

ポルトガル、夏の終わり

 

Frankie

監督:アイラ・サックス
出演:イザベル・ユペール、ブレンダン・グリーソン
日本公開:2020年

2020.7.15

人生という光を、観る―ポルトガル随一の観光地・シントラで交差する人生

ポルトガルの首都・リスボン近郊、町そのものが世界遺産のシントラ。ヨーロッパを代表する女優フランキーは自らの死期を悟り、「夏の終わりのバケーション」と称して親戚や知り合いを呼び寄せる。

Frankie_koma01C

集まったのは元夫、息子、義理の娘夫婦とその娘(フランキーの孫)、映画の現場で出会ったヘアメイクスタッフとその恋人。

3サブ2 家族たち

彼女は自分の亡き後も愛する者たちが問題なく暮らしていけるよう、すべての段取りを整えようとしていた。しかし、フランキーの思い描ける“筋書き”は、彼らの人生のほんの一部分なのだった・・・

サブサブ 森で友人と再会

本作のロケ地となったシントラはいわゆる観光地で、その美しい景観は作品の大きな見どころのひとつです。ところで、「観光」という言葉は一般的に使われますが、「光」を「観る(じっと見る)」というのは不思議な漢字の組み合わせだなと思ったことはないでしょうか。私は何度か文字を書いたりタイプをするときに手を止めて、言葉の成り立ちについて考えたことがあります。

「観光」という言葉は、国の威光を観察するという意味でもともと使われていたようです。他の国に行くとなると、だいたい遠くに行く。それが転じて、旅行に行くという意味合いを持つようになったのでしょう。

映画で描かれているひとときは、やや特殊なシチュエーションではありますが、観光の中でもバケーション(バカンス)にあたります。ちなみに、バカンスの語源はラテン語で「空っぽ」という意味です。

1.メイン

そう考えると、本作を鑑賞するということは、登場人物それぞれが抱える空白から放たれる光を観ることにほぼ等しい、と言うことができると思います。

サブサブ 母と息子

まだ若いフランキーの孫は、自ずとまばゆい光を放ち、その光の色についてなど全く気にもせず気の赴くままに行動します。

サブサブ 孫

「フランキーと別れて正解だった」と話す元夫は自分の光に確信を持っており、別れ話・離婚話をするカップル・夫婦は互いの光の違いを知った上で反発し合います。

死までの秒読みがはじまっているフランキーは、「自分の人生はこういう色をしていたのか」と、人生という空白から放たれる光の色を、呼び寄せた人々とのやりとりの中で自覚していきます。

2.サブ1 フランキー

短いひとときを描きながらも 四季が巡ったかのように様々な「光の色」で観客を錯覚させる『ポルトガル、夏の終わり』は、4/24(金)よりBunkamura ル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー。詳細は公式サイトからご確認ください。

ポルト

90d8210a3d43cd11(C)2016 Bando a Parte – Double Play Films – Gladys Glover – Madants

ポルトガル

ポルト

 

Porto

監督:ゲイブ・クリンガー
出演:アントン・イェルチン、ルシー・ルカース
日本公開:2017年

2019.2.13

港町・ポルトですれ違う、恋人たちの記憶

ポルトガル第二の都市・ポルト。家族に見放されてしまった26歳のアメリカ人ジェイクと、恋人と一緒にこの地にやってきた32歳のフランス人留学生マティは、考古学調査の現場でお互いの存在を意識する。カフェでマティを見つけたジェイクは彼女に声を掛け、その後一夜を共にする。しかしマティには恋人がいた。一夜の出来事を信じたいジェイクと、彼とは違う未来を見るマティ。あるひと時の、異なる2つの見え方が交錯していく・・・

本作の映像はフィルムとデジタルカメラ両方で撮影され、さらにシーンごとに違うアスペクト比(縦横比)が採用されています。「旅と映画」では「旅」に重きをおいて極力映画の専門用語を使わないようにして作品を紹介していましたが、本作については物語の理解につながるので専門知識を織り交ぜて紹介したいと思います。

まずはフィルムとデジタルの違いについてです。一番大きな違いは、「記録可能なのが一度限りかどうか」という点です。デジタル撮影ではメディアがSDカード等に記録され、すぐに消したりコピーしたりできます。フィルム撮影はフィルムという「物」に焼きけられる、一度限りの記録です。

次にアスペクト比についてです。現在のデジタルテレビは16:9というサイズですが、ビスタサイズやスコープサイズなどといった様々なアスペクト比の中間ということで16:9が採用されました。一般的に「映画っぽい」アスペクト比として認識されているのはスコープサイズなど横長のものです。

横長の画面は人間の視野に近く、「見る人」にとって心地よいです。本作ではそこからアスペクト比が狭まる(厳密に何対何かはわかりませんが)場面があります。私は何作かブラウン管テレビ時代に主流だった4:3というサイズ(スタンダードサイズ)で映画を撮ったことがあり、撮ったのは子どもが主人公の作品ですが、子どもの視点(のめり込むような好奇心)や記憶を表現するのに4:3は適していると私は考えています。本作でも、狭めなアスペクト比は過去を表現するのに用いられています。

こうした撮影方法がラブストーリーという枠の中でユニークに機能した『ポルト』。美しい町並みのポルトへの旅情を掻き立てる秘密を、技術面から少しでもご紹介できていれば幸いです。

ポルトガル人の道から聖地サンティアゴへ

ポルトガルから陸路で国境を越えサンティアゴ・デ・コンポステーラを目指す。

port

ポルト

港湾都市ポルトは、リスボンに次ぐポルトガル第2の都市です。有名なポートワインは、この町から18世紀にイギリスに大量に輸出され、広く知られることとなりました。中世の面影を残す美しい旧市街は、「ポルト歴史地区」として世界遺産に登録されています。

ポルトの恋人たち 時の記憶

e342e9c828b1da14©2017「ポルトの恋人たち」製作委員会

ポルトガル

ポルトの恋人たち 時の記憶

 

Lovers on Borders

監督:舩橋淳
出演:柄本佑、アナ・モレイラ、アントニオ・デュランエス、中野裕太
日本公開:2018年

2019.1.23

冷え切った現代人の心に火を灯す、時空を超えた感情の交流

18世紀、リスボン大震災後のポルトガル。復興のために日本人の宗次と四郎が、インドから奴隷として連れてこられる。

sub2

屋敷には、震災で家族を亡くし、女中として雇われることになったマリアナが来たところだった。宗次はマリアナと恋仲になる。しかし、彼らの雇い主は、知人の宣教師が日本で生きたまま火炙りの刑に処さられたことから、日本人に強い恨みを持っていた・・・

sub3

21世紀、東京オリンピック後の日本。浜松にある工場で、人員削減のために柊次はリストラを言い渡す。そこでは日系ブラジル人の幸四郎と、ポルトが故郷のポルトガル人・マリナが働いていて・・・

sub4

18世紀と21世紀、日本とポルトガル。時代も場所も異なる男女の人生が、不思議に交錯していく。

旅をしている時、あるいは旅のアイデアを考える時に、特定の人物への思い入れが起点となることがあります。私の場合、ヘルマン・ヘッセの故郷であるカルフ、ロンドンにあるビートルズの聖地(アビーロード、屋上ライブが行われた元アップル・コアのあった場所など)やリヴァプール、パリに点在する映画ロケ地や、リュミエール兄弟が「世界最初の映画」を撮ったリヨンなどがそうでした。まだ行っていないところでは、『ローマ人の物語』(塩野七生著)を読んで色んな人物のエピソードで想像が膨らんでいるローマがあります。こうした旅の楽しみは、「ああだったんだろうな」「こうだったのかな」と、その人物の気持や境遇を想像するところにあります。もちろん、一生かかってもその人物にはなりきれなく、全てが分かるわけではないのですが、他者の人生を「追体験」できるのです。

main

『ポルトの恋人たち 時の記憶』は、人間にはわからないことがある(あっていいし、あったほうがいい)ということを、壮大なスケールの物語で観客に示してくれます。ともすると、現代社会では便利さやスマートさによって、全てが分かったような気になってしまいます。しかし、例えば意識というものがなぜ生じるのかという、人間精神の最も根本的な原理すらいまだに解明できていません。

リスボン大震災がきっかけで1759年に書かれたヴォルテールの小説『カンディード』では、「とにかく、僕たち、自分の畑を耕さなくちゃ」と、「わからないこと」と共に生きていく姿で締めくくられます。日本も未曾有の大災害を経験しましたが、「わからないこと」に対する畏敬の欠如は、傲慢さに繋がりかねません。本作は、分かることや知れることの限界を前提にした上で、どのように人生や国を再生していくのかを考えていく「温かさ」に満ちています。

sub1

ポルトガルの郷愁(サウダーデ)を感じさせるファドや、ポルトの美しい町並みも味わえる『ポルトの恋人たち 時の記憶』はシネマ・ジャック&ベティにて公開中 ほか全国ロードショー。詳細は公式ホームページをご覧ください。

ポルトガル人の道から聖地サンティアゴへ

ポルトガルから陸路で国境を越えサンティアゴ・デ・コンポステーラを目指す。

port

ポルト

港湾都市ポルトは、リスボンに次ぐポルトガル第2の都市です。有名なポートワインは、この町から18世紀にイギリスに大量に輸出され、広く知られることとなりました。中世の面影を残す美しい旧市街は、「ポルト歴史地区」として世界遺産に登録されています。