枯れ葉
監督:アキ・カウリスマキ
出演:アルマ・ポウスティ、ユッシ・バタネンほか
日本公開:2023年
秋のヘルシンキに咲く、小市民たちのドラマ
フィンランドの首都ヘルシンキ。理不尽な理由で失業したアンサと、工事現場で働く酒好きのホラッパはカラオケバーで出会い、互いの名前も知らないままひかれ合う。映画を観たり、食事をしたりしながら仲を深める二人だが・・・
日本に一番近いヨーロッパ、日本人に一番気質が近いヨーロッパ人などと紹介されることが多いフィンランドですが、小津安二郎監督の大ファンを長らく公言しているアキ・カウリスマキ監督のこの作品を観れば、なんとなくそれも納得できます。カウリスマキ監督の作品は、「シグネイチャー(署名)」とも言えるいくつかの特徴があります。
まずは、小市民な主人公だけれどもスポットライトがあたって舞台の上に立っているかのような照明。
渋くて盛り上がりを演出する意図では全く無い、哀愁漂うバンド演奏シーン。
静かに淡々と無表情に、でもちゃんと進んでいくドラマ。
主人公たちがふと見せる優しさ。
世の中の厳しさ。
ユニークな脇役。
まだまだありますが本作が特にユニークなのは、こうした淡々としたドラマの背後で、地理的な近接性もあり、ロシア・ウクライナ紛争のニュースが飛び込んでくることです。
それに対し登場人物たちは何をするわけでもありませんし、何かをしようと立ち上がるわけでもありません。カフェでコーヒーを頼むのをためらうようなアンサは、いくらかの絶望も伴いつつ、あくまでも目の前の現実をひとつひとつ受け止めていきます。
しかし考えてみると、元旦に起こった能登半島地震にしても、イスラエル・ガザ戦争にしても、ロシア・ウクライナ戦争にしても、募金等の支援を除けば「何もすることができないで状況を見つめる」ということぐらいしかできないのが小市民としては当たり前です。
「何もしていない」からといって「何も思っていない」わけではない。いつでも小市民の味方のカウリスマキ監督は、そんな勇気づけをこのタイミングで観客に持ち寄ってくれているように感じました。
一見淡々とした演出から、人間心理の深遠さを映し出す熟練した演出が魅力の『枯れ葉』は、2023年末より全国上映中。詳細は公式HPをご確認ください。