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天国にちがいない

(C)2019 RECTANGLE PRODUCTIONS – PALLAS FILM – POSSIBLES MEDIA II – ZEYNO FILM – ZDF – TURKISH RADIO TELEVISION CORPORATION

イスラエル

天国にちがいない

 

It Must Be Heaven

監督:エリア・スレイマン
出演:エリア・スレイマンほか
日本公開:2021年

2022.7.26

イスラエル版『ミスター・ビーン』―ナザレ発 映画企画売り込み世界旅行

パレスチナにルーツがあるイスラエル・ナザレ在住のスレイマン監督は新作映画の企画を売り込むため、ナザレからパリ、ニューヨークへと旅に出る。

パリではおしゃれな人々やルーブル美術館、ビクトール広場、ノートルダム聖堂などの美しい街並みに見ほれ、ニューヨークでは映画学校やアラブ・フォーラムに登壇者として招かれる。

行く先々で故郷とは全く違う世界を目の当たりにするスレイマン監督は思いがけず故郷との類似点を発見し、それが自身の想像とまざりあい、摩訶不思議な世界観が展開されていく。

以前にご紹介した、イスラエル・パレスチナ間の問題を題材にした『テルアビブ・オン・ファイア』はなかなか変わったコメディ映画でしたが、本作もかなりユニークかつシュールなコメディです。

イスラエル版『ミスター・ビーン』とでもいいましょうか、主人公のエリア・スレイマン監督はほぼ一言も喋りません。そして、イエスが生まれ育ったことで有名な町・ナザレ、パリ、ニューヨークをじっと観察していきます。

なのですが、町で展開されていく出来事や、そもそも景観そのものがおかしくなってきます。たとえば、ルーブル美術館にしてもセーヌ川沿いにしても全く人の気配がなく、不自然なことこの上ありません。

観光客でにぎわっているはずのエリア・バスティーユにあるフランス銀行前では、なぜか戦車が通過します。

ニューヨークに渡れば、スマホを持つかのようなカジュアルさで自動小銃を手にした人々がスーパーマーケットで買い物をしていたり、タクシーから降りてきたりします。

こうした不可思議な描写を通して、観客はスクリーンに映っているのが「観察」なのではなく、監督の洞察の「投影」なのだと気付いていきます。

では、何に対して「天国にちがいない」と監督は思ったのか?
「天国」とは「この世」と比較すると、どのような場所なのか?
「この世」は何が問題でどうあるべきなのか?

これらの問いかけが本作のストーリーの核でもあり、劇中で主人公が売り込みをしている企画の核でもありますので、鑑賞時の楽しみにして頂ければと思います

個人的にはたっぷり映る(ややヘンテコな)日常のナザレの光景に「ああ、ナザレというのはこういう町並みなのか」というだけでも観た価値がありました。

ぜひ、テイストの違うコメディの『テルアビブ・オン・ファイア』と2本立てでお楽しみください。

パレスチナ西岸と聖地エルサレム滞在

パレスチナとイスラエルの今と昔に触れる―ベツレヘムに2連泊。パレスチナ自治政府事実上の首都ラマラ、「誘惑の山」があるエリコ、旧市街が世界遺産に登録されているヘブロンなど、パレスチナ自治区の代表都市も巡ります。

ナザレ

イエスは伝道を始められるまでの約30年間を、ナザレで両親と共に過ごしました。 またこの町は、イエスの母マリアが天使ガブリエルよりイエスの受胎を告げられた場所として知られています。 現在ここには、マリアの受胎告知を記念した教会(受胎告知教会)が建っています。アベ・マリアの頭文字「A」を模って作られた屋根が印象的な建物です。 受胎告知教会の礼拝堂の中には世界の国々から寄贈された様々な聖母子の絵があります。 その中には日本から贈られた「華の聖母子」(作:長谷川路可氏)も飾られています。

テルアビブ・オン・ファイア

8f3bfc7583fb2866(C)Samsa Film – TS Productions – Lama Films – Films From There – Artemis Productions C623

イスラエル

テルアビブ・オン・ファイア

 

Tel Aviv on Fire

監督:サメフ・ゾアビ
出演:カイス・ナシェフ、ヤニブ・ビトンほか
日本公開:2019年

2019.10.23

「イスラエル-パレスチナ問題」をネタに、思いっきり笑う

舞台はイスラエルとパレスチナ自治区。エルサレム在住のパレスチナ人青年・サラームは、第3次中東戦争が勃発した1967年を舞台にした人気メロドラマ『テルアビブ・オン・ファイア』の制作現場で、脚本家を夢見ながらインターンとして働いている。撮影所はパレスチナ自治区・ラマッラーにあり、サラームはエルサレムの自宅から毎日軍の検問所を経て通勤する。

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ある日、ひょんな失言からサラームは検問所の主任・アッシの部屋に連行される。アッシの妻が『テルアビブ・オン・ファイア』の大ファンだということで事なきを得て、さらに図らずも脚本のリサーチができたサラームは、製作現場の修羅場で打開策となるアイデアを提案したことを認められ、脚本家の道を歩むチャンスを手にする。

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パレスチナ問題、シオニズム、中東戦争、ユダヤとアラブ・・・・・・日本人にとってはなかなか触れる機会がなく、理解を深めにくい事柄かもしれません。本作はもちろんそういった知識があっても楽しめますが、むしろ知識がないほうが楽しめるかもしれない稀有な作品です。言い換えると、理解が浅めのほうが、劇中のコメディ要素が強調されるように演出の計算がなされているということです。

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たとえば、エルサレム在住のサラームはパレスチナ自治区のスタジオで行われる撮影現場に、ヘブライ語の言語指導で現場に入っています。なぜ、そのような仕事が必要になるのか。なぜ、撮影所に行くために検問所を通る必要があるのか。なぜ、特定の演出が「ユダヤ的」「アラブ的」だと争点になるのか。こうした点について、作中で説明が皆無なわけではありませんが、アラブ料理・フムスなど文化的な要素を駆使しながら、説明しすぎない絶妙なバランスでコメディが展開されていきます。日本の観客の多くは「分かりすぎていると感じられない笑い」を感じることになるでしょう。

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こうしたスタンスには本作の製作経緯が関係しているかもしれません。製作国にはルクセンブルク・フランス・ベルギーという3カ国がイスラエル以外に名を連ねています。つまり、「外からの視点」が大いに反映されている作品であるということです。

エルサレムの歴史的な街並みや観光名所は作中にほぼ登場せず、スタジオ内(おそらくイスラエルではない場所で撮られたのでしょう)を中心に物事が進行していきます。検問所ももちろんセットでの撮影です。「撮れない」「映せない」という製作当時は制限だったかもしれない条件が、観客の想像力を誘発する演出に変身していて、結果的に、「想像上のイスラエル・パレスチナ」という、誰も行けない場所を脳内で旅することができる作品となっています。

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『テルアビブ・オン・ファイア』は11月22日(金)より新宿シネマカリテ・ヒューマントラストシネマ渋谷ほか、全国順次ロードショー。詳細は公式ホームページをご覧ください。

パレスチナ西岸と聖地エルサレム滞在

パレスチナとイスラエルの今と昔に触れる―ベツレヘムに2連泊。パレスチナ自治政府事実上の首都ラマラ、「誘惑の山」があるエリコ、旧市街が世界遺産に登録されているヘブロンなど、パレスチナ自治区の代表都市も巡ります。

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エルサレム

長い歴史を持ち、旧約聖書・新約聖書のゆかりの地にあふれ、何日滞在しても足りないエルサレム。マグダラのマリアが生きたミグダルの遺跡や、イエスが悪魔の誘惑を受けたとされるエリコ、ベエル・シェバの井戸など、通常のツアーでは訪れないエルサレムの魅力を巡るツアーも取り揃えています。(聖書の舞台を行く イスラエル周遊10日間