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汚れたミルク あるセールスマンの告発

(C) Cinemorphic, Sikhya Entertainment & ASAP Films 2014

パキスタン

汚れたミルク あるセールスマンの告発

 

Tigers

監督:ダニス・タノビッチ
出演:イムラン・ハシュミ、ダニー・ヒューストンほか
日本公開:2017年

2023.8.16

水は暮らしの生命線、ミルクは生命の源泉―優秀なパキスタン人営業マンの葛藤

1994年のパキスタンで、青年・アヤンは国産の薬品を売るセールスマンをしていたが、妻・ザイナブの勧めで大手グローバル企業の面接を受け、営業マンとなる。

数年後、友人の医師から、アヤンの勤める企業の粉ミルクを不衛生な水で溶かして飲んだ乳幼児が死亡する事件が多発していることを知らされる。強引な売り込みによって、本来は母乳で充分な母親にも医師らが粉ミルクを処方していたためだ。

責任を感じたアヤンは会社を辞め、医師らへの賄賂として使った金品の領収書などの書類をもとに、無責任で強引な販売姿勢を告発するが・・・

西遊旅行のHPをご覧になっている方、ツアーに行かれる方はやや例外的かもしれませんが、パキスタンという国はまだ日本人にとっては日頃接する情報が限られており、やや「遠い国」といえるかもしれません。

しかし、最近お台場で行われていたITの展示会で、ひときわ勢いを感じたのはパキスタンとバングラデシュのブース(おそらく国の補助もあって国ごとにまとめていらしているのだと思います)でした。映像もとても凝ったもので、日本の企業のブースよりも色使いが派手でグイグイと引き込むパワーを感じました。担当者の方は「ITエンジニアの世界で次来るのはパキスタンといわれている」とおっしゃっていました。何が言いたかったかというと、やはりパキスタンもグローバル化の強い波は今まで受けてきましたし、世界進出する勢力もあるということです。

話が変わるようですが、秘境ツアーに行く際に添乗員(おそらくかつての僕だけではないはず)が常に気にかけていることは、何だかご存知でしょうか。そう、「水」です(あとは付随して「トイレ」もです)。ちなみに、久々に本HPの「西遊旅行の『旅』のかたち」のページを見ましたが、「水道水が飲めないエリアでは、毎日ウォーターサーバーなどからお水をお配りします。プラスチックゴミの削減のため、お客様にはマイボトルをご持参いただきます」と、サステナブル・ツーリズムに関する記載があり、時代の流れを感じました。

それだけやはり「水」というのは生命線ですし、日本には配給されていない映画ですが、ボスニア内戦において「川に毒を流す」という攻撃を軸に両国の関係性や人々の姿を描いた作品を映画祭で観たことがあり、「水」は権力に関わっていたり争いの火種になることもあります。

だからこそ、「水」を切り口にした本作では、既存のパキスタンに関わる映画にはない人々の姿を見ることができます。

邦題がやや旅情そそられない感じですが、英題は”Tigers”(どんな意味合いかはぜひご覧になってみてください)で、1994年当時のパキスタンに暮らす人々の人生を追体験でき、結果的にはパキスタンという国に興味を持てる内容となっています。

オーストリアからオーストラリアへ~ふたりの自転車大冒険

A2A_poster©Aichholzer Film 2020

オーストリア(ロシア・カザフスタン・キルギス・中国・パキスタン・インド)

オーストリアからオーストラリアへ~ふたりの自転車大冒険

監督・出演:アンドレアス・ブチウマン、ドミニク・ボヒス
日本公開年:2022年

2021.12.15

カラフルで滋味あるスムージーのような、つぶつぶ感のある映像旅行記

オーストリアからオーストラリアまで、陸路1万8000キロを自転車で走破するべく旅に出た2人の青年、アンドレアスとドミニク。

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モスクワの赤の広場、カザフスタンのステップ砂漠、カラコルム・ハイウェイなどを経ながらユーラシア大陸を横断して、目的地のオーストリア・ブリスベンまでVlog(ビデオ・ブログ)を撮りながらの旅が始まる。

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カメラは豪雨、水・食料の枯渇、灼熱、日射病、ケンカなど、道中で起きる様々な出来事を記録していく・・・

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旅に出る理由というのはいわば「何でもあり」なわけですが、その中で最もオーソドックスな手法は、「宮殿ホテルでマハラジャ気分を味わいたい」「ウユニ塩湖が鏡面状になっている景色を見たい」「ヒマラヤでブルーポピーの花が咲いているのを見たい」など、何かしらの形で「ゴール地点を定める」ということでしょう。

ゴール地点が定まると、いわゆる「あてのない旅」ではなくなるわけですが、そのゴール地点に必ずしも意味付けがあるとは限りません。たとえば、僕は大学のときに青春18切符(JRの在来線5日間乗り放題)で「とにかく遠くまで行こう」と、特段具体的な理由なしに、ひたすら在来線で東京から鹿児島の指宿まで行きました。若い発想だな、と自分の行動ながらに思います。

本作は「オーストリアはオーストラリアと名前が似ているから、オーストラリアに行こう(しかも陸路 かつ オーストラリアもしっかり横断する)」という若々しい発想にもとづく旅で、目的地はしっかり定まっているものの、旅内容の具体性の無さが、旅先で多くの人々・現象を引き寄せていきます。

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たとえば、カザフスタンやパキスタンで、彼らは偶然出会った現地人に食事・結婚式に誘われたり、歓迎の宴を催してもらったりします。もし、何か急ぐべき理由があったら、このような現象は起きていないはずです。

僕自身も規模はかなり違いますが、同じようなやり方で旅をしたことがあります。器のように、何かを受け止められるような態勢を保ちながら旅をする、とでもいえばいいでしょうか。そのような「受け」あるいは「待ち」の姿勢は、なかなか普通の社会勉強では会得し難いものではないかと思います。

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本作には、西遊旅行のお客様であれば、場所が判別できるシーンがたくさんあるはずです。特に僕がドキリとしたのはパキスタンのカラコルム・ハイウェイです。「あの断崖絶壁の悪路を、自転車で行ったとのか・・・」と、想像するだけで怖くなり、主人公の2人を尊敬しました。

オサマ・ビン・ラディンが暗殺されたカラコルム・ハイウェイの入り口の町・アボッタバード、中国の新疆ウイグル自治区・カシュガルの市場、インド・パンジャーブ地方 アムリトサルのゴールデン・テンプル(シク教の聖地)など・・・
様々な町の様子が主観的映像を中心に映し出され、本当に現地を旅をしているかのような心地になるはずです。

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リアルな映像の連続で、GoProなどウェアラブル・カメラが欲しくなってしまうかもしれない『オーストリアからオーストラリアへ~ふたりの自転車大冒険』は、2022年2月11日(金・祝)よりヒューマントラストシネマ有楽町・アップリンク吉祥寺ほか全国順次上映。詳細は公式ホームページをご確認ください。

天山の真珠 キルギスとカザフスタン 6日間

イシク・クル湖畔に宿泊し、紺碧の湖と雪を頂くテルスケイ・アラ・トー山脈の美しい景観をお楽しみください。
約1時間のボートクルーズにもご案内。近郊に残る古代サカ族の刻画が残る野外岩絵博物館も見学します。

クンジュラブ峠越え パミール大横断12日間

イスラマバードからカシュガルへ、パキスタンと中国を結ぶ1,300㎞のカラコルム・ハイウェイを大走破!峻険な山々や美しい名峰、雄大なパミール高原やカラクリ湖、迫力の大自然を間近に望めるアドベンチャー・ロードです。上部フンザ・アッタバード湖沿いにトンネルが開通したことにより、移動時間が大幅に短くなった新しいカラコルム・ハイウェイをお楽しみください。シルクロードの要衝カシュガルも訪問します。

印パ国境越え ムガール帝国・王の道を行く

パキスタンのイスラマバードから、ラホール、アムリトサル、デリー、アグラへとかつての「王の道」を辿って国境を越えます。アムリトサルからアグラまでは一部王の道に併走する列車の旅をお楽しみいただきます。

バジュランギおじさんと、小さな迷子

bb_poster軽(C)Eros international all rights reserved. (C)SKF all rights reserved.

インド・パキスタン

バジュランギおじさんと、小さな迷子

 

Bajrangi Bhaijaan

監督:カビール・カーン
出演:サルマーン・カーン、ハルシャーリー・マルホートラ、カリーナ・カプールほか
日本公開:2019年

2018.12.12

永らく背中合わせの印パを駆け抜ける、でこぼこコンビの珍道中

パキスタンの小さな村に住む6歳の少女・シャヒーダー。成長しても声を出すことができないシャヒーダーを心配した母は、彼女をつれてインドのイスラム寺院に願掛けに行くものの、帰り道で離ればなれになってしまう。インドに取り残されたシャヒーダーは、ヒンドゥー教のハヌマーン神を熱烈に信奉する青年・パワンに救われ、パワンは彼女を親元に返すまで面倒を見る決意をする。

ひょんなきっかけで、パワンはシャヒーダーがパキスタンからやってきたことに気づく。一度決心を固めたパワンは、周囲の制止に耳を貸さない。パスポートもビザも持たず、国境を障壁とも思わず、パワンはシャヒーダーをパキスタンの親元に送り届ける旅に出る。

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インド映画興行第3位を記録した本作。表向きは、インド・パキスタン両国同士の長年にわたる対立を背景に、「インドに“迷い込んだ”パキスタンの少女を、インドの青年が“見知らぬ国”・パキスタン送り届ける旅」というストーリーです。インド映画お決まりのダンスシーンも満載です。

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しかし物語の奥底にはインドの制作クルーたちによって、パキスタンへの歩み寄りの心があちこちに散りばめられています。インド人もパキスタン人も、本当は言いたいのだけれどなかなか言えないこと。それは、「インドとパキスタン、お互い本当は仲良くしたい」ということです。

例えばパワンとシャヒーダーがパキスタンに入ってすぐ、警察に追いかけられながらバスに身を隠している時に、パワンの苦心を知った集金係がこんなセリフをいいます。

「あなたみたいな人が、インド・パキスタン両方にたくさん増えればいいのに」

近くて遠い国。それが現在のインドとパキスタンの関係なのだと思います。面白いことに、本作ではパキスタン設定のシーンがインドで撮影されています。許可や製作上の理由でそうなったのかもしれませんが、それができてしまうということを以っても、インドとパキスタンが実は近いのだということが示されています。

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『バジュランギおじさんと、小さな迷子』は、1/18(金)より新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

桃源郷フンザへの旅

カラコルム・ハイウェイを走り桃源郷フンザへ
パキスタンが誇る高峰群、ガンダーラを代表するタキシラも見学

ナマステ・インディア大周遊

文化と自然をたっぷり楽しむインド 15の世界遺産をめぐる少人数限定の旅

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デリー

「旅の玄関口」デリー。この都市は、はるか昔から存在した歴史的な都でもあります。 古代インドの大叙事詩「マハーバーラタ」では伝説の王都として登場。中世のイスラム諸王朝やムガール帝国などさまざな変遷の後、1947年にはイスラム教国家パキスタンとの分離独立を果たします。現在ではインド共和国の首都として、その政治と経済を担い、州と同格に扱われる連邦直轄領に位置づけられています。

娘よ

7bb211b501e946bf©Dukhtar Productions LLC.

パキスタン

娘よ

 

Dukhtar

監督:アフィア・ナサニエル
出演:サミア・ムムターズ、サーレハ・アーレフ、モヒブ・ミルザーほか
日本公開:2017年

2017.3.1

知られざるパキスタン部族社会の掟と、母娘の自由への旅路

パキスタン・連邦直轄部族地域のある村で、部族長・ドーラットは絶え間なく続く部族間の報復の連鎖に頭を抱えていました。解決策として、ドーラットの10歳の娘・ザイナブと相手部族の老部族長との婚姻が決まります。dukhtar_still09

その事実を知ったザイナブの母・アッララキは自分自身も15歳の時に嫁がされた経験から、娘を渡したくないと強く思います。アッララキは婚礼の当日に村から脱出することを決意し、波乱万丈の旅路が始まるのでした・・・

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物語が始まる場所の設定はトライバルエリアとも呼ばれる連邦直轄部族地域で、伝統的な部族長会議による統治がなされています。パキスタンの憲法は大統領の指示がない限りは適用されません。制作スタッフはそうした特殊な場所からの脱出を演出するために、フンザ・ギルギッド・スカルドゥなど、パキスタン北部の地理的特色を最大限にいかしています。

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本作の特筆すべき点は、コロンビア大学で映画を学んだ女性監督アフィア・ナサニエルが、単純に部族社会における女性の自由を問題視するだけでなく、その背景にあるパキスタンと近隣諸国の大きな歴史の流れにしっかりと目を向けていることでしょう。

因習や悪習という言葉がありますが、本作で取り上げられているような部族社会における「目には目を、歯には歯を」の報復の連鎖や伝統的婚姻ははたして悪習といえるのでしょうか。

たとえば、かつて中国には女性の足が大きくならないように幼少期から足を強く縛る纏足という風習がありました。纏足は約1000年に渡って20世紀初頭まで続けられましたが、それには様々な文化的・社会要因がありました。このように、ある風習や社会的に続けられた行為を悪であるとみなしてしまう前に、その背景にある理由に考えを巡らせることは、異文化理解においてとても重要です。本作では部族社会における女性の自由を大きな問題として掲げながらも、単純にそれを批判するのではなく、ムジャヒディン(旧ソ連のアフガニスタン侵攻に対して戦った武装勢力)出身のトラック運転手をメインキャラクターとして登場させるなどして、歴史の流れも踏まえた大きな枠組みの中で問題の複雑さ・根深さが主張されています。

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フンザの村の狭い路地を活かした追跡劇や、黄金色に輝くアンズやポプラの木々の中行われるカーチェイスも必見です。少しハンドル操作を誤れば崖に真っ逆さまの道でのカーチェイスはスリリングで見入ってしまうのはもちろんですが、パキスタン北部を旅されたことがある方は「あの道でカーチェイスをしたのか・・・」となおさらドキドキとしてしまうはずです。パキスタン名物のド派手なデコトラも登場し、パキスタン文化入門としても多くの場面で楽しめます。

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カラコルム山脈などパキスタンの雄大な景色を見てみたい方、一歩踏み込んで南アジア・中東の歴史や女性の自由について考えてみたい方にオススメの一本です。

『娘よ』は3/25より岩波ホールほかにてロードショー。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

秋の大パキスタン紀行

北部パキスタンが「黄金」に輝く季節限定企画 南部に点在する世界遺産を巡り、桃源郷・フンザへ

北部パキスタン周遊

パキスタン北部の山岳地帯をめぐる決定版

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フンザ

「桃源郷」と謳われ、「長寿の里」として知られ、かねてより旅行者の憧れの土地。春の杏の花、夏の緑と山々の景色、秋の紅・黄に染まった木々・・・それぞれの季節に美しい景色を魅せます。

イン・ディス・ワールド

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パキスタン・イラン・トルコ

イン・ディス・ワールド

 

In This World

監督: マイケル・ウィンターボトム
出演: ジャマール・ウディン・トラビ、エナヤトゥーラ・ジュマディンほか
日本公開:2003年

2016.11.30

ペシャワールからロンドンへ・・・
国境の壁を乗り越える若きアフガン孤児の意志

パキスタン北西辺境州の州都・ペシャワールの難民キャンプで育ったアフガン人の少年・ジャマールと従兄弟・エナヤットは、より良い未来を求めて陸路でロンドンを目指ことになります。エナヤットの父親が密入国業者の力を借りて息子を親戚のいるロンドンに向かわせようとして、ジャマールは英語が少し話せるためエナヤットに同行することになったのです。信頼してよいかどうかわからない密入国業者だけを頼りに、常に危険と隣り合わせの6400kmの旅路が始まります。

ドキュメンタリータッチで撮られたこの作品は、製作陣による綿密なリサーチをもとにしたフィクションです。多くの亡命者たちが通過するクエッタ・テヘラン・イスタンブールといった要所や実際の国境警備員たちが映っているので、まるでジャマールとエナヤットのカバンにこっそり潜んで旅を見守っているかのような、緊迫したリアリティ溢れるカットが次々と映し出されます。また、サルコジ元大統領によって閉鎖されたにサンガット(フランス北部の港街・カレー近郊)赤十字難民センターの貴重な映像もおさめられています。

映画の大部分を占めるジャマールたちの移動風景(ある時は家畜と、ある時は穀物と・・・)は苦難の旅路の様子ですが、ずっと頭の奥底に眠っていた旅の車窓を思い出してしまうのは私だけではないはずです。移動風景だけでなく、路地裏で遊ぶ子供達たちや街の雑踏の音など何気ない描写が幾重にも重なって、イギリスにたどり着くという一点の光を求めて旅をしているジャマールの複雑な心の中に案内してくれます。

この物語の最も美しい点の一つは、ジャマール少年が物語を語るのがうまいという設定にあると私は思います。物語がどんな内容なのかは見てからのお楽しみですが、なぜ歌が生まれたかという話や、壊れた時計に蚊の死骸が入っている話などを唐突に話し出します。一度私は日本にたどり着いた難民を支援している団体を取材したことがありますが、多くの難民たちが「自分にこんなことが起こる(難民になる)とは夢にも思わなかった」と口にするという話を聞きました。きっとジャマール少年は自分の身に起きたことを物語のように思える強い心の持ち主で、そのおかげで辛い旅路にも関わらずどこか美しい感覚を観客に味わわせてくれるのだと思います。

中東からヨーロッパへの遠い遠い道のり、少年の持つ純粋さ・力強さを体感したい方にオススメの映画です。

ソング・オブ・ラホール

1d66d5e3adddd1bc(C) 2015 Ravi Films, LLC

パキスタン

ソング・オブ・ラホール

 

Song of Lahore

監督:シャルミーン・ウベード=チナーイ、アンディ・ショーケン
出演:サッチャル・ジャズ・アンサンブル、ウィントン・マルサリスほか
日本公開:2016年

2016.7.20

パキスタン伝統音楽×ジャズ!
NYとラホールの間に音楽が架ける橋

「文化と文化の接触」という言葉を聞いた時、皆さんはどういった場所や事柄を連想されるでしょうか。私が真っ先に思い浮かべるのは、パキスタンのラホール美術館で見たガンダーラ仏の展示です。特に弥勒菩薩立像の筋骨隆々とした姿はギリシャ彫刻の影響をはっきりと確認することができ、かつて本当にアレクサンダー大王がパキスタンの地まで来たのだと実感させるものでした。

物語はそのラホールから始まり、かつては芸術の都と呼ばれていたラホールの音楽文化が1970年代後半にパキスタンのイスラーム化政策がはじまったことにより衰退したことが説明されます。ラホールのサッチャル・スタジオのメンバーたちは廃れてしまった伝統音楽を復活させるべく、youtubeで自分たちの音楽を世界に向けて発信します。

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シタール・タブラなどインド音楽でもおなじみの楽器を用いてユニークな解釈で演奏されたジャズのスタンダードナンバーは多くの人の心を打ち、アメリカの超一流トランペッターであるウィントン・マルサリスの耳にもその響きは届きました。

サッチャル・ジャズ・アンサンブルの面々がウィントン・マルサリスの招待によりニューヨークに旅立っていく過程や、素晴らしい演奏技術が見ごたえ抜群なのはもちろんですが、本作にはもうひとつ重要な意味合いがあります。それは、彼らが世の中が持つパキスタンのネガティブなイメージを刷新させたいと切に願っていることです。

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私もパスポートにパキスタンビザが押されているだけでヨーロッパやアメリカでの怪しまれて入国審査で理由を事細かに質問されるということがありました。「パキスタン人はテロリストじゃないとわかってもらいたい」とメンバーたちは劇中でつぶやきますが、きっと彼らが生み出す音楽は人々の心に直接歩み寄って一番よい形でそのことを伝えてくれるでしょう。

世界の遠く離れた場所どうしの民話が時に全く同じような話であることがあるように、国境や文化を隔てていても人間は同じ人間なのだということ、そして同時に「違い」が世界を成り立たせているのだということをサッチャル・ジャズの音色は見つめなおさせてくれます。

8月13日(土)よりユーロスペース、8月27日(土)より角川シネマ有楽町にて公開。

その他詳細は公式サイト公式フェイスブック、公式ツイッター(@songoflahore_jp) からご確認ください。

秋の大パキスタン紀行

北部パキスタンが「黄金」に輝く季節限定企画 南部に点在する世界遺産を巡り、桃源郷・フンザへ。

春の大パキスタン紀行

パキスタンを大縦断!5つの世界遺産を巡りながら桃源郷フンザへ。

シンド・パンジャーブ紀行

カラチからイスラマバードまで陸路で走破し、パキスタンの遺跡をじっくり巡る

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ラホール

パンジャーブ州の州都にしてパキスタン第2の都市。パキスタンの文化・芸術の中心地で、 インドとの国境へも車で約1時間。両国の「雪解け」を感じる町でもあります。