タグ別アーカイブ: バングラデシュ

世界のはしっこ、ちいさな教室

(C)Winds – France 2 Cinema – Daisy G. Nichols Productions LLC – Chapka – Vendome Production

バングラデシュ・ブルキナファソ・ロシア(シベリア)

世界のはしっこ、ちいさな教室

 

Etre Prof

監督:エミリー・テロン
出演:サンドリーヌ・ゾンゴ、スベトラーナ・バシレバ、タスリマ・アクテルほか
日本公開:2023年

2023.7.5

西アフリカ・シベリア・東南アジアで―女性たち三者三様の「教えと学びの旅」

ブルキナファソの首都ワガドゥグで夫と2人の娘を育てる新人教師・サンドリーヌは、6年間の任期のもと、僻地・ティオガガラ村に派遣される。50人強の児童は公用語のフランス語をほとんど理解できず、教室では5つの言語が飛び交う。

バングラデシュ北部のスナムガンジ地方。モンスーンによって村の大部分が水没した農村地帯のボートスクールに、人道支援団体から派遣されたタスリマは、女性の権利の擁護や教育の意義の啓蒙をひたむきに行う。

雪深いシベリアに暮らす遊牧民で、伝統言語・エヴァンキ語の消滅を危惧するスベトラーナ。トナカイの牧夫である両親を持つスヴェトラーナは6歳で寄宿学校に入学し、両親と一緒に伝統的な 生活を送れなかったことを悔やんできた。彼女はロシア連邦の義務教育に加え、エヴェンキ族の伝統や言語、アイデンティティを伝えるカリキュラム、魚釣りやトナカイ の捕まえ方も実地で教えている。

子どもたちに広い世界や学びの楽しさを知ってほしいという一心で教師の仕事を全うしている、3人の女性の飽くなき探求をカメラは映し出していく。

『世界の果ての通学路』という人気映画の題名を聞かれたことがある方は多いかと思いますが、本作はその製作スタッフが手掛けた作品です。英題には”Teach Me If You Can”(「私に教えられるなら、教えてみて」の意)というユーモラスな言い回しが採用されている通り、映画はほのぼのとしたタッチで進んできます。

僕自身の個人的なタイミングでいうと、子どもがこの4月から小学校に通い始めて、子どもが自分の足で通学し、帰ってきて、宿題をやっている姿が日常になったため、本作は僕にとっての「学び」「教え」の根本を問い直させてくれたように感じました。

舞台は発展途上国や僻地が中心なので、色々な意味で日本よりも「大変」な環境です。ですが、「こういう大変な思いをしながら学んでいる子どもたちや、学びたくても学べない子どもたちが世の中にはいるのだから、日本の子どもたちというのは恵まれていると思わなきゃ」というふうには感じませんでした。

映画を観ている最中ずっとぐるぐると考えを巡らせていたののは、「”学ぶ”とはどういうことなのか?」です。暗記や教科書をただこなすだけではなく、「学びたい」と思った瞬間に「学び」というのは訪れる。そう思わせてくれる瞬間が多く本作には記録されています。

もう1つは「教え」です。もちろん、「教えることによる学び」というのもありつつ、基本的には教師と親というのは教える側の人間です。しかし、「教えることできる」ということはその主体となっている人が全能的というか「全てを知っている」ということを意味しないのだと再認識しました。

むしろ、そうした「教えている」というある種の権力をうまく抑えて、「自分にも知らないことがある」という前提のもと、子どもたちと一緒に考え始めたときに、いつの間にか「教え」が手渡せている。そんな瞬間を目にしました。

『世界のはしっこ、ちいさな教室』は7/21(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次上映。そのほか詳細は公式HPをご確認ください。

黄金のベンガル バングラデシュ

世界最大のマングローブの森を縫うように進む1泊2日のクルーズの旅。冬季は渡り鳥も多く飛来し、多様な生態系の観察もお楽しみいただけます。14名様限定でクルーズでは個室のご利用も可能
少人数に限定し、ゆとりある旅をご用意。1泊2日のシュンドルボンクルーズでもご希望の方は個室をご利用いただけます。貸切クルーズ船で快適な探検旅行をお楽しみください。

メイド・イン・バングラデシュ

e8a2c3ad29be5251(C)2019 – LES FILMS DE L’APRES MIDI – KHONA TALKIES – BEOFILM – MIDAS FILMES

バングラデシュ

メイド・イン・バングラデシュ

Made in Bangladesh

監督:ルバイヤット・ホセイン
出演:出演:リキタ・ナンディニ・シム、ノベラ・ラフマンほか
日本公開:2022年

2022.3.30

「どう生きたいか」で「どう働くか」を決める―バングラデシュ女性たちの働き方改革

2010年代前半、大手アパレルブランドの工場が集まるバングラデシュの首都ダッカ。衣料品の工場で働く既婚女性シムは、失業中の夫に代わり一家の大黒柱として働く最中、厳しい労働環境に苦しむ同僚たちと労働組合を結成するべく立ち上がる。

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工場幹部による脅しや周囲の人々からの反対に遭いながらも自ら労働法を学び、自分の理想とする暮らしを手にするために、シムは伝統・慣習の力に抗いはじめる……

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「ラナ・プラザ」と聞けばピンとくる方はピンとくる出来事が2013年にバングラデシュで起こりました。大手グローバル・ファッションブランドの商品も扱う縫製工場が入っている8階建ての商業ビル「ラナ・プラザ」が崩落し、1100人超の死者が出た事件です。犠牲者の多くは、働き手の女性たちで、彼女たちは男性オーナーたちの支配的経営やずさんな人事・労務管理体制に苦しんできました。

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本作はそういった出来事と、10代半ばからバングラデシュの労働闘争に関わってきたダリヤ・アクター・ドリという女性の実話をもとにつくられたフィクション作品です。

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『メイド・イン・バングラデシュ』で描かれる男性たちは、ストーリー上は、一見すると主人公・シムの思いを阻む「敵・悪者」といった見え方をします。

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「正義を掲げる女性たちが、悪に抗う話」、より俯瞰した目線で見れば、「グローバル資本主義という悪に、女性たちが疑問を投げかける話」と見えやすいということです。

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もちろんそういった側面もあると思いますし、そう観ていただいても楽しめる作品だと思うのですが、私は「良い/悪い」というフィルターを極力はずして本作を鑑賞することをオススメします。

鑑賞中、最近福岡で行ったある取材撮影を思い出していました。銀行の休眠預金を活用したソーシャルビジネス事業の取材です。女性のエンパワーメント(能力開花)事業・不動産事業・コワーキングスペース運営を連動させて、「どう働くか」に従属して「どう生きるか」が決まってしまうのではなく、「どう生きたいか」という思いによって「どう働きたいか」が自ずと導かれるような社会を目指す。そんな未来を志向するアライアンス企業でした。

本作の作り手のスタンスも、そのアライアンス企業と同様であると私は感じました。

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「やりたいか/やりたくないか」、つまり「どう生きたいか」という尺度が主人公・シムの中で育ち始め、多くの人が変えられないと思い込んでいる「どう働くか」を揺り動かしはじめる話を描く意図が最も強いということです。
(その点に最大限集中するにあたって、男性たちや大手ファッション・ブランドが「良いか/悪いか」という尺度は若干邪魔だと私は思うので、「良い/悪い」というフィルターは極力はずすことをオススメしました)

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そのようなシムの心中で沸き起こるダイナミズムに触れることは、旅先で全く知らない人との邂逅の中で、生きる勇気をもらう感覚にとてもよく似ています。

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旅から戻ってきた後しばらくして「あの人は今頃どうしているかな」と思い返すことがあるように、「バングラデシュの女性たちは今頃どう生きているかな」と鑑賞後に思いを馳せるようになるはずの『メイド・イン・バングラデシュ』は、4/16(土)より岩波ホールほか全国順次ロードショー。詳細は公式サイトからご確認ください。

黄金のベンガル バングラデシュ

豊かな北部と世界最大のマングローブ、美しい月夜のシュンドルボンの森へ。

バングラデシュを撮る

写真撮影に徹底的にこだわった特別企画 通常ツアーで訪れないような厳選の撮影スポットへ。

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ダッカ

バングラデシュへの旅は、たくさんの人々との出会いも大きな魅力のひとつです。畑で働く人々、漁をする人々、雑踏のなか力一杯リキシャのペダルを踏む人や、エネルギッシュに逞しく生きるベンガルの人々はとても人懐っこく、たくさんの笑顔で迎えてくれます。

タゴール・ソングス

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バングラデシュ・インド

タゴール・ソングス

Tagore Songs

監督:佐々木美佳
出演:オミテーシュ・ショルカール、プリタ・チャタルジー、オノンナ・ボッタチャルジー、ナイーム・イスラム・ノヨンほか
日本公開:2020年

2020.4.1

心に秘めた“黄金”を すすんで分け与える ― ベンガルの人々の素顔

イギリス植民地時代のインドを生きた詩聖・タゴールは、詩だけでなく2000曲以上の歌を作った。それらはタゴール・ソングと総称され、今でもベンガルの人々に愛されている。

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カメラはインド・西ベンガル州のコルカタ、バングラデシュ、日本を行き来し、人々の心の中で受け継がれているタゴール・ソングの世界へと入り込んでいく・・・

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タゴールは1861年、インドのコルカタにある裕福な家庭のもとに生まれ、8歳から詩作を始め、文学・音楽・教育・思想・農村改革といった様々な分野で後世に“ギフト”を残しました。

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1913年にアジア初のノーベル賞を授与された詩集『ギーターンジャリ』はその代表格ですが、本作ではタゴール・ソングという“ギフト”がどのように人々に分かち合われているかに焦点をあてています。

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1947年、以前ご紹介した『英国総督 最後の家』でも描かれているとおり、ヒンディー国家であるインドから東西パキスタンがイスラム国家として分離独立しました。さらに1971年、東パキスタンはバングラデシュ(「ベンガル人の国」の意)として、分離独立しました。

劇中ではインド・バングラデシュの両国でタゴールの歌が国歌として用いられていることが紹介されていますが、タゴール・ソングが持つ国境・時代を越える「自由さ」は、映像でこそ実感できます。

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タゴール・ソングのテーマはベンガルの自然・祈り・愛・感情・習俗など多岐にわたりますが、「自由」は本作のサブテーマとなっていて、政治運動の様子や女性の自由について問題提起がなされています。

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登場人物のうちの一人、近代化するダッカで生きるオノンナは、タゴールの自由さに憧れ、不確かさを抱えながらも強く生きていく覚悟を両親に語りますが、保守的な両親は許さず言い合いとなる様子が描かれています。タゴールは存命中からすでに国境を越える存在で1916年には来日して講演をしていましたが、オノンナは「タゴールが訪れた地に行ってみたい」と、日本に訪れることになります。

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そうしたストーリー展開の中で映し出される人々の素顔は、本作の最大の魅力です。素顔という言葉には「奥に隠れている」というような意味合いがありますが、タゴール・ソングスを口ずさむ人々の顔には、ほぼ自動的といってもいいほどに素顔がスッと現れてきます。

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私は西遊旅行に勤務していたときバングラデシュを訪れたことがありますが、人々の人懐っこさに驚きました。単純に外国人観光客が珍しいからかと思っていましたが、本作を観終わった後には違う可能性が思い当たります。それは、タゴール・ソングがベンガルの地に浸透していることが、ベンガル人の精神的豊かさにつながっているということです。それほど、本作で映し出されている人々の声や表情は豊かです。

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時空を越えて今なお生き続けるタゴールの姿に触れられる『タゴール・ソングス』は、「仮設の映画館」で2020年5月16日(土)10:00-2020年6月12日(金)24:00まで上映後、ポレポレ東中野ほか全国順次ロードショー。詳細は公式サイトからご確認ください。

黄金のベンガル バングラデシュ

豊かな北部と世界最大のマングローブ、美しい月夜のシュンドルボンの森へ。

バングラデシュを撮る

写真撮影に徹底的にこだわった特別企画 通常ツアーで訪れないような厳選の撮影スポットへ。

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ベンガル

バングラデシュへの旅は、たくさんの人々との出会いも大きな魅力のひとつです。畑で働く人々、漁をする人々、雑踏のなか力一杯リキシャのペダルを踏む人や、エネルギッシュに逞しく生きるベンガルの人々はとても人懐っこく、たくさんの笑顔で迎えてくれます。