タグ別アーカイブ: チリ

ナチュラルウーマン

75bbebdea025b354(C) 2017 ASESORIAS Y PRODUCCIONES FABULA LIMITADA; PARTICIPANT PANAMERICA, LCC; KOMPLIZEN FILM GMBH; SETEMBRO CINE, SLU; AND LELIO Y MAZA LIMITADA

チリ

ナチュラルウーマン

 

Una Mujer Fantastica

監督:セバスティアン・レリオ
出演:ダニエラ・ヴェガ、フランシス・レジェスほか
日本公開:2018年

2018.2.21

イグアスの滝のように・・・ありのままに強く生きようとする”ある女性”の姿

チリの首都・サンティアゴ。ウェイトレスをしながらナイトクラブのシンガーとして歌うトランスジェンダーのマリーナは、歳の離れた恋人・オルランドと暮らしている。オルランドの誕生日、イグアスの滝に行こうとオルランドとマリーナは盛り上がる。その深夜、オルランドは急に意識が遠のき、マリーナが必死で病院へ搬送したにもかかわらず亡くなってしまう。病院に行く前に転倒していたオルランドの遺体には外傷が残っていた。そのことによりマリーナに容赦ない差別や偏見がふりかかる。

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本作の主人公・マリーナは、自身もトランスジェンダーの歌手であるダニエラ・ヴェガによって演じられています。トランスジェンダーという言葉は、作品の中では一度も出てきません。マリーナは自らをマリーナと言い、そう認めない者は男性だった時のダニエルという名前で呼ぶか、蔑称でマリーナのことを呼びます。

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亡くなった恋人・オルランドとの関係を警察や病院で聞かれ、マリーナは最初の人に思わず「友だち」と言い、次の人には「恋人」と言いなおします。この描写によって、観客は悲恋な幕開けの中から、彼女の抱える葛藤を拾い上げることができるでしょう。女性であれば堂々と恋人と言えるのに、友だちと思わず口にしてしまった言動によって、トランスジェンダーと呼ばれる人々が感じている重圧を想像することができます。

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自分は一体何者なのか?旅をするとそう考える機会が時々訪れます。国籍、日本のこと、普段何をしているのか・・・そういったことを聞かれる中で、ふと気付きが訪れる瞬間があるのが旅の大きな醍醐味の一つです。

映画の中で、マリーナは「自分は女性なのか、男性なのか」という問いを飛び越えて「自分は一体何者なのか」と繰り返し自身に問い続けます。トランスジェンダーという言葉が一度も作中で使われないことが象徴している通り、性別に関係なく、人が信念を強く持った時の輝きを本作は私たちに示してくれます。

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『ナチュラルウーマン』は、2月24日よりシネスイッチ銀座、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAにてロードショーほか全国順次公開。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

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サンティアゴ

チリの首都サンティアゴ・デ・チレ(通称:サンティアゴ)。雪に覆われたアンデス山脈とチリ海岸山脈に囲まれたチリ盆地にあります。

100人の子供たちが列車を待っている

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チリ

100人の子供たちが列車を待っている

 

Cien Ninos Esperando un Tren

監督: イグナシオ・アグエロ
出演: 映画教室の子どもたち、アリシア・ヴェガ
日本公開:1990年

2016.12.28

チリ独裁政権時代の終わりに生まれた、
小さく眩しい笑顔のプリズム

121年前の今日、1895年12月28日にフランス・パリで「映画の父」リュミエール兄弟が初めて映画の上映をしました。今年最後の「旅と映画」は、リュミエール兄弟の映画にちなんだチリのドキュメンタリーをご紹介します。

チリの首都・サンティアゴ郊外にあるロ・エルミーダに生まれた貧しい子どもたちのために、女性教師アリシア・ヴェガが半年の映画ワークショップを開始します。映画を映画館で見たことない子どもたちは、映画の歴史や、1枚だと動かない絵が残像現象によって動いているように見えることを教えてもらい目を輝かせます。

旅をすると、時には経済的に豊かではない場所に訪れることもあります。貧しいにも関わらず、娯楽が無いにも関わらず、子どもたちがキラキラした笑顔をしている・・・そんな光景を旅先でご覧になったことがある方は少なくないはずです。

子どもたちは、映画タイトルに含まれている「列車」にまつわるある一本の映画を見ます。リュミエール兄弟が121年前の今日上映した映画のうちの一本である『列車の到着』です。ただ列車が到着するだけの映像ですが、列車を待つ人々・列車から降りる人々・出会い・別れ・出発など、様々なイメージを思い浮かべることができます。

『100人の子供たちが列車を待っている』は1989年に製作され、1990年にピノチェト独裁政権が終焉を迎える直前でしたが、21歳以下鑑賞禁止となりました。子どもたちは何を待っているのか・・・それは当時の政治状況にも関連しているようにも思えます。この映画に登場する子どもたちは貧しく、ノートを買うためにゴミ捨て場からダンボールを集ている子どもなどが出てきます。そうした彼らが無邪気に映画のイメージと戯れる様子は、自由・幸せ・喜びを求めることを観客に連想させてしまうと、政府の人々は危惧したのではないでしょうか。

2016年最後の映画・2017年最初の映画に、お子さんと一緒に見るのにピッタリ(55分という見やすい長さです)の作品です。

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チリ

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NO

監督: パブロ・ラライン
出演:ガエル・ガルシア・ベルナルほか
日本公開:2012年

2016.8.24

No Future!
革命を生み出した、肯定的な「ノー」

チリで15年間に渡りアメリカの傀儡であったピノチェト。「捨てられた」という形容詞がつくこともしばしばあるピノチェト独裁政権下の1988年の設定で物語が展開していきます。この年、ピノチェトの任期延長の是非を問う国民投票が行われました。希望を失いかけていた反対派の国民を一致団結させ、政権を奪うべく立ち上がらせたのはテレビで放送された選挙キャンペーンでした。この実際の出来事が、反対派(NO派)の中心人物である才能あふれる若き広告マン・レネを主人公に描かれていきますが、『モーターサイクル・ダイアリーズ』でチェ・ゲバラに扮したイケメン俳優ガエル・ガルシア・ベルナルがレネを演じます。

YES派が一日中キャンペーンを放送できるのに対し、NO派は一日に15分のみしか放送が許されていないという絶望的な状況の中でも、レネは冷静に考えを深めていきます。そして、窮状を訴えるシリアスさより、笑いや歌によってチリの未来を感じさせるイメージを生み出すほうが人々の眠っている闘志を沸き立たせるに違いないと提案し、画期的な広告を展開していきます。

この映画で特に印象的なのは、実際の記録映像と映画のために撮影された映像の区別が段々とつかなくなってくることです。本作の撮影で使用されたカメラは1983年型イケガミ・チューブ・カメラ(池上通信機 撮像管カメラ)というカメラだそうで、最初は何かの物語というよりも、当時のドキュメンタリー番組のような雰囲気で映画がスタートしていきます。

実際、当時のアーカイブ映像も混じっているのですが、映画の撮影も80 年代当時の映像の質感や色で徹底的に撮影されていて、画面の縦横比も一昔のテレビのサイズである4:3(現在のワイドテレビは16:9)に合わせてあります。少し物語としては単調に感じる映画序盤の流れは、段々と80年代にタイムスリップしていくことを実感するための気遣いあるスピードなのでしょう。

現在のチリの土台になった歴史的出来事を、レネが提案した広告のように気軽な形でこの映画は追体験させてくれますが、劇中で非常に重要な人物を本人が演じていたり、レネのモデルになった人物がある役を演じたりしています。どの役なのかぜひ想像しながら見てみてください。