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羊飼いと風船

66721017ef3833aa(C)2019 Factory Gate Films. All Rights Reserved.

チベット

羊飼いと風船

 

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監督:ペマ・ツェテン
出演:ソナム・ワンモ、ジンバ、ヤン・シクツォほか
日本公開:2021年

2021.1.6

中国・青海省に暮らすチベット系家族に、一人っ子政策が与えた影響

1990年代後期、中国・青海省。省都・西寧のはずれにある青海湖のそばで牧畜をしながら暮らすチベット系の家族がいる。祖父・若夫婦・3人の子どもたち―三世代の家族で昔ながらのつつましい生活をしていて、子どもたちは一人っ子政策施行後に無料で配布されるようになったコンドームを、用途を知らないまま風船のように膨らませてのんきに遊んでいる。

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ある日若夫婦の妻が妊娠していることがわかる。子どもを産むことによる罰金や経済的負担を懸念して子どもを堕ろそうとする妻に対し、身内の生まれ変わりかもしれないと夫は反対して・・・

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私が本作の監督 ペマ・ツェテンの世界観を知ったのは2013年に出版された『チベット文学の現在 ティメー・クンデンを探して』(勉誠出版)という短編小説集です。2011年まで西遊旅行に勤務していたときにはチベット文化圏のツアーを担当していて、文化・歴史の本は読み漁ってきたものの、文学には全くノータッチでした。この短編集におさめられた11のストーリーの世界観に初めて触れたときの感覚はとてもよく覚えていますが、チベット文化圏を訪れたときの、ある種の不可解さを納得させてくれるものでした。

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心からカルマの倫理や輪廻転生を信じている人々にチベット文化圏で触れると、いわゆる現代社会の一般的な感覚では説明がつかない現象や行動に遭遇します。

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たとえばブータンで、不注意か何かで崖っぷちに落ちてしまった(ドライバーは亡くなった)現場に居合わせたときには、人々が崖下のトラックを覗きこみ、救援を呼ぶでもなく、淡々としばらく念仏を唱えてそのまま去っていってしまいました。死や悲惨な現場を目の前にしている状況にしてはあまりにあっけらかんとしていて拍子抜けしましたが、「事故に遭ったのはなにかしら業によるものだし、死者はそのうち生まれ変わるとみんな思っている」とガイドさんから説明を聞いたのをよく覚えています。

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『チベット文学の現在 ティメー・クンデンを探して』でもこうした円環的世界観は具現化されていますが、本作『羊飼いと風船』では、「暖炉 / ライター(原始 / 文明)」「羊 / 人間(畜生界 / 人間界)」など、シンボルや存在がマトリョーシカのように入れ子構造となり映像化されています。

最も重要なシンボルは、題名にもなっている「風船」とその赤い色です。劇中で空に舞っていく赤い風船は、何を象徴しているのか?

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私には、近代化の荒波にもまれたチベット民族の精神、そして、先祖代々受け継がれてきた宗教的・経済的・ジェンダー的価値観が激変を強いられたという過去が凝縮されているように感じました。

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監督の故郷である青海省の景観も魅力の『羊飼いと風船』は1月22日(金)よりシネスイッチ銀座ほか、全国順次ロードショー。詳細は公式ホームページをご覧ください。

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青海湖

中国最大の塩水湖。 紺碧の水をたたえた湖は一周約360㎞、琵琶湖の六倍もの規模を誇り、ほとりに建つ遊牧民のテントが風情を添えています。湖畔には立派な宿泊施設が完備され、テント風の施設(張房式)や小さなホテルに泊まることができます。

巡礼の約束

2f7d5a21fcf9e1d6(C)GARUDA FILM

チベット

巡礼の約束

阿拉姜色 Ala Changso

監督:ソンタルジャ
出演:ヨンジョンジャ、ニマソンソン、スィチョクジャ
配給:ムヴィオラ
日本公開:2020年

2020.1.29

「縁起」の流れの上に漂う、チベット人家族の運命

山あいの村で暮らす女性・ウォマは、ある夢を見た朝に必死に火をおこして供養をする。ウォマの姿を見た夫のロルジェは、なぜそんなに必死なのか解せず、呆然とその様子を見守る。

病院で医師からあることを告げられたウォマは、ロルジェに「五体投地でラサへ巡礼に行きたい」と、決心を伝える。はじめロルジェは反対していたものの、やがてウォマの固い決意知り、受け入れる。

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野を越え、山を越え、果敢にも巡礼の道を歩みだしたウォマだったが、途中で倒れてしまう。彼女の巡礼にかける想いは、一人だけのものにとどまらず、まわりの人々や過去・未来という時間の流れをも巻き込んでいく・・・

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チベットの人々にとって、ポタラ宮・ジョカン(大昭寺)や、ガンデン寺・セラ寺・デプン寺などチベット仏教ゲルク派の聖地が集まるラサへの巡礼は、一生に一度は成し遂げたい夢だといいます。

ラサには西遊旅行勤務時に2回添乗でご一緒させてもらいました。特にジョカンでは、小さな堂内に響く祈りの声や、外のカラッと乾燥した気候と熱気あふれる堂内との温度・湿度差から、巡礼者の敬虔さに触れられたような気がして、ご本尊の黄金の釈迦牟尼像がより輝いて見えました。

映画の中で、敬虔なウォマや家族たちが「運命」という言葉をよく口にします。チベット語はわかりませんが、チベットでいう「運命」というのは、たとえば恋愛ドラマで使われたりする場合とは全く異なり、「縁(縁起)」という強い意味合いが含まれていることは知っています。サブ1

登場人物たちが苦難に直面し「こういう運命なんだ」と口にする場面は、一見悲観的で、諦めているかのように感じるかもしれません。ぜひ鑑賞される際は字幕とあわせて、言葉そのものの響きによく耳を傾けてみてください。おそらく、どんな時でも共にいてくれる仏さまへの感謝の気持ちが含まれていることを感じ取れるはずです。

これは仏教圏である日本人だからわかるのではなく、宗教を問わずわかる、いわば映画の普遍性があらわれているポイントです。ただ、そういう含みをもったふうに「運命」という言葉にこめる感情を演出することは、チベット出身の監督だからこそできるのだと思います。繊細微妙にして感動的な必見ポイントです。

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『巡礼の約束』は、2/8(土)より岩波ホールほか全国順次ロードショー。詳細は公式サイトからご確認ください(ソンタルジャ監督の過去作『草原の河』、同じくラサへの巡礼を描いた『ラサへの歩き方~祈りの2400km 』もあわせてぜひチェックしてみてください)。

四川省・丹巴 美人谷を歩く旅

古来から美人を多く輩出してきた丹巴(たんぱ・ロンタク)の「美人谷」。近年一躍脚光を浴び観光地化が進んでいますが、ツアーでは観光地化されていない集落や、橋や道路がなかった時代に集落と集落を結んでいた峠越えの道にご案内いたします。訪れる人の少ない丹巴の集落を、こだわりを持って時間をかけて歩きます。

歩いて巡るチベット 天空の都ラサと聖湖ナムツォ

チベット仏教への信仰が篤く、数々の巡礼路が残るラサ。聖地として知られる3つの寺院(ガンデン寺、パボンカ僧院、大昭寺)を取り囲む巡礼路をゆっくり歩いて巡ります。

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ラサ

チベット自治区の区都。チベットの政治的・宗教的中心地。 7世紀にチベットを統一した吐蕃王国のソンツェンガンポ王により、チベット(当時は吐蕃王国)の都として定められました。

草原の河

c7d39c7596646263©GARUDA FILM  配給:ムヴィオラ

チベット

草原の河

 

監督・脚本:ソンタルジャ
出演:ヤンチェン・ラモ、ルンゼン・ドルマ、グル・ツェテンほか
日本公開:2017年

2017.4.19

日本初、チベット人監督による劇場公開作!少女に死生観が芽生える瞬間

舞台はチベット高原東北部の青海省。広大な自然の中で牧畜を営む一家のもとに新しい命が誕生しようとしています。しかし、6歳の少女・ヤンチェンは母親をとられてしまうかもしれないと、赤ちゃんが生まれることを喜んで受け入れられません。

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ヤンチェンの父・グルは、4年前に起きたある出来事から、自分の父との間に確執を抱えています。季節の変化とともに、家族の気持ちも変化していき・・・・・・

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主人公のヤンチェンは、ピアスやアクセサリーをつけていて、カラフルな民族衣装も立派に着こなしているのですが、まだ乳離できていなく精神的に幼い女の子です。目の前のことひとつひとつに興味を持つ多感な彼女は、子どもができる仕組みや、種を蒔くと芽が出ることなど、素朴なことに疑問を抱きます。

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答えを知ることからだけでなく、分からないことを突き詰めていく過程でも人は成長していきますが、ヤンチェンは物語の中で「誕生」や「死」という深遠な事柄に興味を抱いていきます。カメラはそんな少女を、空と大地が接しているようなチベットの空間の中にポツンと配置し、きっと自然から多くを教わって育っていくのだろうと見守りたくなるような切り取り方で映しだします。

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自然のシーンもさることながら、ヤンチェンとグルがある理由で都市部に行くシーンも印象的です。以前、このコラムで取り上げたグアテマラ映画『火の山のマリア』も、先住民が都会と距離を置いて生活している姿が描かれた映画でしたが、ヤンチェンたちは都市部にバイクで(おそらく1〜2時間ぐらい)行ける距離で放牧をしています。ヤンチェンは町を特に珍しがっている様子はなく、時折都市まで出てくることがあるという環境で育っているのでしょう。

近い将来、ヤンチェンが町の学校に行くことになったら、遊牧生活を送る一家はどうなっていくのか・・・いつか来る「終わりの時」をかすかに感じさせながら、彼女の純粋な振る舞いは観客に、生きること、死ぬことを今一度見直させてくれます。

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記念すべき日本初のチベット人監督による劇場公開作『草原の河』は、4月29日(土・祝)より岩波ホールにてロードショーほか全国順次公開。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

ラサへの歩き方~祈りの2400km

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チベット

ラサへの歩き方~祈りの2400km

 

岡仁波斉   Paths of the Soul

監督:チャン・ヤン
出演:チベット巡礼の旅をする11人の村人たち
配給:ムヴィオラ
日本公開:2016年

2016.6.29

聖なる大地・チベットを包む、
巡礼者たちの小さな祈り

舞台はチベット自治区。東チベット・マルカム県プラ村の人々が1200km離れた聖地・ラサ、そしてさらに1200km先のカイラース山への巡礼の旅に出ます。 それぞれの思いを胸に巡礼に臨む11人は、両手・両膝・額を地面に投げ出して祈る五体投地を何百万回と繰り返しながら、まさに体をすり減らして進んでいきます。

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五体投地は実際にしばらくやってみるといかに体力を使うかがわかりますが、小学校低学年ぐらいの少女も含む一行は基本的に標高3000m越えの環境で五体投地をひたすら繰り返して、途中4500mを越える峠をも越えて聖地を目指します。

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この作品の驚くべき点は、実際の村人たち本人が自分たち自身を演じているフィクションであるという点です。出演者たちの敬虔さや、荘厳なチベットの風景といった実質的要素が手伝って、物語はフィクションとドキュメンタリーの境目を足音なく行き来し、観客に手を差し伸べてくれます。

カメラは幾度となく誰が誰だか判別できないくらい遠くからのアングルで、風景に同化させるようなとらえ方で登場人物たちを映します。命の生き死にが人間から近いところで行われている描写も随時はさまりますが、物語は「チベット」という場所を越え、鏡が光を反射するように私たち自身の生活を省みさせてくれます。

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一般的な感覚からすると、時は過去から未来へと一方向に進み、人生は何かを積み重ねていくもののように感じます。社会生活の中で私たちは何かを身につけたり、経験したり、増やしたりすることに価値を感じがちです。旅の途中で巡礼者たちが祈りながら道端に小石を積み上げる様子が度々映しだされますが、私はその度に彼らの中の何かが削ぎ落とされていくような印象を受け、「減らす」ということの美徳を感じました。積む動きをとらえたシーンで減らす美徳を感じるというのも不思議な話ですが、登場人物たちのちょっとした行為の節々から、彼らが持つ美しい感覚を感じ取ることができます。

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私自身ラサには数回訪れ、道路脇で五体投地している人やポタラ宮やジョカン(大昭寺)で熱心に祈りを捧げる人を目にして、彼らがそこに至るまでの果てしない旅路を想像していました。この映画は、私がその時知りたかったことに対する一つの答えを見せてくれました。

チベットに興味がある方から、日々の複雑な悩みを単純にみつめなおしてみたい方にオススメです。

7/23(土)よりシアター・イメージフォーラムにて公開。その他全国順次上映。

詳細は公式サイトからご確認ください。

青蔵鉄道で行く チベットの旅

世界最高所を走る青蔵鉄道に乗車し、聖なる都・ラサを目指します。西寧からゴルムドを経由し徐々に標高を上げて青海省・チベット自治区の境にある唐古拉峠(5,072m)を越えると、車窓には7,000m峰のニェンチンタングラ山脈や草原が広がります。列車の旅は、景観をお楽しみいただくだけではなく、ラサへ向かう前の高度順応としても最適です。

聖地カイラス山巡礼とグゲ王国

カイラス山までは世界最高峰チョモランマなどのヒマラヤ山麓を展望しながら向かいます。カイラス山では52kmの巡礼路を徒歩にて一周します。

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ラサ

チベット自治区の区都。チベットの政治的・宗教的中心地。 7世紀にチベットを統一した吐蕃王国のソンツェンガンポ王により、チベット(当時は吐蕃王国)の都として定められました。