ディーパンの闘い
監督: ジャック・オディアール
出演: アントニーターサン・ジェスターサン、カレアスワリ・スリニバサン、カラウタヤニ・ヴィナシタンビほか
日本公開:2016年
力強く静かな象のように・・・
平和を求めるスリランカ難民の闘い
内戦で妻子が殺された兵士ディーパンはフランスに入国するため赤の他人の女・ヤリニと少女・イラヤルとともに偽装家族となり、故郷・スリランカを旅立ちます。難民審査を通り抜け、パリ郊外の団地でディーパン・ヤリニともになんとか職を得て、他人同士の家族の間にも少しずつ交流が生まれていきます。生活にも少し余裕が出てやっと明るい未来が見え始めた時、またしても暴力の影が3人に忍び寄ってきます・・・。
この物語はスリランカで1983年から2009年まで続いたシンハラ人とタミル人の内戦が背景となっています。内戦の原因は元をたどればイギリス植民地時代(イギリス領セイロン時代)に遡ります。それ以前にも古くから関わりがあった両者は、長い時間をかけて社会の中で融和を築いていました。しかし、植民地時代にイギリスが紅茶プランテーションのために大量のタミル人を南インドから移住させ、さらにシンハラ人よりタミル人を優遇したことで、長い間かけて形成されたバランスをあっけなく崩してしまいました。1948年にスリランカが独立した後いがみ合いは激化していき、「仏教徒のシンハラ人」と「ヒンドゥー教徒のタミル人」という形でルーツが同じはずの宗教も戦争の理由として組み込まれてしまいました。
主人公・ディーパンを演じたアントニーターサン・ジェスターサンは、実際にスリランカ内戦を経験した元兵士(タミル側)で、フランスに亡命後作家として活躍している人物です。ディーパンがどのような経験を内戦中にしたのかは劇中ではほとんど語られませんが、役者自身の経験がディーパンの一挙手一投足に説得力を生み出しています。
劇中で特に私が印象的だったは、唐突に何回か挿入される象のカット(おそらく夢の内容を表現した)シーンです。私は時々旅先で「この国に来てるのに、何でこんな夢を見るのだろう?」と思うような奇妙な夢を見ることがあります。日本を離れて、イギリスに留学していた時に初めて英語で見た夢も思い出深いです。スリランカからフランスへの長い旅路の中、そして慣れない異国の地で登場人物たちは日々どんな夢を見ていたのでしょうか。ぜひそういった点も想像しながら映画を鑑賞してみてください。