タグ別アーカイブ: スペイン

瞳をとじて

(C)2023 La Mirada del Adios A.I.E, Tandem Films S.L., Nautilus Films S.L., Pecado Films S.L., Pampa Films S.A.

スペイン

瞳をとじて

 

Cerrar los ojos

監督:ビクトル・エリセ
出演:マノロ・ソロ、ホセ・コロナドほか
日本公開:2024年

2024.2.7

スペインを南へ北へ、過去から未来へ―内面世界への旅

映画監督ミゲルがメガホンをとる映画「別れのまなざし」の撮影中に、主演俳優フリオ・アレナスが突然の失踪を遂げた。

それから22年が過ぎたある日、ミゲルのもとに、かつての人気俳優失踪事件の謎を追うテレビ番組から出演依頼が舞い込む。


取材への協力を決めたミゲルは、親友でもあったフリオと過ごした青春時代や自らの半生を追想していく。

名匠スタンリー・キューブリックの映画で『アイズ・ワイド・シャット』という作品がありました。文脈によって翻訳は微妙に変わるかと思うのですが、「しっかりと目を閉じる」ですとか「目の前のことを受け入れない」といった感じに訳出できる、矛盾した含みを持った言葉です。

本作の題名とポスターを見た時に、題名とは矛盾するのですが「これは『見る』ことに関する映画だな」と予想しました。

予想は当たっていたと、鑑賞後に感じました。監督のビクトル・エリセは「スペインの映画監督といえば」といったとき真っ先に名前があがるぐらい有名ですが寡作な監督して知られています。

今までのほとんどの作品は幻想的な作品でしたが、本作はスペインの首都・マドリッドやテレビ番組など、とても現実的な設定ではじまっていきます。

でもやはりそこはビクトル・エリセ監督で、だんだんと記憶や幻想の世界に、あくまで序盤の現実的な世界に立脚したうえで入り込んでいきます。ロケーションも、南部のアンダルシアや北部のアストゥリアスなど、周縁部に移行していきます。

僕が特に印象的に感じたのは、映画の中で何度か繰り返される顔のクローズアップです。なんてことはない、よくあるアングルなのですが、役者さんは(目を開きまばたきを時折しながら)とても深い響きを以てセリフを話します。なんだかその言葉というのは「目を閉じて自分の内面を見つめて発されている」感じがすごくしました。

おそらく31年ぶりの長編作でビクトル・エリセが世界中の観客に訴えかけかったのは、そういった「内面への旅」が、いかに現代社会において尊いものであるかということと僕は感じ取りました。『瞳をとじて』は2024年2月9日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次上映。詳細は公式HPをご確認ください。

バスクの巡礼路を歩く

フレンチバスクからのピレネー越えを経て、サンセバスチャンからゲルニカへ歩くコースです。サンティアゴ巡礼「北の道」の内、風光明媚なバスク地方に通る道に焦点を当てて楽しみます。ビスケー湾の真珠と称されるコンチャ海岸からスタートし、進行方向左手に山、右手に海を臨みながら歩くと漁師町・ゲタリアや美しい砂浜を持つデバなど美しき小さな町々が現れます。

ミツバチのささやき

ec254d2892524d08(C)2005 Video Mercury Films S.A.

スペイン(カスティーリャ)

ミツバチのささやき

 

El espiritu de la colmena

監督:ビクトル・エリセ
出演:アナ・トレント、イサベル・テリェリア
日本公開:1985年

2018.12.26

スペイン・カスティーリャに住む、妖精のような少女の心象風景

1940年頃、スペイン中部のカスティーリャ高原の小さな村に1台のトラックが入っていく。トラックは映画の移動巡回で、作品は『フランケンシュタイン』だ。喜ぶ子どもたちの中にアナと姉のイザベルがいる。

身の回りで起きるひとつひとつの出来事に興味津々のアナは、フランケンシュタインが怪物ではなく実は精霊で村のはずれの一軒家に隠れているとイザベルに聞き、その話を信じ込む。ある日アナがその家を訪れると、スペイン内戦で負傷した兵士と出会う・・・

「三つ子の魂百まで」という言葉がありますが、幼少期の経験はその後の考え方に強く影響すると言われています。それは、旅の最中にどのような光景に心打たれるかにも関わってくるはずです。

本作の背景となっているのはスペイン内戦、そして舞台はサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路も通っているカスティーリャ地方です。過酷な時代背景の中で、幻想的なカスティーリャの雰囲気が子どもならではの神秘的な体験を助長し、周囲で起きている戦争の「わからなさ」が無垢な心に容赦なく入り込んでいく様子が本作では描かれています。

度々この作品を見返していますが、見た時はいつもある感覚を思い出します。私はキリスト教の幼稚園に通っていましたが、天上界から神に見張られている気が度々していました。そして、ある時を境にその「見られている感じ」は消えたのですが、いつどのようにして消え去ったのかは全く覚えてないのです。

いまだに旅行に行くと神聖な場所や聖地巡礼が好きなこと、そして自分が作る映画ではほぼ全作死生観をテーマにしているのは、おそらくこの幼少期の体験が根底にあるのではないかと思います。

子どもの頃の忘れられない記憶、あるいは忘れかけていた感覚を蘇らせてくれて、旅に出る動機の源泉に気付かせてくれる1本です。

ジプシー・キャラバン

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インド・マケドニア・ルーマニア・スペイン

ジプシー・キャラバン

 

When the Road Bends: Tales of a Gypsy Caravan

監督: ジャスミン・デラル
出演: タラフ・ドゥ・ハイドゥークス、エスマ、アントニオ・エル・ピパ・フラメンコ・アンサンブル、ファンファーラ・チョクルリーア、マハラジャほか
日本公開:2008年

2017.2.1

千年にわたる旅路の中で紡ぎ出された、魂を揺さぶるジプシー音楽

インド北西部・ラジャスタンに起源を持つ移動民族・ロマ。約1000年前、彼らは西に向けて放浪の旅に出ました(旅に出た理由は諸説あり、定かではありません)。時に厳しい迫害や差別を受けながら、ロマはスペイン・アンダルシア地方までたどり着きました。道中に散り散りになったロマたちは、各地で独自の音楽を奏で、それを継承してきました。彼らの音楽は総称してジプシー音楽と呼ばれます。

この映画は、4カ国・5つのバンドが6週間かけて北米をツアーした「ジプシー・キャラバン」に密着し、さらにそれぞれの故郷を映し出していくドキュメンタリー映画です。

女装ダンサーが目にも留まらぬ速さの回転をみせるインドの「マハラジャ」。マケドニアの美空ひばりこと「エスマ・レジェポヴァ」。世界的なジプシー音楽ブームの火付け役であるルーマニアの「タラフ・ドゥ・ハイドゥークス」と、ジプシー・ブラスの代表格「ファンファーレ・チョカリーア」。ストイックさを突き詰めたスペインのアントニオ・エル・ピパ・フラメンコ・アンサンブル。

総勢35人のメンバーたちは、アメリカ各地を移動して寝食をともにする中で、音楽談義やお互いの故郷のことを話し合います。そしてそれぞれの違ったスタイルの中に、同じルーツを見出していきます。

私はタラフ・ドゥ・ハイドゥークスのコンサートを数回見に行ったことがありますが、毎回ステージ上での演奏後にコンサートホールのロビーで投げ銭を集めながらパフォーマンスを続けていました。彼らがお金を集めるのには理由があります。映画でも彼らの村の様子が映し出されますが、彼らの出身地・クレジャニ村の人々の生計はタラフ・ドゥ・ハイドゥークスの稼ぎで成り立っているのです。マケドニアのエスマ・レジェポヴァは約50人を養子として育ててきました。そうした演奏の場を離れた彼らの様子は、音楽の響きをより深みのあるものにしてくれます。

タラフ・ドゥ・ハイドゥークスの大ファンであるというジョニー・デップのコメントも収録されている本作は、5グループの音楽を聞き比べることでロマたちの長い旅路が頭のなかにイメージできる、ジプシー音楽入門として最適な一本です。

ラッチョ・ドローム

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インド・トルコ・エジプト・フランス・スペイン

ラッチョ・ドローム

 

Latcho Drom

監督:トニー・ガトリフ
出演:タラフ・ドゥ・ハイ・ドゥークス、チャボロ・シュミットほか
日本公開:2001年

2016.6.8

流浪の民たちの道筋を辿る旅へ思わず出たくなる、至幸の映像詩

自身がロマ(北インドのロマニ系に由来するジプシー)のルーツを持つアルジェリア生まれのトニー・ガトリフ監督は『ガッジョ・ディーロ』『トランシルヴァニア』など他にも多くのロマに関する映画を撮っていますが、その中でも特に代表作と言われているのが本作『ラッチョ・ドローム』です。題名はロマ語で「良い旅を」という意味で、映画はロマが元々住んでいたと言われるインド北西部のラジャスタンからスタートし、スロヴァキア、トルコ、ハンガリー、エジプト、南フランスなどを経て最終的にスペイン・アンダルシア地方にたどり着きます。各地で奏でられる音楽をひたすら映し出すというドキュメンタリーに近いタッチで描かれていますが、本作がドキュメンタリーと必ずしも言い切れないのは、その土地土地の日常の様子や街の音、そして音楽に聞き入る人々が醸しだす熱気が力強い物語を紡いでいる点にあります。特にジョニー・デップが「世界一好きなバンド」と公言しているルーマニアのタラフ・ドゥ・ハイドゥークスが地元のクレジャニ村で老若男女を巻き込んで演奏する風景や、ジプシー・スウィングの大御所チャボロ・シュミットが南フランスのサント・マリードゥ・ラ・メールの祭りの中で演奏する映像は圧巻です。私自身、この映画の影響でルーマニア・ハンガリー・ポーランド・南フランス・トルコなどを旅しました。

ジプシー音楽を知ってみたいという方、一気に魅力的な場所を多く見れるのでどこに旅行に行こうか考えていらっしゃる方におすすめの1本です。

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イスタンブール

ビザンツからオスマンまで、帝国の興亡を見つめてきた街。ボスポラス海峡を隔て、アジアとヨーロッパにまたがるトルコ最大の都市。首都はアンカラに遷都されましたが、現在でもトルコの文化、商業の中心です。

星の旅人たち

(C) The Way Productions LLC 2010

スペイン

星の旅人たち

 

THE WAY

監督:エミリオ・エステベス
出演:マーティン・シーン
日本公開:2012年

2016.3.9

聖なる巡礼の道が呼び寄せた
それぞれのストーリー

旅に出る理由は人それぞれ。アメリカ人の眼科医・トムは、息子の死をきっかけに「星の平原」サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路を知り、息子の遺灰をまきながら巡礼の道を歩む決意をします。道中の素晴らしい風景を見ているだけでもちょっとした旅行気分になるこの映画。スペインにおけるバスク文化や言語の多様性、ヨーロッパにおけるジプシーに対する偏見など、デリケートな問題をさりげなく鑑賞者に意識させるタッチで描かれています。トムが出会う巡礼者たちの旅の理由は、禁煙やダイエット、スランプからの脱出と様々。それぞれ目的の違った巡礼者が同じ聖ヤコブの祀られた大聖堂を目指すからこそ面白いドラマが生まれていき、自分が旅したらどんなドラマになるだろうかと思わず想像してしまいます。もう行くと決心された方も、検討中の方にも、「星の平原」に足を踏み出したくなるオススメの作品です。

聖地サンティアゴ巡礼

巡礼者に最も人気のある「フランス人の道」ラスト約114㎞を行く。少人数グループで歩き、ペリグリーノ(巡礼者)たちとの交流も楽しむ。

ポルトガル人の道から聖地サンティアゴへ

聖地サンティアゴ巡礼 第二弾。サンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路、「ポルトガル人の道」を歩く。巡礼ルートのラスト約115㎞を歩きます。