落葉
監督:オタール・イオセリアーニ
出演:ラマーズ・ギオルゴビアーニ、マリナ・カルツィワーゼ
日本公開:1966年
道端の落葉を愛でる感性を持つ人生と、持たない人生―文化醸成は茨の道―
ワイン醸造所の新人技師・ニコは真面目で職人たちからの信頼も厚いが、出世主義の同僚は職人たちを見下していた。ニコは研究室で働く女性・マリナに想いを寄せている。
ある日、醸造所の上司は共産党幹部が定めたノルマを達成するため、未成熟の樽の開封を決める。ニコはこれに異議を唱え抵抗するが・・・
あらすじを一見すると恋愛ドラマにも見えかねない本作は、「文化とは何か」という「メタ(高次)」なメッセージを含んだ、普遍性のある物語です。作り手が「メタ」な作品に仕立て上げようとしている証拠は、時折現れる極端なトラックアップ(カメラが被写体に近づく)の動きや、ヒロインのマリナがカメラに向かってウィンクする(フランスのニューウェーブ映画へのオマージュ)からも感じられます。
その他の前提として、以前にもこの「旅と映画」でご紹介しましたが、ジョージアの最も重要な伝統産業のひとつがワイン製造であるということがあります。サペラヴィというタンニンを多く含んだブドウ品種や、陶器のボトルが特徴的です。
そしてもう一点お伝えしておきたいのは、醸造の世界史を振り返ると、「産業の圧力」に製造側が屈してしまった場合、産業自体が廃れてしまうという現象が起こったことがあるということです。たとえば、リンゴ発泡酒(英語:サイダー/仏語:シードル)の歴史を振り返ると、ローマ帝国時代からサイダーの伝統があって「水代わり」にサイダーが飲まれていたような地域もあるほど文化が根付いていたイギリスであっても、産業革命で生産・出荷を優先したばかりに悪質なサイダーが出回ったり、金属パイプが要因の中毒症状によって評判が下がり、一気に伝統が廃れてビールに取って代わられるという出来事がありました(ちなみになぜこんなに詳しいかというと、今サイダーのドキュメンタリー映画を企画開発しているからです)
本記事はまだ作品をご覧になっていない方を主な対象にしているので、物語の結末の詳述は避けますが、「本作のタイトルがなぜ『落葉』なのか」という点は、ぜひご覧いただいた後に考えていただくと楽しいと思います。
僕が思うヒントを、お伝えしておきます。
まず一つは「落ちている葉っぱの叙情にあなたは目が留まるか、そして目を留めた時にちゃんと立ち止まれるか」という作家の問いかけがタイトルにはこめられている思います。
もう一つのキーワードは「循環」です。「よい文化醸成には、気づきの循環が必要だ」ということは、戦後にスターリン独裁以来揺れに揺れてきた当時の旧ソ連体制下の国家に住む作家として、声を大にして言いたかったことなのだと想像しました。
ストーリー本筋の外側に巧みに、ワインの味わいのような深みあるメッセージを形作っている『落葉』を含む「オタール・イオセリアーニ映画祭〜ジョージア、そしてパリ〜」は2/17(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。その他詳細は公式HPよりご確認ください。