©Aichholzer Film 2020
オーストリアからオーストラリアへ~ふたりの自転車大冒険
監督・出演:アンドレアス・ブチウマン、ドミニク・ボヒス
日本公開年:2022年
カラフルで滋味あるスムージーのような、つぶつぶ感のある映像旅行記
オーストリアからオーストラリアまで、陸路1万8000キロを自転車で走破するべく旅に出た2人の青年、アンドレアスとドミニク。
モスクワの赤の広場、カザフスタンのステップ砂漠、カラコルム・ハイウェイなどを経ながらユーラシア大陸を横断して、目的地のオーストリア・ブリスベンまでVlog(ビデオ・ブログ)を撮りながらの旅が始まる。
カメラは豪雨、水・食料の枯渇、灼熱、日射病、ケンカなど、道中で起きる様々な出来事を記録していく・・・
旅に出る理由というのはいわば「何でもあり」なわけですが、その中で最もオーソドックスな手法は、「宮殿ホテルでマハラジャ気分を味わいたい」「ウユニ塩湖が鏡面状になっている景色を見たい」「ヒマラヤでブルーポピーの花が咲いているのを見たい」など、何かしらの形で「ゴール地点を定める」ということでしょう。
ゴール地点が定まると、いわゆる「あてのない旅」ではなくなるわけですが、そのゴール地点に必ずしも意味付けがあるとは限りません。たとえば、僕は大学のときに青春18切符(JRの在来線5日間乗り放題)で「とにかく遠くまで行こう」と、特段具体的な理由なしに、ひたすら在来線で東京から鹿児島の指宿まで行きました。若い発想だな、と自分の行動ながらに思います。
本作は「オーストリアはオーストラリアと名前が似ているから、オーストラリアに行こう(しかも陸路 かつ オーストラリアもしっかり横断する)」という若々しい発想にもとづく旅で、目的地はしっかり定まっているものの、旅内容の具体性の無さが、旅先で多くの人々・現象を引き寄せていきます。
たとえば、カザフスタンやパキスタンで、彼らは偶然出会った現地人に食事・結婚式に誘われたり、歓迎の宴を催してもらったりします。もし、何か急ぐべき理由があったら、このような現象は起きていないはずです。
僕自身も規模はかなり違いますが、同じようなやり方で旅をしたことがあります。器のように、何かを受け止められるような態勢を保ちながら旅をする、とでもいえばいいでしょうか。そのような「受け」あるいは「待ち」の姿勢は、なかなか普通の社会勉強では会得し難いものではないかと思います。
本作には、西遊旅行のお客様であれば、場所が判別できるシーンがたくさんあるはずです。特に僕がドキリとしたのはパキスタンのカラコルム・ハイウェイです。「あの断崖絶壁の悪路を、自転車で行ったとのか・・・」と、想像するだけで怖くなり、主人公の2人を尊敬しました。
オサマ・ビン・ラディンが暗殺されたカラコルム・ハイウェイの入り口の町・アボッタバード、中国の新疆ウイグル自治区・カシュガルの市場、インド・パンジャーブ地方 アムリトサルのゴールデン・テンプル(シク教の聖地)など・・・
様々な町の様子が主観的映像を中心に映し出され、本当に現地を旅をしているかのような心地になるはずです。
リアルな映像の連続で、GoProなどウェアラブル・カメラが欲しくなってしまうかもしれない『オーストリアからオーストラリアへ~ふたりの自転車大冒険』は、2022年2月11日(金・祝)よりヒューマントラストシネマ有楽町・アップリンク吉祥寺ほか全国順次上映。詳細は公式ホームページをご確認ください。