(C)2019「旅のおわり世界のはじまり」製作委員会/UZBEKKINO
旅のおわり世界のはじまり
監督:黒沢清
出演:前田敦子、染谷将太、柄本時生、加瀬亮、アディズ・ラジャボフ
日本公開:2019年
遠い異国の地・ウズベキスタンで、一番近い「自分」の心に迷い込む
いつか舞台で歌うという夢を持つテレビ番組レポーター・葉子は、巨大な湖に潜む幻の怪魚を探すという番組制作のため、ウズベキスタンを訪れる。クルーたちは番組収録を始めるが、異国の地でのロケは思うように進まず、現場はいら立ちに満ちていく。ある日、撮影が終わって1人で町に出た葉子は、歌声に導かれて美しい装飾の施された劇場に迷い込む・・・。
本作はウズベキスタンの首都・タシケントにあるナボイ劇場の創建70周年を記念して製作されました。タシケントのほかにも、古都・サマルカンドや山岳地方など、ウズベキスタンの魅力を存分にいかした撮影がなされています。
イスタンブールと同じく「文明の十字路」と形容されるウズベキスタン。その荒涼とした大地に立つ葉子の心に様々な思いが交錯している心の動きが、言葉で言わずして、映像の力をもって伝わってきます。
私はウズベキスタンに行ったことはありませんが、成田からウズベキスタン航空の直行便も飛んでおり(約9時間)、ウズベキスタンという国は意外と「近い場所」に感じるのではないかと思ってきました。しかし、前田敦子演じる葉子にとって、ウズベキスタンは「遠い異国の地」です。
「距離感」は物理的な尺度だけではなく、心理的な要素も影響します。 葉子は、自分の未来への不安、うまくいかない現在、そして心の底にある過去のあいだを、「異国の地」でぐるぐると巡っていきます。
人は様々な思いで旅に出ますが、100%旅先に染まるということは稀です。いくらかは出発点や、家庭や、何か軸になっているものを旅先に持ち込むような形で、旅先に染まりきらない要素を何かしら旅人は持っているものです。そんな一切合切を乗り越えて新しい地平へ、旅の途中にさらに旅立つパワーを本作は感じさせてくれます。
記念すべき日本・ウズベキスタン初合作映画『旅のおわり世界のはじまり』は、6/14(金)から全国ロードショー中。詳細はホームページでご確認ください。
タシケント(ナヴォイ劇場)
ウズベキスタンの首都で旧名シャシュ。「石の街」を意味するこの街は中国の文献で「石国」という名でも記録されています。1966年の大地震によって、街の大部分は破壊され、ソビエト時代に新しい街が形成されましたが、旧市街には古きシルクロードの面影を残す建物が残っています。
ナヴォイ劇場は1947年完成のオペラ・バレエ劇場。この劇場は、第2次世界大戦中タシケントに抑留された日本兵が建築に強制労働として参加されました。勤勉に工事に従事した日本兵のおかげで、1966年の大地震でも全く損傷がありませんでした。この地で眠った日本兵の方々の墓地も、タシケントの郊外にあります。