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歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡

歩いてみた世界_B5_H1_N©️SIDEWAYS FILM

イギリス・アルゼンチン・オーストラリア・ガーナ・チャド等

歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡

 

Nomad: In the Footsteps of Bruce Chatwin

監督:ベルナー・ヘルツォーク
出演:ブルース・チャトウィン、ベルナー・ヘルツォーク
ほか
日本公開:2022年

2022.5.25

歩き、放浪するという生き方―作家・ブルース・チャトウィンに、今こそ出会う

ドイツの名匠ベルナー・ヘルツォークは、『パタゴニア』『ソングライン』等の著作で有名なイギリス人紀行作家ブルース・チャトウィン(1940-1989)と親交を持っていた。

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死後30年以上経っても色褪せないどころか輝きを増すブルース・チャトウィンの著作と彼の存在自体が、ヘルツォーク監督自身のナレーションやさまざまなインタビューを交えながら、全8章構成で振り返られていく・・・

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ベルナー・ヘルツォーク監督はフィルモグラフィー(映画制作歴)に「旅」にかかわる作品が多い監督で、西遊旅行のお客様にピッタリの作家なのでいつかご紹介できればと機会を伺っていました。

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本作では対談・インタビューだけではなく、ヘルツォーク監督の過去作からの引用も収録されていて、一作の中で全世界様々な場所へ旅した気分が味わえます。

対談・インタビューは例えば、19世紀初頭ブラジルからダホメ王国(現ベナン)に追放された総督を描いた1987年の『コブラ・ヴェルデ』のガーナでの撮影舞台裏や、パタゴニアの鋭鋒セロトーレ山に挑む男たちの姿を捉えた1991年の『彼方へ』の撮影で山岳ガイドを務めたスタッフとの対話など。撮影場所も秘境、エピソードもユニークすぎるものが連続して展開されていきます。

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HIVが進行して生気を失っていくブルース・チャトウィンをヘルツォーク監督が励ますために使ったのは、チャドのボロロ族の祭典の様子をとらえた映像だったといいます。ボロロ族たち自身もびっくりの、作家同士らしいコミュニケーション方法の話もご注目ください。

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ブルース・チャトウィンは、幼少の頃、祖母の家のガラス張りの飾り棚にあった「ブロントサウルスの毛皮」(あとあと恐竜の毛皮でないことが判明するのですが・・・)をきっかけに、先史時代や人類史に関心を抱くようになったといいます。

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そこから「ノマド」(放浪)の生き方を追求し、全世界を「自らの足で旅をする」ことを通して、作品を紡いでいきました。

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「世界は徒歩で旅する人にその姿を見せるのだ」と映画のキャッチコピーにありますが、私も全く同じことをぼんやりと感じていたので、それをブルース・チャトウィンが言語化してくれていて嬉しく思いました。

私の場合、ペーパードライバーなこともあり、人が車で行くようなところを歩き・自転車・公共交通機関で行くことが多いのですが、やはり自分で地面に足をつけて歩くのと、車や電車で通過するのとでは根本的に感覚に訴えるものが違ってきます。

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自分で歩いて発見する一番のメリットは、他の人が「何もない」と思っているところに「何か」を見出せることだと思います。

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『歩いて見た世界 ブルース・チャトウィンの足跡』は、岩波ホール約50年の歴史を締めくくる作品でもあります。6月4日(土)より岩波ホール他全国公開ですが、ぜひ「自分の足で」劇場に足を運んでブルース・チャトウィンの揺るぎない世界観を発見してみてください。その他詳細は公式ホームページをご確認ください。

明日に向かって笑え!

『明日に向かって笑え!』ポスタービジュアル(c)2019 CAPITAL INTELECTUAL S.A./KENYA FILMS/MOD Pictures S.L.

アルゼンチン

明日に向かって笑え!

 

La Odisea de los Giles

監督:セバスティアン・ボレンステイン
出演: リカルド・ダリン、ルイス・ブランドーニほか
日本公開:2021年

2021.7.28

2000年代初頭・アルゼンチン金融危機のほろ苦くも忘れがたい記憶

2001年、アルゼンチンの首都ブエノスアイレス近郊の田舎町。元サッカー選手のフェルミンら住民たちは放置されていた農業施設を復活させるために、資金集めに奔走する。

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銀行の融資を取り付けるために手持ちの米ドルを全て預けた翌日、金融危機で預金が凍結されてしまう。さらに、状況を悪用した銀行と弁護士に預金を騙し取られて一文無しになったフェルミンたちは、奪われた夢と財産を取り戻すべく、破天荒な作戦を練りはじめる・・・

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私は2007年から2008年にかけてイギリスに留学していたのですが、生まれてはじめて南米出身の人と何人か知り合うことになりました。あるとき、コロンビア人の友人が「日本や欧米はとても安全だよ、なぜなら銀行に騙されることがないから」とサラッと言うので「銀行に騙されるなんていうことがあるのか」と驚きました。本作を観ながら最初に思い出したのは、その言葉です。

もちろんコロンビアと本作の舞台・アルゼンチンは、南米大陸の北端と南端でものすごく距離が離れていることは承知しています。正直、地球の裏側にある南米大陸の国々は、サッカー・コーヒー・ワイン・映画・文学など何かしら切り口がないと混同せざるをえません。逆に、南米大陸の人々には日本と韓国・中国あたりの文化・風習が混同して見えているでしょう。

それだけ距離が離れている国で起きている金融危機をテーマにした映画が、日本人に向けて上映されて成立する秘訣は、本作の持つコメディ要素です。

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作品を通して笑いを生むには、種々様々な前提を観客と共有しておく必要があります。本作で最も入念に表現されている前提は、アルゼンチンの大統領に2度選出されたファン・ペロン元大統領の存在であると思いました。軍人を経て1946年から1955年に大統領に就任したペロン(1970年代の2度目の就任期間は短命に終わりました)は、労働組合の保護や労働者の賃上げに力を入れました。

もちろん、ペロンは「独裁者」と呼ばれることもあり賛否両論で、本作は彼の功績を称賛する内容ではありません。しかし、それでもペロンが重要なモチーフであると感じる理由は、本作で描かれている2001年からの苦しい数年間というのは、1946〜1955年のペロン体制下のアルゼンチンを直接経験しなかった人々にとって、「復古」とでも言えるような不思議なエナジーが肌で感じられるひとときだったのではないかと思ったからです。

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主演を務めるアルゼンチンの国民的俳優リカルド・ダリンは1957年生まれで本作のプロデューサーとしても名を連ねています(実際の息子さんが息子役を演じています)。監督・脚本を務めるセバスティアン・ボレンステインは1964年生まれです。おそらく1950年代後半から1960年代前半生まれの「アフター・ペロン」とでも言える世代にとって、自分が生まれる前の歴史が地中からシューッと蒸気のように湧き出てきたのが2000年代初頭だったのでしょう。私は、物語の本筋であるコメディの根底に、そういった強い憧憬の温度を感じました。

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旅先で偶然知り合った人から「あの頃は・・・」と懐かしい記憶を思いがけず聞いたような心地になる『明日に向かって笑え!』は、8/6(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ他全国順次公開。その他詳細は公式ホームページをご確認ください。

笑う故郷

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アルゼンチン

笑う故郷

 

El ciudadano ilustre

監督:ガストン・ドゥプラット、マリアノ・コーン
出演:オスカル・マルティネス、ダディ・ブリエバ、アンドレア・フリヘリオほか
日本公開:2017年

2017.9.13

故郷のことしか書けないノーベル賞作家の、アルゼンチン帰郷物語

アルゼンチン出身、スペイン・バルセロナ在住のノーベル賞作家・ダニエル。受賞後5年の間作品を発表せず、いまだに殺到する数々のオファーを断りながらも、故郷の田舎町・サラスへの招待にはピンときて、40年ぶりの帰郷を果たします。

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「名誉市民」の称号を与えられたダニエルは旧友らに歓待されるだけではなく、嫉妬・作品への批判を受けたり、富に群がってくる者も出てきます。昔の恋人とも再会し、いつの間にかダニエルの訪問は、故郷・サラスに思いもよらぬ感情の渦を生み出します・・・

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「どんな人でもかならず一冊は小説を書ける」、「事実は小説より奇なり」といった言葉がありますが、私たちが日々経験する出来事は、時に思わぬ行き先に人生を導き、それを文章や映像などで形にした際には力強い表現となることがあります。

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例えば、(手前味噌で恐縮ですが)私が監督した長編映画『僕はもうすぐ十一歳になる。』も、ブータン・インド・ネパール・チベットなどで私が実際に体験したことが大きくストーリーに反映されています。

本作の劇中で、ヨーロッパにいるものの故郷・アルゼンチン以外の話を書けない主人公・ダニエルは、想像上の設定・登場人物に共感したファンから、自分の親類を物語にしてくれたことに対して礼を言われます。ダニエル自身はそんなつもりはなかったのに篤く礼を言われてしまうという、ある種滑稽なシーンですが、私はこのストーリー展開から自作の上映時に経験した出来事を思い出ました。

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私の映画は死生観を描くことが多いですが、亡くなった誰かを思い出したとか、映画と全く同じような故人とのやりとりが一番の思い出だといった、ありがたい感想を観客の方から頂いたことが何度かあります。自分の書いたフィクションが現実の世界に出現したかのようで、そういう時には「映画を撮ったかいがあったな」と、この上なく嬉しい気持ちになります。

本作でノーベル賞作家・ダニエルは、はじめ鬱陶しくて無視していた読者からの言葉に迷いを見せ、自分自身を見つめ直していきます。自分の人生が他人に影響し、他人の人生もまた自分に影響を及ぼす。そうした手応えから、途切れていたように思えていた自分の人生が、アルゼンチンからスペインまでたしかに連綿と続いていたことをダニエルは実感していったのではないかと、細かな心の揺れ動きに思いを巡らせました。

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見事な脚本と演技で、観客自身の人生をも何かの物語であるかのように感じさせてくれる『笑う故郷』。9月16日(土)より岩波ホールにてロードショーほか全国順次公開。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

ブエノスアイレス

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アルゼンチン

ブエノスアイレス

 

春光乍洩

監督:ウォン・カーウァイ
出演:レスリー・チャン、トニー・レオンほか
日本公開:1997年

2017.5.17

旅先で見る夢のような・・・香港映画界の鬼才が捉えた幻想的なアルゼンチン

舞台は南米・アルゼンチン。旅の途中で知り合ったゲイのカップル・ウィンとファイは、関係をやり直すためにイグアス滝へ向かいます。しかし、道に迷って言い争いになり、再び仲違いしてしまいます。その喧嘩からしばらく経ったある日、ブエノスアイレスでタンゴ・バーでドアマンをしていたファイの部屋に、怪我をしたウィンが現れて・・・・・・

金城武が出演して日本でも大ヒットを記録した『恋する惑星』の監督であるウォン・カーワイは、台本を用意しない、その場でスタッフとキャストに撮影内容を告げて即座に撮影する、即興劇を好む撮影スタイルで知られています。物語は断片的で、時に脈絡がないと言われることもあります。しかし、独特の色使いやボイスオーバーが醸し出す詩的なイメージや、思いもよらないイメージとイメージの化学反応によって、世界中の観客を虜にしてきました。

旅先では時々不可解な夢を見ることがあります(おそらく私だけではないはずです)。無意識下にあった記憶が掘り起こされて、忘れかけていた人や物が現れてドキリとすることがあります。そのように、登場人物たちの無意識下の動きが意外なカット同士をつなぎあわせているような、不思議な雰囲気が映画全体に漂っています。

しっかりとしたストーリー、計算されつくされたカメラワークや照明、場面にピッタリな音楽・・・・・・そういった要素ももちろん映画の醍醐味ですが、ウォン・カーワイ監督は整合性よりも感情を、調和よりも不調和を観察し、心で掴んだものを美しいイメージに変身させる監督です。劇中に複数回登場する大迫力の観光名所・イグアスの滝は、監督のそうしたスタイルにもってこいのロケ地です。

スタッフやサウンドトラックもその変身を支えています。特に有名なのはダイナミックかつ繊細なカメラアングルで知られるクリストファー・ドイル。サウンドトラックはアルゼンチン・タンゴ界のレジェンド、バンドネオン奏者のアストル・ピアソラ、ブラジルの超大物ミュージシャンであるカエターノ・ヴェローゾなど非常に贅沢です。

今までとは違った心持ちで旅をしてみたい方、耽美的なアルゼンチンのイメージを目にしてみたい方にオススメの一作です。

ゆったり巡るイグアスの滝とペルー周遊

大瀑布イグアスの遊覧飛行 ペルーではワイナピチュ登頂と豪華列車乗車も。

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イグアスの滝

アフリカのビクトリアの滝、北アメリカのナイアガラの滝と並んで世界三大瀑布のひとつに数えられる。落ち口から流れ出た水が途中で岩などにぶつかって段を作りながら落下する「段瀑」と呼ばれる種類の滝です。全体の幅は約4キロメートルにも及び、雨量により現れる滝の数が約150から300の間を増減し、刻々と姿を変えます。