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バーナデット ママは行方不明

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アメリカ・南極

バーナデット ママは行方不明

 

Where’d You Go, Bernadette

監督:リチャード・リンクレイター
出演:ケイト・ブランシェット、ビリー・クラダップほか
日本公開:2023年

2023.9.13

人はなぜ南極へ旅するのか?―頓挫中の天才建築家・バーナデットの場合

アメリカ・シアトルに暮らす専業主婦のバーナデットは、一流企業に勤める夫や親友のような関係の愛娘に囲まれ、幸せな毎日を送っているかにみえる。

© 2019 ANNAPURNA PICTURES LLC. All Rights Reserved. Wilson Webb / Annapurna Pictures

しかし彼女は極度の人間嫌いで、隣人やママ友たちと上手くつきあうことができない。かつて天才建築家として活躍しながらも20年前のある事件をきっかけに第一線から突如退いた過去を持つ彼女は、退屈な日々に息苦しさを募らせていく。

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そんなバーナデットを、南極へ向かわせた理由とは?
そして、そこで彼女は何を見出すのか?

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ついにこの「旅と映画」のキーワード欄に、「南極」と書く日が来ました(実際、撮影はグリーンランドだったようですが、南極のフッテージも劇中に含まれているので、「南極」と書かせてください)。

正直な所、「南極と北極ってどう違うの?」と聞かれても、「場所が違って、生態系が違って、あとは氷の大地だからだいたい同じじゃない?」と答えられるほどの知識しか僕にはありません。もちろん、調べたところ全くそんなことは無かった(長くなるのでここでの詳述は避けます)のですが、南極に思いを馳せる瞬間というのは、日本に暮らしているとなかなか持ちにくいです。主人公のバーナデットの暮らすシアトルについても、それは同じでしょう。

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バーナデットはなぜ南極に旅することになったのか? 詳しくは映画を観てもらえればと思うのですが、最初のきっかけは向学心あふれる娘によってもたらされます。

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しかし、「南極に行きたい!」となったときに「じゃあ行きますか」と(金銭・時間的に)言える稀有な家庭にもかかわらず、バーナデットは「どうにか行けなくならないだろうか」と様々な理由を探し始めるひねくれ者です。ひねくれているというか、過去をこじらせてしまっている女性です。

原作小説「バーナデットをさがせ!」(彩流社/マリア・センプル)も素晴らしいのだと思いますが、僕はやはり監督・脚本を務めるリチャード・リンクレイター(『ビフォア・サンライズ』『6才のボクが、大人になるまで。』等)の手腕にうならされました。

脚本づくりにおいて、「主人公が考えるベストな出来事は、最悪な出来事」というセオリーがあります。これは言い方を変えると、「理想というのは自分で思い描ける範囲の外側にあり、自分の力だけでは叶えられない」ということです。

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バーナデットの心に約20年かけて宿った、本人自身も気付いていなかった理想は、娘・夫・大嫌いなママ友・旧友・南極関連の科学者など「様々な他者たち」が、バーナデットが考えてもなかったようなプロセスで順々に浮き彫りにしていきます。

そして、グチグチネチネチしていたバーナデットが、南極という氷の大地でパッと花開く(この「パッ」の瞬間が本当に上手い・・・)というシナリオ。これはもうさすがリチャード・リンクレイター監督としか言いようがありません。

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会話劇の名手が繰り広げるやりとりに引き込まれたらいつの間にか南極に着いている『バーナデット ママは行方不明』は、2023年9月22日(金)より新宿ピカデリーほか全国順次上映。詳細は公式HPをご確認ください。

コロンバス

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アメリカ

コロンバス

 

Columbus

監督:コゴナダ
出演:ジョン・チョウ、ヘイリー・ルー・リチャードソンほか
日本公開:2020年

2021.9.1

人の心身に寄り添う建築がある アメリカの地方都市・コロンバスでの邂逅

講演ツアー中に倒れた高名な建築学者の父を見舞うため、モダニズム建築の街として知られるアメリカ・インディアナ州のコロンバスを訪れたジンは、父親との確執から建築に対しても複雑な思いを抱いており、コロンバスに留まることに乗り気ではない。一方、地元の図書館で働く建築好きのケイシーは、薬物依存症である母親の看病のためコロンバスに留まり続けている。ふとしたことから出会った2人が建築をめぐって語り合う中で、次第にひかれあっていく。

建築は映画ととても親和性があります。私は福岡で建築ファウンデーションというNPOに入っているのですが、実際、映画監督や脚本家になろうと思っていたという建築家の方や、映画好きの建築家の方は多いです。

建築というのは、ただ地面に建って居住や利便性のために使われるのではなく、人の記憶や土地の風土と密接に関わってストーリーを紡ぐ生き物のような存在です。本作では、登場人物たちがコロンバスの町のあちらこちらを訪れる中で、建築が人に寄り添うようなシーンが物語の随所にあらわれます。「建築が人の体に効いている」というのが私は一番適切な表現だと思うのですが、建築が醸し出す空間が、人の感情作用に強く影響しているということです。

数万年前、人類は洞穴で暮らしていました。そこには、「洞穴絵画」(または「洞窟壁画」)と呼ばれる、旧石器時代の人の営みや動物を描いた天然のフレスコ画がいつしか描かれるようになりました。私はこの洞穴絵画が描かれた洞穴が「最初の建築」だと常々思っています(「最初のアート」は洞穴絵画のもっと前に記録に残らない形であったはずです)。

もちろん、もうすこし後になれば、ストーンヘンジやピラミッドなど今でも観覧可能なシンボリックでダイナミックな建築があります。しかしもっと前の太古の人類は、特に寒さや飢えをしのげるわけでもないのに、なぜ洞穴に絵を描いたのでしょうか? おそらく、狩猟等のサバイバルや自然との対峙の日々で疲れた心身に、絵を描いたり見たりすることは良く効いたのでしょう。そうした絵をいまだに私たちは、遺跡の一部として自分自身の目で確認でき、絵は彼らの記憶を現代人の心に甦らせてくれます。

本作の舞台となっているコロンバスのモダン建築は、旧石器時代の洞穴絵画のように主人公2人の喪失・不安を受け止め、内省のための時間や再生に向かわせるパワーを与えています。建築が「3人目の主人公」ともいえる珍しい作品で、空間・時間の見え方を変えてみてはいかがでしょうか。