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汚れたミルク あるセールスマンの告発

(C) Cinemorphic, Sikhya Entertainment & ASAP Films 2014

パキスタン

汚れたミルク あるセールスマンの告発

 

Tigers

監督:ダニス・タノビッチ
出演:イムラン・ハシュミ、ダニー・ヒューストンほか
日本公開:2017年

2023.8.16

水は暮らしの生命線、ミルクは生命の源泉―優秀なパキスタン人営業マンの葛藤

1994年のパキスタンで、青年・アヤンは国産の薬品を売るセールスマンをしていたが、妻・ザイナブの勧めで大手グローバル企業の面接を受け、営業マンとなる。

数年後、友人の医師から、アヤンの勤める企業の粉ミルクを不衛生な水で溶かして飲んだ乳幼児が死亡する事件が多発していることを知らされる。強引な売り込みによって、本来は母乳で充分な母親にも医師らが粉ミルクを処方していたためだ。

責任を感じたアヤンは会社を辞め、医師らへの賄賂として使った金品の領収書などの書類をもとに、無責任で強引な販売姿勢を告発するが・・・

西遊旅行のHPをご覧になっている方、ツアーに行かれる方はやや例外的かもしれませんが、パキスタンという国はまだ日本人にとっては日頃接する情報が限られており、やや「遠い国」といえるかもしれません。

しかし、最近お台場で行われていたITの展示会で、ひときわ勢いを感じたのはパキスタンとバングラデシュのブース(おそらく国の補助もあって国ごとにまとめていらしているのだと思います)でした。映像もとても凝ったもので、日本の企業のブースよりも色使いが派手でグイグイと引き込むパワーを感じました。担当者の方は「ITエンジニアの世界で次来るのはパキスタンといわれている」とおっしゃっていました。何が言いたかったかというと、やはりパキスタンもグローバル化の強い波は今まで受けてきましたし、世界進出する勢力もあるということです。

話が変わるようですが、秘境ツアーに行く際に添乗員(おそらくかつての僕だけではないはず)が常に気にかけていることは、何だかご存知でしょうか。そう、「水」です(あとは付随して「トイレ」もです)。ちなみに、久々に本HPの「西遊旅行の『旅』のかたち」のページを見ましたが、「水道水が飲めないエリアでは、毎日ウォーターサーバーなどからお水をお配りします。プラスチックゴミの削減のため、お客様にはマイボトルをご持参いただきます」と、サステナブル・ツーリズムに関する記載があり、時代の流れを感じました。

それだけやはり「水」というのは生命線ですし、日本には配給されていない映画ですが、ボスニア内戦において「川に毒を流す」という攻撃を軸に両国の関係性や人々の姿を描いた作品を映画祭で観たことがあり、「水」は権力に関わっていたり争いの火種になることもあります。

だからこそ、「水」を切り口にした本作では、既存のパキスタンに関わる映画にはない人々の姿を見ることができます。

邦題がやや旅情そそられない感じですが、英題は”Tigers”(どんな意味合いかはぜひご覧になってみてください)で、1994年当時のパキスタンに暮らす人々の人生を追体験でき、結果的にはパキスタンという国に興味を持てる内容となっています。

ファッション・リイマジン

(C)2022 Fashion Reimagined Ltd

イギリス・ウルグアイ・ペルー・トルコ

ファッション・リイマジン

 

Fashion Reimagined

監督: ベッキー・ハトナー
出演: エイミー・パウニー ほか
日本公開:2023年

2023.8.2

英・若手デザイナー、理想を追い求めてウルグアイ、ペルー、トルコへ

2017年4月、英国ファッション協議会とVOGUE誌は、ファッションブランド「Mother of Pearl」のクリエイティブ・ディレクターを務めるエイミー・パウニーをその年の英国最優秀新人デザイナーに選出する。

環境活動家の両親を持ち、大量消費が当たり前だった当時のファッション業界に危機感を抱いていたエイミーは、新人賞の賞金10万ポンドをもとに、「Mother of Pearl」をサステナブルなブランドに変革することを決意。デビューまで18カ月というタイムリミットの中、エイミーと仲間たちはさまざまな困難に遭遇しながらも、理想の素材を求めて地球の裏側まで旅をする。

「ファッションをひとつの国に見立てると世界で3番目に二酸化炭素排出量が多い」

「ひとつの服ができるまでの過程で、だいたい少なくとも5カ国を経由し、消費者はそれを知らない」

など、わかりやすくかつインパクトある事実を提示しながら、エイミーと彼女の仲間たちの「理想」を追い求める旅は始まっていきます。

最初の目的地は、ウルグアイのモンテビデオ。ミュールシング(ウジ虫の発生を防ぐために無麻酔で子羊の臀部をナイフやハサミで切り取る処置)をしていない、かつ、信頼できる生産者を探した末にたどり着いた国です。

しかし、生産者のペドロ氏は信頼に値するものの、ウルグアイでは紡績が行われていない(かつては行っていたが大量生産国の影響によって廃業した)ことや、ロット数の問題がエイミーたちの頭を悩ませます。そして、隣国のペルーや、世界有数の綿花生産量を誇りイギリスに最も近いトルコを訪れます。

最近ではマクドナルドもポテトの生産者の笑顔をトレーに乗ってくる紙で紹介している通り、トレーサビリティ(生産地・関与社が追跡できること)やサステナビリティ(持続可能であること)は世の中の大きな関心のひとつです。

僕自身も消費者としてなるべく「本当に買いたいと思ったものを、必要なだけ買いたい」と思ったり、映画・映像制作者として「もしも映画・映像が野菜だとしたら、皮・茎・根まで全て食べてもらえるような生産・出荷・販売の仕方をしたい」と思ったりすることが最近増えてきました。

本作で描かれているエイミー・パウニーさんの旅は、そうした理想を掲げ続けることの大切さと、実際にそれを行動に移す勇気、そして「仲間」の大切さを教えてくれるものでした。特に、ウルグアイのペドロ氏が、リリースにあわせてはるばるロンドンまで旅してきた光景には感動しました。

ファッションを楽しむことと、サステイナブル(持続可能)であることの両方を叶えるための旅『ファッション・リイマジン』は、9/22(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー。そのほか詳細は公式ホームページをご確認ください。

 

アアルト

(C)FI 2020 – Euphoria Film

フィンランド

アアルト

 

Aalto

監督: ビルピ・スータリ
出演: アルバ・アアルト、アイノ・アアルト ほか
日本公開:2023年

2023.8.30

20世紀を代表するフィンランド人建築家アルバ・アアルトの人生

フィンランド出身の世界的建築家・デザイナーのアルバ・アアルトの人生と作品にスポットを当てたドキュメンタリー。

不朽の名作として愛され続ける「スツール60」、アイコン的アイテムである花器「アアルトベース」、自然との調和が見事な「ルイ・カレ邸」など、優れたデザインの家具・食器や数々の名建築を手がけたアルバ・アアルト。

同じく建築家であった妻アイノとともに物を創造していく過程とその人生の軌跡を、観客が映像ツアーに参加しているかのような独創的なスタイルで描き出す。さらに、アイノと交わした手紙の数々や、同世代の建築家、友人たちの証言を通し、アアルトの知られざる素顔を浮き彫りにしていく。

フィンランドという国のことは、「知っているようで知らない」と感じる方が少なくないはずです。デザインセンスがあるっぽい、自然が豊かっぽい、オーロラが見えるっぽい、教育・福祉が充実していそう、日本から一番近いヨーロッパ、日本人と気質が似ている、キシリトール、、、などなど。連想し得ることは様々ですが、「フィンランド人といえば」と問われたときに、20世紀を代表する建築家の一人のアルヴァ・アアルト(1898-1976)の名前を挙げる人は世界中にたくさんいるのだろうと本作を観て思いました。

と言いつつも、僕は本作がきっかけでアアルトのことを初めて知りました(「フィンランド人といえば」と問われたら映画監督のアキ・カウリスマキと答えます)が、建築だけでなく家具・ガラスなどの日用品のデザインまで手掛けたアアルトの作品は「これってアアルトのデザインだったのか」と思うものがいくつも映画の中で紹介されていました。

「丸イス」と僕が今まで呼んでいた「スツール60」は1933年(90年前!)にデザインされたものと知って驚きましたし、映画の中に出てくる建築の竣工年とデザインの先進性のギャップに目を疑いました。

アアルトの人生や建築・家具のことは映画を観ながら「ツアー」していただくとして、僕が印象に残ったナレーションやコメンタリーをいくつかご紹介します。

まず、「建築には階層(区分)があって、すべてが均一であるわけではない」というもの。
次に、「そこで可能なこと」という言い回し。
最後に、「何かを高めていなければ建築とはいえない」というもの。

ともすると忙しさや情報の洪水にさらされて表層的・一面的になってしまいがちな現代人の物事を捉え方に、「こう考えることもできる」「ああ考えることもできる」「どうすればもっと面白くなるだろうか」などと気付きがもたらされるか否かというのは、「自己責任」だったり「個人の自由」と任せられっぱなしで、結果的にその責任の重さや自由の曖昧さゆえに、盲目的に何かに従ったり強制されるという結果に陥ることが昨今は多いように感じます。

しかし、家具・建築・町に宿った多様な階調や包括的なデザイン意匠が、個々人を適度な力で「引っ張っていく」ことが今大事なのではないかと、アアルトの創作物全般が教えてくれたような気が僕はしました。

 

『アアルト』は、10/13(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、UPLINK 吉祥寺ほか全国順次ロードショー。そのほか詳細は公式ホームページをご確認ください。

 

世界のはしっこ、ちいさな教室

(C)Winds – France 2 Cinema – Daisy G. Nichols Productions LLC – Chapka – Vendome Production

バングラデシュ・ブルキナファソ・ロシア(シベリア)

世界のはしっこ、ちいさな教室

 

Etre Prof

監督:エミリー・テロン
出演:サンドリーヌ・ゾンゴ、スベトラーナ・バシレバ、タスリマ・アクテルほか
日本公開:2023年

2023.7.5

西アフリカ・シベリア・東南アジアで―女性たち三者三様の「教えと学びの旅」

ブルキナファソの首都ワガドゥグで夫と2人の娘を育てる新人教師・サンドリーヌは、6年間の任期のもと、僻地・ティオガガラ村に派遣される。50人強の児童は公用語のフランス語をほとんど理解できず、教室では5つの言語が飛び交う。

バングラデシュ北部のスナムガンジ地方。モンスーンによって村の大部分が水没した農村地帯のボートスクールに、人道支援団体から派遣されたタスリマは、女性の権利の擁護や教育の意義の啓蒙をひたむきに行う。

雪深いシベリアに暮らす遊牧民で、伝統言語・エヴァンキ語の消滅を危惧するスベトラーナ。トナカイの牧夫である両親を持つスヴェトラーナは6歳で寄宿学校に入学し、両親と一緒に伝統的な 生活を送れなかったことを悔やんできた。彼女はロシア連邦の義務教育に加え、エヴェンキ族の伝統や言語、アイデンティティを伝えるカリキュラム、魚釣りやトナカイ の捕まえ方も実地で教えている。

子どもたちに広い世界や学びの楽しさを知ってほしいという一心で教師の仕事を全うしている、3人の女性の飽くなき探求をカメラは映し出していく。

『世界の果ての通学路』という人気映画の題名を聞かれたことがある方は多いかと思いますが、本作はその製作スタッフが手掛けた作品です。英題には”Teach Me If You Can”(「私に教えられるなら、教えてみて」の意)というユーモラスな言い回しが採用されている通り、映画はほのぼのとしたタッチで進んできます。

僕自身の個人的なタイミングでいうと、子どもがこの4月から小学校に通い始めて、子どもが自分の足で通学し、帰ってきて、宿題をやっている姿が日常になったため、本作は僕にとっての「学び」「教え」の根本を問い直させてくれたように感じました。

舞台は発展途上国や僻地が中心なので、色々な意味で日本よりも「大変」な環境です。ですが、「こういう大変な思いをしながら学んでいる子どもたちや、学びたくても学べない子どもたちが世の中にはいるのだから、日本の子どもたちというのは恵まれていると思わなきゃ」というふうには感じませんでした。

映画を観ている最中ずっとぐるぐると考えを巡らせていたののは、「”学ぶ”とはどういうことなのか?」です。暗記や教科書をただこなすだけではなく、「学びたい」と思った瞬間に「学び」というのは訪れる。そう思わせてくれる瞬間が多く本作には記録されています。

もう1つは「教え」です。もちろん、「教えることによる学び」というのもありつつ、基本的には教師と親というのは教える側の人間です。しかし、「教えることできる」ということはその主体となっている人が全能的というか「全てを知っている」ということを意味しないのだと再認識しました。

むしろ、そうした「教えている」というある種の権力をうまく抑えて、「自分にも知らないことがある」という前提のもと、子どもたちと一緒に考え始めたときに、いつの間にか「教え」が手渡せている。そんな瞬間を目にしました。

『世界のはしっこ、ちいさな教室』は7/21(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次上映。そのほか詳細は公式HPをご確認ください。

黄金のベンガル バングラデシュ

世界最大のマングローブの森を縫うように進む1泊2日のクルーズの旅。冬季は渡り鳥も多く飛来し、多様な生態系の観察もお楽しみいただけます。14名様限定でクルーズでは個室のご利用も可能
少人数に限定し、ゆとりある旅をご用意。1泊2日のシュンドルボンクルーズでもご希望の方は個室をご利用いただけます。貸切クルーズ船で快適な探検旅行をお楽しみください。

君は行く先を知らない

(C)JP Film Production, 2021

イラン

君は行く先を知らない

 

Hit the Road

監督:パナー・パナヒ
出演:モハマド・ハッサン・マージュニ、パンテア・パナヒハほか
日本公開:2023年

2023.6.28

俳句・短歌のような世界観―イラン社会の葛藤をごった煮にした御伽噺

イランとトルコの国境近く。車で旅をしている4人家族と1匹の犬。大はしゃぎする幼い弟を尻目に、兄、父と母は口には出せない何かを心に抱えている。

湖の半分以上が干上がってしまっているウルミエ湖の周縁を走る車中で煮えきらない互いの思いを吐露しながら、「曖昧な目的地」へ向けて旅は進んでいく・・・

本コラムで以前にイラン映画『白い風船』『ある女優の不在』『人生タクシー』をご紹介しましたが、本作はそれら3作を監督したジャファル・パナヒ氏の息子さんの初長編作品です。ファンタジー感と皮肉が同居する本作から、最近僕が感じ続けてきたあるモヤモヤを連想しました。それは、「現代社会では比喩表現が通じにくい」ということです。

僕の比喩表現が熟練していないのもあるかもしれませんが、比喩的な映像表現を行政・企業のPRや企画に取り入れると「もうすこし直接的な表現を」ということになり、結局かなり説明的な表現に着地するということをしばしば経験してきました。

一方で場所を変えて、対話やファシリテーションについて人に教える際、「古池や蛙飛びこむ水の音」という俳句は蛙のことを話しているわけではない(その情景全体について話している)、という点から「意見の引き出し方」や「話の流れの作り方」を論じると「なるほどそう考えたことはなかった」と発見してもらえることも多く経験してきました。効率性・生産性を重視すると、対話・意見交換だけでなく普段抱く感情までもが表層的になりがちだということです。

本作では、俳句ないしは短歌のような表現が連続します。景観・地形的特色まで、画面全体をひっくるめて「映っていることを語っているわけではない」という表現が続きます。

父のジャファル・パナヒ監督をはじめとしたイランの名監督たちの影響もあるでしょうし、イランの検閲の影響もあるでしょうけれども、パナー・パナヒ監督固有のオフビートなテンポとファンタジー感で比喩表現が展開していきます。特に、「霧」の表現に注目いただきたいです。

ふつうに考えると変なシーンが多く、クラシック音楽もイランの歌謡曲も混然となっている本作は、「映っているのとは違うことを言っている」という前提に立つと物語が積乱雲のようにモクモクとふくらんでいく瞬間が訪れるのではと思います。

冒頭に言及されるウルミエ湖が半分干上がっていること、主人公たちが進む方向をずっと抜けた先にはアナトリア(小アジア)が広がっていることなども想像しながら、俳句・短歌のような世界観にぜひ浸ってみてください。

『君は行く先を知らない』は8/25(金)より新宿武蔵野館・ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次上映。そのほか詳細は公式HPをご確認ください。

ペルシャからアナトリアへ

古来より様々な民族や王朝が行き交い、民族の興亡が盛んだったペルシャ西部とアナトリア東部。この地に残る史跡、ウルミエ湖・ヴァン湖・アララト山といった自然を訪ねます。

裸足になって

(C)THE INK CONNECTION – HIGH SEA – CIRTA FILMS – SCOPE PICTURES FRANCE 2 CINÉMA – LES PRODUCTIONS DUCH’TIHI – SAME PLAYER, SOLAR ENTERTAINMENT

アルジェリア

裸足になって

 

Houria

監督:ムニア・メドゥール
出演:リナ・クードリ、ラシダ・ブラクニほか
日本公開:2023年

2023.6.14

逆境を踊りで跳ね除ける―現代アルジェリア女性の生き方

内戦の傷跡が残る北アフリカのイスラム国家アルジェリア。バレエダンサーを夢見る少女フーリアは、男に階段から突き落とされて大ケガを負い、踊ることも声を出すこともできなくなってしまう。

失意の底にいた彼女がリハビリ施設で出会ったのは、それぞれ心に傷を抱えるろう者の女性たちだった。フーリアは彼女たちにダンスを教えることで、生きる情熱を取り戻していく。

以前本コラムでもご紹介した『パピチャ 未来へのランウェイ』の監督が、主演女優はそのままに、舞台は90年代から現代に移し替えて女性の生き方を描いているのが本作『裸足になって』です。原題は主人公の名前そのままHouria(フーリア)で、アラビア語で「自由」や「天使」を意味するそうです。

アルジェリアの具体的にどこが舞台になっているのかは言及されませんが、海辺の景観や物語の特性上、おそらく首都のアルジェではないかと予想されます。

本作を観て「歴史は身体に影響する」ということを感じました。監督の前作の舞台設定だった90年代アルジェリア紛争期「暗黒の時代」や、それよりもっと前の出来事がフーリアひいては女性たちの身体に影響を及ぼしているということが、映画の言語で語られていきます。

映画の言語というのは例えば、ダンサーの主人公が足を怪我して声も失う、鳥カゴの中の鳥はカゴという不自由はあるけれども自由に動いて止まり木の上にも立てる、警察(権力サイド)の女性職員は饒舌・食欲旺盛で男性と張り合って仕事をしているなど、それらすべての連関のことです。物語序盤では比較的型にはまったクラシックダンスをしている主人公は、終盤でより現代的なダンスを志向していきます。

もう1つさりげないながらもビジュアル的に強いのは、逆光の演出です。レンズフレアという、カメラ本体内で出る光の反射も、かなり強調されています。

レンズフレアはミュージックビデオなどスタイリッシュで「撮っている」ということが自明(フィクションではない)な場面でよく使われますが、本作における逆光演出全般は「逆境」にいる主人公を象徴する意味合いがあるように思えました。

物語の後半、フーリアの身体からリハビリ施設の女性たちに有り余るエネルギーが伝播していくように、身体に宿った思いは伝播するという特性もあります。フーリアが暮らす町自体はかなり限定的にしか映らないのですが、アルジェリアに行くとふとした時にフーリアのような女性の生き方から勇気・元気をもらうような瞬間もあるのではと、不思議と旅情が湧く一作です。

『裸足になって』は7月21日(金)より新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー。詳細は公式HPでご確認ください。

アルジェリア探訪

ティムガッドも訪問 望郷のアルジェに計3泊と世界遺産ムザブの谷。

ぼくたちの哲学教室

(C)Soilsiú Films, Aisling Productions, Clin d’oeil films, Zadig Productions,MMXXI

北アイルランド

ぼくたちの哲学教室

 

監督:ナーサ・ニ・キアナン デクラン・マッグラ
出演:ケビン・マカリービーケビン・マカリービー、ホーリークロス男子小学校の生徒たち
日本公開:2023年

2023.4.19

北アイルランドの苦難が生んだ、子ども・大人関係なく「一緒に悩める」場

北アイルランド紛争によりプロテスタントとカトリックの対立が繰り返されてきたベルファストの街には、現在も「平和の壁」と呼ばれる分離壁が存在する。

労働者階級の住宅街に闘争の傷跡が残るアードイン地区のホーリークロス男子小学校では「哲学」が主要科目となっており、「どんな意見にも価値がある」と話すケビン・マカリービー校長の教えのもと、子どもたちは異なる立場の意見に耳を傾けながら自らの思考を整理し、言葉にしていく。

宗教的、政治的対立の記憶と分断が残るこの街で、哲学的思考と対話による問題解決を探るケビン校長の挑戦を追う。

本コラム「旅と映画」にはまだまだ取り上げていない国がたくさんありますが、今回は初の北アイルランド関連作品です。僕自身は学生時にイギリスで学んでいたとき「こんな機会でもなければ行かないだろう」と思いアイルランドまでは行ったのですが、アイリッシュ音楽の関連地を巡るだけにとどまりました。

厳密に言うと、頑張れば行けたのですが、当時は世界史・現代史を重点的に学んでいて「IRA」というイメージが強く北アイルランドにあったため、最後の一歩が出なかったのをよく覚えています。

その僕の感覚は、あながち間違いではなかったのだと本作を観て思いました。いわゆる「北アイルランド問題」は2020年代(ちょうどコロナ禍になる前後にロケがされ、一部コロナ対応の描写もあります)においても依然として問題・課題を市民や子どもたちに突きつけています。

宗教対立についてどう思うか等、かなり抽象的かつ難解な問いを小学生たちがわからないながらも語る姿はとても堂々としています。

自分たちの言葉でしっかりと語っていますし、主人公の一人と言える校長先生やベテランの先生が「問題行為」に対処をしている光景を間近でカメラにおさめていることから、撮影クルーの学校・被写体に対するコミュニケーションや、本作の撮影を受け入れている学校・保護者たち・子どもたちの寛容さを感じます。

「日本人の子どもたち・大人たちははこんな風に振る舞えるだろうか」という感想も多く出てきそうな本作ですが、校長先生のような「哲学的問い」を投げかける人物がコミュニティに誰かしらいれば、胸の奥に秘めている思いが発露され、皆が共進化していくのではないだろうかと感じました。そうした波及効果とでも呼ぶべき「思いの伝播」が本作にはとらえられています。

こども家庭庁も発足し、「子どもの意見表明・意見形成権」等をはじめとした「子どもの権利」に対する理解促進がおこなわれていくはずの2023年にぴったりな『ぼくたちの哲学教室』は5/27(土)よりユーロスペースほか全国順次公開。その他詳細は公式HPよりご確認ください。

アイルランド周遊

首都ダブリンから南北アイルランドをバスで周遊。雄大な景観と共に、人々の心に息づくケルト文化、今でも神聖な空気が漂う初期キリスト教会跡、中世の趣を今に伝える古城群にいたるまで南北アイルランドの自然、歴史、文化に深く迫る旅です。

落葉

ジョージア

落葉

 

監督:オタール・イオセリアーニ
出演:ラマーズ・ギオルゴビアーニ、マリナ・カルツィワーゼ
日本公開:1966年

2023.2.22

道端の落葉を愛でる感性を持つ人生と、持たない人生―文化醸成は茨の道―

ワイン醸造所の新人技師・ニコは真面目で職人たちからの信頼も厚いが、出世主義の同僚は職人たちを見下していた。ニコは研究室で働く女性・マリナに想いを寄せている。

ある日、醸造所の上司は共産党幹部が定めたノルマを達成するため、未成熟の樽の開封を決める。ニコはこれに異議を唱え抵抗するが・・・

あらすじを一見すると恋愛ドラマにも見えかねない本作は、「文化とは何か」という「メタ(高次)」なメッセージを含んだ、普遍性のある物語です。作り手が「メタ」な作品に仕立て上げようとしている証拠は、時折現れる極端なトラックアップ(カメラが被写体に近づく)の動きや、ヒロインのマリナがカメラに向かってウィンクする(フランスのニューウェーブ映画へのオマージュ)からも感じられます。

その他の前提として、以前にもこの「旅と映画」でご紹介しましたが、ジョージアの最も重要な伝統産業のひとつがワイン製造であるということがあります。サペラヴィというタンニンを多く含んだブドウ品種や、陶器のボトルが特徴的です。

そしてもう一点お伝えしておきたいのは、醸造の世界史を振り返ると、「産業の圧力」に製造側が屈してしまった場合、産業自体が廃れてしまうという現象が起こったことがあるということです。たとえば、リンゴ発泡酒(英語:サイダー/仏語:シードル)の歴史を振り返ると、ローマ帝国時代からサイダーの伝統があって「水代わり」にサイダーが飲まれていたような地域もあるほど文化が根付いていたイギリスであっても、産業革命で生産・出荷を優先したばかりに悪質なサイダーが出回ったり、金属パイプが要因の中毒症状によって評判が下がり、一気に伝統が廃れてビールに取って代わられるという出来事がありました(ちなみになぜこんなに詳しいかというと、今サイダーのドキュメンタリー映画を企画開発しているからです)

本記事はまだ作品をご覧になっていない方を主な対象にしているので、物語の結末の詳述は避けますが、「本作のタイトルがなぜ『落葉』なのか」という点は、ぜひご覧いただいた後に考えていただくと楽しいと思います。

僕が思うヒントを、お伝えしておきます。
まず一つは「落ちている葉っぱの叙情にあなたは目が留まるか、そして目を留めた時にちゃんと立ち止まれるか」という作家の問いかけがタイトルにはこめられている思います。

もう一つのキーワードは「循環」です。「よい文化醸成には、気づきの循環が必要だ」ということは、戦後にスターリン独裁以来揺れに揺れてきた当時の旧ソ連体制下の国家に住む作家として、声を大にして言いたかったことなのだと想像しました。

ストーリー本筋の外側に巧みに、ワインの味わいのような深みあるメッセージを形作っている『落葉』を含む「オタール・イオセリアーニ映画祭〜ジョージア、そしてパリ〜」は2/17(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。その他詳細は公式HPよりご確認ください。

花のジョージアを歩く
秀峰カズベキの麓からヨーロッパ最後の秘境スヴァネティ地方へ

ヨーロッパで最も標高の高い常住村として知られるウシュグリ村(2,200m)と世界遺産の上スヴァネティ地方、北部ジョージア屈指の美しい山岳景観を誇るカズベキ村を訪れるこだわりのハイキング企画。独自の文化、伝統の生活を続ける人々、静かなトレイルはまさにヨーロッパ最後の秘境の名にふさわしい場所です。

そして光ありき

セネガル

そして光ありき

 

監督:オタール・イオセリアーニ
出演:ディオラ族の人々
日本公開:2023年

2023.2.15

セネガル・ディオラ族の村に、透明のカメラを置いたような映画

セネガルの森に住むディオラ族は、男たちが川で洗濯をし、女たち(基本的に上裸)は弓矢で鹿を狩って暮らしている。

祈祷師、狩人など様々な人々の生業や何気ない日常の光景。そしてディオラ族の暮らしを今まさに侵食しようとしている、森林伐採の様子。それら両方をカメラは静かに見つめる・・・

本作はジョージアの映画監督オタール・イオセリアーニ監督特集の目玉作品の一つで、1989年製作ながらも日本初公開となります。それだけではなく、ロケ地がセネガルということで、色々な意味で稀少な鑑賞機会の作品です(今まで「旅と映画」でご紹介したセネガル関連の映画といえば女性器切除の慣習を描いた『母たちの村』のみです)。

西遊旅行のツアーの行き先というのは、「現地の人が話している言語がわからない」という場合がほとんどではないかと思います。もちろん、アジア諸語・ヨーロッパ諸語が通じる場所というのはありますし、セネガル旅行の場合は多少フランス語が通じる場面もあるかと思うのですが、「民族」と呼ばれる人たちと話すときには通訳が必要です。

本作はマシンガントーク以上のスピードでディオラ族のディオラ語(?)が展開していくのですが、ほとんど字幕が付いていません。日本語字幕が付いていないのではなく、元々監督の意向でごく一部しか字幕が付いていない(時々サイレント映画のような形で黒画面に会話が出てきます)のです。「バナナ食べる?」という言葉に字幕が付くのですが、正直なところ「バナナ」も聞こえませんでした。

でも、それが楽しいと思いましたし、「西遊旅行っぽい映画だ」と思いました。通常であれば「流れ」を追いかけてしまう会話は、本作ではザワザワガヤガヤという「音」として感じます。日本人の観客の99.9%は、彼らの表情、動き、声の抑揚、景観なども含んだ「画」から、人々の思いや慣習・儀礼の意味などを探らざるを得ないでしょう。しかし多くの観客は、音や画の「全体感」の中に浸り、村の土の上に足が着いているような感覚になるはずです。

「ワニの背中に乗って移動」などの暮らしの業(わざ)、ダンスや音楽コミュニケーションなどの躍動感、夕日を村人皆で眺めるという美しい慣習、「え!?」と思わず声をあげてしまう怪しげな祭祀、息を吹くと強風が起きるなどのマジカルな出来事と、言葉がわからなくても飽きない仕掛けも満載です。

それにしても、映画制作者としては
・一体どんな企画書を書いたのか
・どんな人が出資したのか
・村人にはどうやって交渉したのか
・なんで村人の演技はあんなにナチュラルなのか
・ワニに乗るなど、タイミング命なシーン(全部成功)なシーンが多すぎる
・村人の前で、木をあんなに切ってしまって大丈夫だったのか
など、気になる点が多すぎる作品でした。今回公開されて本当に良かったと思いますし、イチオシの作品です。

『そして光ありき』を含む「オタール・イオセリアーニ映画祭〜ジョージア、そしてパリ〜」は2/17(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。その他詳細は公式HPよりご確認ください。

セネガルからガンビアへ

セネガルから陸路で国境を越え、隣国ガンビアへ。アラブ文化、奴隷貿易の歴史、ガンビア川沿いの漁村などこの地域ならではの文化にふれます。また、ガンビア川沿いの村に滞在し、美しく豊かな自然のもとで暮らす素朴な村の風景を見つめます。。

ユンヒへ

(C)2019 FILM RUN and LITTLE BIG PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

韓国・日本(北海道)

ユンヒへ

監督:イム・デヒョン
出演:キム・ヒエ、中村優子ほか
日本公開年:2022年

2023.2.1

「あり得ないこと」はどういう時に起こるのか?―雪の小樽と結晶のような思い出

韓国の地方都市で高校生の娘と暮らすシングルマザーのユンヒの元に、小樽で暮らす友人ジュンから1通の手紙が届く。20年以上も連絡を絶っていたユンヒとジュンには、互いの家族にも明かしていない秘密があった。

手紙を盗み見てしまったユンヒの娘セボムは、そこに自分の知らない母の姿を見つけ、ジュンに会うことを決意。ユンヒはセボムに強引に誘われ、小樽へと旅立つ。

「近頃寒いので寒い映画を」と思ったときに、昨年劇場公開された本作のことがパッと思い浮かびました(「寒いから暑い国の映画を観よう」「寒いから夏の映画を観よう」というパターンもあるかと思いますので、かなり気まぐれです)。

本作は制作の経緯が面白いのでご紹介できればと思います。僕と同じく1986年生まれの男性の監督が、中年女性が主人公の脚本を書き進めていたところ、岩井俊二監督の『Love Letter』(1995年)の「聖地巡礼」の旅に友人から誘われます。そして小樽を訪れて、化学反応的に「ここで撮ろう!」と決めたのだといいます。

『Love Letter』公開時、監督は9歳かそこらだったかと思いますので、世代的には若干ストライク・ゾーンからずれていて、小樽という地を知るのに時間がかかったのが逆に功を奏したパターンではないかと思います。

冬の小樽という場所の性質も絡めて本作のエッセンスを一言でまとめるならば「映っている場所はいかにも寒そうだけれども、暖かい話」です。主人公・ユンヒは心の奥底に「ある思い」を長らく封じ込めながら生きてきた人物で、いつしかそれをギュッと抑え込んでいる手を離しても、カチコチに凍りついて動かない状態になり、「ある思い」が有る、ということも忘れてしまっていました。

「ある日手紙が来て・・・」というのは、一聴するとその重い「封印」を解くにはあまりにもベタであるように思えるかもしれません。しかし、やはり実際そういうことは起こり得るのだと、本作を観て思いました。僕の人生も、手紙パターンはないのですが、「ある日一通メールが来て・・・」という形で何度も揺り動かされてきました。

あり得ないくらい寒い中で、あり得ないくらい長い時間熟成された思いが、あり得ないような出会いの中で融解していく様というのは、とてもロマンチックでありながらリアリスティックでもあると思います。

寒い内に今すぐご覧になっても、暑い季節に熱い思いに触れる形でご覧になっても楽しめる作品です。

夏の北海道
色彩あふれる絶景アクティビティを楽しむ

富良野の大自然でのモーターパラグライダー、洞爺湖を見下ろす高台で乗馬、支笏湖でのカヌー体験。ニセコ積丹小樽海岸国定公園に位置する小樽の青の洞窟では、長い年月をかけて波風などで浸食を受けた大自然を海上より楽しむことができます。

冬の北海道
白銀の世界でアクティビティを楽しむ

富良野ではモーターパラグライダーで白銀の雪原を空から望み、美瑛では十勝連峰を、またニセコでは羊蹄山を望みながらのスノーシュー体験へご案内。その他、白銀世界での乗馬体験や雪に包まれた森の中で行うジップライン体験など、冬の北海道の自然を各所のアクティビティを楽しみながら体感していただけます。小樽での夜は、ライトアップされた小樽運河の散策をお楽しみください。