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パドマーワト 女神の誕生

poster_image(C)Viacom 18 Motion Pictures (C)Bhansali Productions

インド

パドマーワト 女神の誕生

 

Padmaavat

監督:サンジャイ・リーラ・バンサーリー
出演:ディーピカー・パードゥコーン、ランヴィール・シン、シャーヒド・カプールほか
日本公開:2019年

2019.6.5

700年の時を越え現代に甦る、伝説の王妃 ラーニー・パドミニー

13世紀末、シンガール王国(現在のスリランカ)の王女パドマーワティは、西インドの小国・メーワール王国の王ラタン・シンと恋に落ち、メーワール王国の妃となる。

メイン

その頃、北インドでは叔父を暗殺した若き武将アラーウッディーン・ハルジーがイスラム教国の王(スルタン)となり、その影響力を広げていた。絶世の美女パドマーワティの噂を聞きつけたアラーウッディーン・ハルジーは、メーワール王国に兵を送るが、ラタン・シンの抵抗によって彼女の姿を見ることさえ許されなかった。

サブ㈪

どうしてもパドマーワティを自分のものにしたいアラーウッディーン・ハルジーは、ラタン・シンを拉致して、城にパドマーワティをおびき寄せようと画策する・・・

インド映画史上最高額の製作費がかけられた本作は、本当に13世紀当時にいるかのような気分に観客を浸らせてくれます。たとえば衣装は、限られた歴史資料を研究しつくした一流デザイナーが、想像力によって形作っていったそうです。さらに、衣装を飾る宝石はイミテーションではなくすべて本物とのことで、「現代の叡智と歴史のハイブリッド」が力強いイメージの数々を生み出しています。

サブ㈫

物語の舞台はインド北西部のラジャスタンで、実際にラジャスタン州の州都・ジャイプールにあるジャイガル城(世界遺産アンベール城をさらに上ったところにあります)でもロケが行われました。

衣装だけでなく、細部への徹底的なこだわりによって時間を越えた旅を観客にさせてくれる本作ですが、「歴史描写が誤っている」として、監督やパドマーワティを演じたディーピカー・パードゥコーンが保守的な勢力から脅迫されたり、撮影が妨害されたり、公開が度々延期になったりと、インド国内で様々な騒動が起きました。

その原因となった描写に関しては、物語の結末に触れることにここでは言及しないことにしますが、荘厳で圧倒的な「美」の描写は、世界遺産級と言っても過言ではないでしょう。

サブ㈰

インド映画界の力が総結集された『パドマーワト 女神の誕生』は、6月7日(金)より新宿ピカデリーにてロードショーほか、全国順次公開。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

 

プシュカル・メーラと色彩のラジャスタン

インド北西部に位置するラジャスタン州。数ある年中行事の中でも最も賑やかなプシュカル・メーラとラクダ市を見学します。地元の方と一緒に、熱気あふれるお祭りをお楽しみください。

猫が教えてくれたこと

6d5bc78ce070cb0a(C)2016 Nine Cats LLC

トルコ

猫が教えてくれたこと

 

Kedi

監督:ジェイダ・トルン
出演:イスタンブールの猫たち
日本公開:2017年

2019.5.8

ネコは全てお見通し―ネコ目線で描く
大都市・イスタンブールの人間模様

ヨーロッパとアジアの文化をつなぐトルコ・イスタンブール。「文明の十字路」とも呼ばれるこの街で暮らす野良猫たちは、食料をもらったり寝床を与えてもらうかわりに、人々に生きる希望や癒やしを与え、自由気ままに暮らしている。映画クルーは猫目線のカメラアングルを多用して、猫たちを追いかけながら、イスタンブールに暮らす人々の気持ちと都市の輪郭を明らかにしていく・・・

ペットを飼っている方なら当たり前のことかもしれませんが、人間は動物を飼育するだけでなく、人生において大切なことを教わることがあります。
「落ち込んでいる時、猫に元気をもらった」
「この猫がいなかったら、自分はどうなっていたことか・・・」
というようなコメントが、本作にも多く出てきます。

本作に収められているコメントで特にユニークなのは、「神の意志」が反映された動物として、猫を見ている人がイスタンブールをには多いことです。たしかに、古代エジプトではバステト神と呼ばれる猫の女神がいましたし、日本にも猫を祀っている神社がいくらかあります。

なぜ神として祀られるのか?
そうした「神性」のヒントとなるような猫の行動が、本作ではとらえられています。

人間の気持ちをわかっているような行動、距離のとり方、そして時には空洞となって人間の気持ちを受け止める包容力・・・
猫を愛する人がいつの時代も止まない理由が、本作をみるとわかります。

私は一度イスタンブールを訪れたことがありますが、やはり町中で猫の写真を多く撮ったのをよく覚えています。猫目線で切り取られたイスタンブールということで、現地に行ったことがある方も、新鮮な旅情を掻き立てられるような景観が映画の中に広がっています。

アメリカでは1館の公開からスタートして130館まで拡大し、異例のヒットを記録した本作は、気軽に鑑賞できつつ、思いがけない切り口で深い感動を与えてくれる一作です。

古都イスタンブール滞在

古都イスタンブールに4連泊。
ビザンツからオスマンまで、帝国の興亡を見つめてきたこの街に滞在し、 刻まれた歴史の中を歩く。

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イスタンブール

ボスポラス海峡を隔て、アジアとヨーロッパにまたがるトルコ最大の都市。首都はアンカラに遷都されましたが、現在でもトルコの文化、商業の中心です。主な見所はヨーロッパ側にあり、金角湾を挟み新市街と旧市街に分かれます。

ポルト

90d8210a3d43cd11(C)2016 Bando a Parte – Double Play Films – Gladys Glover – Madants

ポルトガル

ポルト

 

Porto

監督:ゲイブ・クリンガー
出演:アントン・イェルチン、ルシー・ルカース
日本公開:2017年

2019.2.13

港町・ポルトですれ違う、恋人たちの記憶

ポルトガル第二の都市・ポルト。家族に見放されてしまった26歳のアメリカ人ジェイクと、恋人と一緒にこの地にやってきた32歳のフランス人留学生マティは、考古学調査の現場でお互いの存在を意識する。カフェでマティを見つけたジェイクは彼女に声を掛け、その後一夜を共にする。しかしマティには恋人がいた。一夜の出来事を信じたいジェイクと、彼とは違う未来を見るマティ。あるひと時の、異なる2つの見え方が交錯していく・・・

本作の映像はフィルムとデジタルカメラ両方で撮影され、さらにシーンごとに違うアスペクト比(縦横比)が採用されています。「旅と映画」では「旅」に重きをおいて極力映画の専門用語を使わないようにして作品を紹介していましたが、本作については物語の理解につながるので専門知識を織り交ぜて紹介したいと思います。

まずはフィルムとデジタルの違いについてです。一番大きな違いは、「記録可能なのが一度限りかどうか」という点です。デジタル撮影ではメディアがSDカード等に記録され、すぐに消したりコピーしたりできます。フィルム撮影はフィルムという「物」に焼きけられる、一度限りの記録です。

次にアスペクト比についてです。現在のデジタルテレビは16:9というサイズですが、ビスタサイズやスコープサイズなどといった様々なアスペクト比の中間ということで16:9が採用されました。一般的に「映画っぽい」アスペクト比として認識されているのはスコープサイズなど横長のものです。

横長の画面は人間の視野に近く、「見る人」にとって心地よいです。本作ではそこからアスペクト比が狭まる(厳密に何対何かはわかりませんが)場面があります。私は何作かブラウン管テレビ時代に主流だった4:3というサイズ(スタンダードサイズ)で映画を撮ったことがあり、撮ったのは子どもが主人公の作品ですが、子どもの視点(のめり込むような好奇心)や記憶を表現するのに4:3は適していると私は考えています。本作でも、狭めなアスペクト比は過去を表現するのに用いられています。

こうした撮影方法がラブストーリーという枠の中でユニークに機能した『ポルト』。美しい町並みのポルトへの旅情を掻き立てる秘密を、技術面から少しでもご紹介できていれば幸いです。

ポルトガル人の道から聖地サンティアゴへ

ポルトガルから陸路で国境を越えサンティアゴ・デ・コンポステーラを目指す。

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ポルト

港湾都市ポルトは、リスボンに次ぐポルトガル第2の都市です。有名なポートワインは、この町から18世紀にイギリスに大量に輸出され、広く知られることとなりました。中世の面影を残す美しい旧市街は、「ポルト歴史地区」として世界遺産に登録されています。

セメントの記憶

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レバノン

セメントの記憶

 

Taste of Cement

監督:ジアード・クルスーム
出演:シリア人移民・難民労働者たち
日本公開:2019年

2019.2.6

きらびやかなベイルートにそびえ立つ、
「透明な」ランドマーク

舞台はレバノンの首都・ベイルート。かつて「中東のパリ」とも呼ばれたベイルートは、1975年から15年続いた内戦を乗り越え、経済成長の真っ只中にある。

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地中海沿いのにぎやかな通りを望む高層ビルの建設現場で、黙々と働くシリア人移民・難民労働者たち。勤務中も勤務終了後も、彼らは口を開くことなく、心の殻に閉じこもったまま過ごしている。レバノンへ亡命したシリア人監督 ジアード・クルスームは、彼らの心の内を想像する・・・

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カメラは映画において観客の「目」となりますが、そこに映らないものがあります。それは、匂いです。映らないので、映画という言語によって「匂わせる」しかありませんが、本作は全編に渡ってセメントの無味乾燥とした匂いが(無味乾燥という言葉と矛盾するようですが)強烈に香ってきます。

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私は本作を見ながら、インドのアジャンタ石窟寺院・エローラ石窟寺院を訪れたときに感じた不思議さを思い出しました。石窟寺院とは、建てたのではなく、岩壁や丘陵をくり抜いて作った寺院です。特にエローラで一番有名なカイラサナータ寺院は圧巻で、8〜9世紀頃に100年をかけてつくられたと言われています。立派な寺院は残っていますが、それを作った何千・何万人の心の内は想像するしかありません。

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「何のために?」と労働者が考えた時、神という力強い存在が当時はあったのでしょう。1000年以上前につくられたとは思えない寺院ですが、むしろ、現代人には再現不可能なのではないかと思いました。同じ程度のものつくりきるために、一致団結することができないからです。

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本作はそんな複雑な感覚を観客に味あわせてくれます。ベイルートの絶好の立地に、見張り台のように建つビル。その中で何が起こっているのか、人々は考えずに通り過ぎていきます。まるで存在しないかのように扱われている労働者たちが、そこに意思なくビルを建てていきます。「何のために?」という思いが欠落して建てられたビルは、どんな未来をつくりだすのでしょうか。

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監督はその未来を、故郷の土をなくしても依然として心にあり続ける、破壊しつくされても立ち上がろうとする、郷愁の念に託しました。シリアの惨状も劇中で多く示されますが、本作の詩的な映像の連なりは負のイメージではなく、レバノンやアラブの歴史・風土の魅力について目を向ける機会にもつながるはずです。

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『セメントの記憶』は、3/23(土)よりユーロスペースほか全国順次ロードショー。詩的な雰囲気が感じられる予告編はこちら。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

荘厳のバールベック レバノン一周

古代遺跡から緑豊かな自然まで、多様な見どころが点在しているレバノン。その魅力を余す所なく楽しんでいただく8日間です。国土が岐阜県ほどの大きさしかないため、移動距離も少なくゆったりとした日程です。

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ベイルート

レバノンの首都で、経済・政治の中心地。人口は約180万人。住民はキリスト教徒、イスラム教徒が共存しており、文化的に多様な都市の一つともなっています。1975年から15年に渡る内戦によりイスラム教徒地区の西部と、キリスト教徒地区の東部に分割されています。

そして人生は続く

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イラン

そして人生は続く

 

And Life Goes on…

監督: アッバス・キアロスタミ
出演: ファルハッド・ケラドマンほか
日本公開:1993年

2019.1.30

人生という旅、映画という旅・・・旅の真髄、ここに極まれり

1990年、大地震がイラン北部を襲った。アッバス・キアロスタミ監督作『友だちのうちはどこ?』の撮影地は震源地のすぐ近くだ。『友だちの〜』の主役・ババク・アハマッドプールやその友人たちの安否を気遣い、地震の五日後、監督(キアロスタミ監督を演じる役者)は息子・プーヤとともに撮影の行われたコケール村に向かう。道中、多くの人々が壊滅した町で瓦礫を片づけている様子を目の当たりにしつつ、監督はコケール村へ向かっていく・・・

本作は、「旅と映画」の連載が始まった当初から書きたかった作品だったのですが、入手困難なため書くことができませんでした。近年、名作のデジタルリマスターが進み、2016年に亡くなったアッバス・キアロスタミ監督の作品もリマスター版がソフト化されました。

なぜ本作について書きたかったかというと、「旅」の真髄が映画に映っているからです。あらすじにも書いてある通り、映画は監督の実際の境遇をフィクション化しています。フィクションなのですが、物語の出発点はドキュメンタリーなのです(と、説明することが無謀なほど、フィクションとドキュメンタリーが入り混じっています)。

本作を見ると、日本とイランの自然観があまりに似通っていることに驚きます。それは、地震の後という状況によってより顕著になります。自然は人間の喜怒哀楽を知らないと言わんばかりに、大地震の後にもその荘厳さを変えません。そして、人間はただその前に立ち尽くすしかないのです。

人生と自然、どちらにも共通している要素を挙げるとすれば、それは「続く」ということでしょう。映画はいつか終わりますが、その余韻は心の中で続きます。人生もいつか終わりますが、それは自然というより大きな懐の中で続きます。そうした自然観は、車で目的地に近づいていく「旅」という最小限の設定の中で、力強く示されます。監督の旅は、映画が進むにつれて「終わり」の気配がしてくるからです。

本作の映像で特に記憶に残るのは、ジグザグな道を行く監督の車を、途方も無く遠くに置いたカメラから撮ったシーンです。インド・パキスタン・ブータンの崖っぷち、チベットの荒野、バングラデシュのマングローブ林・・・ツアー中にバスで様々な場所を走りながら、私は頻繁にカメラを遠くに置いたら、自分たちのバスがどう見えるか想像していました(遠くから撮ることを、映画用語で「ロングショット」といいます)。本作を見て、皆さんの旅にもロングショットのカメラの視点を取り入れてみてはいかがでしょうか。

ポルトの恋人たち 時の記憶

e342e9c828b1da14©2017「ポルトの恋人たち」製作委員会

ポルトガル

ポルトの恋人たち 時の記憶

 

Lovers on Borders

監督:舩橋淳
出演:柄本佑、アナ・モレイラ、アントニオ・デュランエス、中野裕太
日本公開:2018年

2019.1.23

冷え切った現代人の心に火を灯す、時空を超えた感情の交流

18世紀、リスボン大震災後のポルトガル。復興のために日本人の宗次と四郎が、インドから奴隷として連れてこられる。

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屋敷には、震災で家族を亡くし、女中として雇われることになったマリアナが来たところだった。宗次はマリアナと恋仲になる。しかし、彼らの雇い主は、知人の宣教師が日本で生きたまま火炙りの刑に処さられたことから、日本人に強い恨みを持っていた・・・

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21世紀、東京オリンピック後の日本。浜松にある工場で、人員削減のために柊次はリストラを言い渡す。そこでは日系ブラジル人の幸四郎と、ポルトが故郷のポルトガル人・マリナが働いていて・・・

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18世紀と21世紀、日本とポルトガル。時代も場所も異なる男女の人生が、不思議に交錯していく。

旅をしている時、あるいは旅のアイデアを考える時に、特定の人物への思い入れが起点となることがあります。私の場合、ヘルマン・ヘッセの故郷であるカルフ、ロンドンにあるビートルズの聖地(アビーロード、屋上ライブが行われた元アップル・コアのあった場所など)やリヴァプール、パリに点在する映画ロケ地や、リュミエール兄弟が「世界最初の映画」を撮ったリヨンなどがそうでした。まだ行っていないところでは、『ローマ人の物語』(塩野七生著)を読んで色んな人物のエピソードで想像が膨らんでいるローマがあります。こうした旅の楽しみは、「ああだったんだろうな」「こうだったのかな」と、その人物の気持や境遇を想像するところにあります。もちろん、一生かかってもその人物にはなりきれなく、全てが分かるわけではないのですが、他者の人生を「追体験」できるのです。

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『ポルトの恋人たち 時の記憶』は、人間にはわからないことがある(あっていいし、あったほうがいい)ということを、壮大なスケールの物語で観客に示してくれます。ともすると、現代社会では便利さやスマートさによって、全てが分かったような気になってしまいます。しかし、例えば意識というものがなぜ生じるのかという、人間精神の最も根本的な原理すらいまだに解明できていません。

リスボン大震災がきっかけで1759年に書かれたヴォルテールの小説『カンディード』では、「とにかく、僕たち、自分の畑を耕さなくちゃ」と、「わからないこと」と共に生きていく姿で締めくくられます。日本も未曾有の大災害を経験しましたが、「わからないこと」に対する畏敬の欠如は、傲慢さに繋がりかねません。本作は、分かることや知れることの限界を前提にした上で、どのように人生や国を再生していくのかを考えていく「温かさ」に満ちています。

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ポルトガルの郷愁(サウダーデ)を感じさせるファドや、ポルトの美しい町並みも味わえる『ポルトの恋人たち 時の記憶』はシネマ・ジャック&ベティにて公開中 ほか全国ロードショー。詳細は公式ホームページをご覧ください。

ポルトガル人の道から聖地サンティアゴへ

ポルトガルから陸路で国境を越えサンティアゴ・デ・コンポステーラを目指す。

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ポルト

港湾都市ポルトは、リスボンに次ぐポルトガル第2の都市です。有名なポートワインは、この町から18世紀にイギリスに大量に輸出され、広く知られることとなりました。中世の面影を残す美しい旧市街は、「ポルト歴史地区」として世界遺産に登録されています。

バジュランギおじさんと、小さな迷子

bb_poster軽(C)Eros international all rights reserved. (C)SKF all rights reserved.

インド・パキスタン

バジュランギおじさんと、小さな迷子

 

Bajrangi Bhaijaan

監督:カビール・カーン
出演:サルマーン・カーン、ハルシャーリー・マルホートラ、カリーナ・カプールほか
日本公開:2019年

2018.12.12

永らく背中合わせの印パを駆け抜ける、でこぼこコンビの珍道中

パキスタンの小さな村に住む6歳の少女・シャヒーダー。成長しても声を出すことができないシャヒーダーを心配した母は、彼女をつれてインドのイスラム寺院に願掛けに行くものの、帰り道で離ればなれになってしまう。インドに取り残されたシャヒーダーは、ヒンドゥー教のハヌマーン神を熱烈に信奉する青年・パワンに救われ、パワンは彼女を親元に返すまで面倒を見る決意をする。

ひょんなきっかけで、パワンはシャヒーダーがパキスタンからやってきたことに気づく。一度決心を固めたパワンは、周囲の制止に耳を貸さない。パスポートもビザも持たず、国境を障壁とも思わず、パワンはシャヒーダーをパキスタンの親元に送り届ける旅に出る。

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インド映画興行第3位を記録した本作。表向きは、インド・パキスタン両国同士の長年にわたる対立を背景に、「インドに“迷い込んだ”パキスタンの少女を、インドの青年が“見知らぬ国”・パキスタン送り届ける旅」というストーリーです。インド映画お決まりのダンスシーンも満載です。

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しかし物語の奥底にはインドの制作クルーたちによって、パキスタンへの歩み寄りの心があちこちに散りばめられています。インド人もパキスタン人も、本当は言いたいのだけれどなかなか言えないこと。それは、「インドとパキスタン、お互い本当は仲良くしたい」ということです。

例えばパワンとシャヒーダーがパキスタンに入ってすぐ、警察に追いかけられながらバスに身を隠している時に、パワンの苦心を知った集金係がこんなセリフをいいます。

「あなたみたいな人が、インド・パキスタン両方にたくさん増えればいいのに」

近くて遠い国。それが現在のインドとパキスタンの関係なのだと思います。面白いことに、本作ではパキスタン設定のシーンがインドで撮影されています。許可や製作上の理由でそうなったのかもしれませんが、それができてしまうということを以っても、インドとパキスタンが実は近いのだということが示されています。

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『バジュランギおじさんと、小さな迷子』は、1/18(金)より新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

桃源郷フンザへの旅

カラコルム・ハイウェイを走り桃源郷フンザへ
パキスタンが誇る高峰群、ガンダーラを代表するタキシラも見学

ナマステ・インディア大周遊

文化と自然をたっぷり楽しむインド 15の世界遺産をめぐる少人数限定の旅

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デリー

「旅の玄関口」デリー。この都市は、はるか昔から存在した歴史的な都でもあります。 古代インドの大叙事詩「マハーバーラタ」では伝説の王都として登場。中世のイスラム諸王朝やムガール帝国などさまざな変遷の後、1947年にはイスラム教国家パキスタンとの分離独立を果たします。現在ではインド共和国の首都として、その政治と経済を担い、州と同格に扱われる連邦直轄領に位置づけられています。

葡萄畑に帰ろう

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ジョージア

葡萄畑に帰ろう

 

The Chair

監督:エルダル・シェンゲラヤ
出演:ニカ・タヴァゼ、ニネリ・チャンクヴェタゼほか
日本公開:2018年

2018.11.28

ソ連崩壊後の暗い歴史を笑い飛ばす、ユーモラスで“新しい”ジョージア映画

ジョージア「国内避難民追い出し省」(という架空の機関)大臣ギオルギのもとに、空中浮遊もできる不思議なイスが届く。「確かな道を 掲げた目標へ」という当たり障りのないスローガンを掲げていた与党は、野党「新しい道」に選挙で負けて、ギオルギはイスと共に省から追放される。さらに不法取引で入手した家の差し押さえを言い渡され、八方塞がりとなってしまったギオルギは故郷に思いを馳せる・・・

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旅をして異なる背景を持った人々と交流していく中で、最も文化差を感じやすいことの一つは、ジョークや笑いのツボではないでしょうか。実際私も海外で「おもしろい話だ」と聞いて全く笑えなかったり、添乗中に英語ガイドさんから「こういうジョークがある」と聞かせてもらったけれども意味がわからず翻訳するのに困ったことが何度かあります。

本作は「国内避難民追い出し省」という明らかにおかしい省庁の登場や、省内を職員がローラースケートで移動しているという謎めかしい光景で幕をあけます。時代設定は「ありそうで、ない」もしくは「なさそうで、ある」現在です。「避難民」と表現されるような「何か」がジョージアの実社会にあるのだということを、背景知識がない観客にも想像させてくれます。

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「旅と映画」では既に5本のジョージア映画を紹介してきましたが、『みかんの丘』や『とうもろこしの島』の背景にあったソ連崩壊後のアブハジア紛争や南オセチア紛争について、本作の鑑賞前か後に知っておくと理解が深まります。また、架空の権力機関が存在するという点で、『独裁者と小さな孫』とストーリーの切り口を比較できます。

本作の大きな特徴は、映画全体に漲るとにかく陽気な雰囲気にあります。今まで紹介してきた5本のジョージア映画は、作品の背後に漂う闇の存在を感じさせる作品でした。本作は先行き不透明さを軽く笑い飛ばして、昔話の締めくくりのように「めでたしめでたし」で完結させてしまう寓話性を持っています。これは1933年生まれのベテラン監督だからこそなしうる業でしょう。

英題”The Chair”からは権力に対する揶揄が感じ取れますが、邦題『葡萄畑に帰ろう』はやや複雑なユーモアにしっかりと方向づけをしていて、ジョージアにとって誇るべき葡萄酒(ワイン)と同じような何かを私たち日本人も見出だせると、作品の普遍性を補足してくれています。

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ジョージアの婚礼の光景やワイン文化を見ることもできる『葡萄畑に帰ろう』は、12/15(土)より岩波ホールにてロードショーほか、全国順次公開。詳細は公式ホームページをご覧ください。

 

コーカサス3ヶ国周遊

広大な自然に流れる民族往来の歴史を、コンパクトな日程で訪ねます。
複雑な歴史を歩んできた3ヶ国の見どころを凝縮。美しい高原の湖セヴァン湖やコーカサス山麓に広がる大自然もお楽しみいただきます。

民族の十字路 大コーカサス紀行

シルクロードの交差点コーカサス地方へ。見どころの多いジョージアには計8泊滞在。独特の建築や文化が残る上スヴァネティ地方や、トルコ国境に近いヴァルジアの洞窟都市も訪問。

ガンジスに還る

8da435b0afee8374(C)Red Carpet Moving Pictures

インド

ガンジスに還る

 

Hotel Salvation

監督:シュバシシュ・ブティアニ
出演:アディル・フセイン、ラリット・ベヘルほか
日本公開:2018年

2018.10.17

ハレとケが混在する聖地・バラナシが紡ぎだす、あるインド人親子の未来

インドのある食卓で、77歳の父・ダヤが「死期の訪れを感じている。バラナシに行こうと思う」と告げる。不思議な夢を見たダヤの決意は固い。息子・ラジーヴは仕方なく忙しさに区切りをつけ、バラナシにある「解脱の家」に付きそう。「解脱しようとしまいと、滞在は最大15日まで」、それが「解脱の家」のルールだ。雄大に流れるガンジス川のほとりで、父子は互いの関係や人生を見つめ直す・・・

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バラナシには何度か添乗で訪れたことがありますが、「聖地」という呼び名が似合う場所です。特に日の出の一時には、独特な静けさがあります。ガンジス川の東側は開けた平地になっていて、日の出が見渡せるようになっています。静けさの中で、洗濯物をガート(沐浴場)に叩く音が響いていたのをよく覚えていますが、インド社会によほどの変化が起きない限り、そうした眺望や光景はずっとあり続けるでしょう。日没後に毎日盛大に行われる儀式(プジャ)の様子も劇中に描かれています。

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インド人の若い監督(撮影時は24歳)がこの作品を撮ったということに大きな意義を感じます。日本で例えるならば、日本文化に深く根付いた仏教・神道を見つめ直す感じでしょうか。私はインド・チベット文化圏で輪廻転生を当たり前のものとして考える価値観に比較的多く触れてきたので、本作のような映画は海外からの目線によってつくられるものと思っていました。しかし、コルカタ生まれのインド人監督にとっても、バラナシはその価値を再認識すべき場所なのだと知りました。現代化の波は、それほどインドの人々の感覚を変容させているのでしょう。

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仕事人間・ラジーヴの立ち位置が、日本人の観客にも感情移入を容易にさせてくれます。ともすると、私たちはたった1、2時間ですら大事な家族・友人に割くことをためらってしまうことがあります。そして、それが後に大きな後悔につながることもあります。親子のやり取り、そして「解脱の家」に集う人々の様子から、私たちの人生において何が大切なのかを考えさせてくれます。

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異文化を見せてくれるだけでなく、観客の心に入り込む普遍性をもった『ガンジスに還る』は、10/27(土)より岩波ホールほかにてロードショー。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。

タージ・マハルと聖地バラナシ

インドの美を代表するタージ・マハルと、悠久の歴史を映す聖なるガンジス インドの核心にふれる旅

ナマステ・インディア大周遊

文化と自然をたっぷり楽しむインド 15の世界遺産をめぐる少人数限定の旅

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バラナシ

聖なるガンガーを中心に広がるバラナシの市内には、大小1500近いヒンドゥー教寺院と270以上のモスクがあると言われています。 年間100万人を超える参拝客が訪れ、ガンジス川の西岸約500kmに渡って伸びる階段状のガートで身を清め、市内の寺院に参拝します。

判決、ふたつの希望

46afd7e15996fdc6(C)2017 TESSALIT PRODUCTIONS – ROUGE INTERNATIONAL – EZEKIEL FILMS – SCOPE PICTURES – DOURI FILMS
PHOTO (C) TESSALIT PRODUCTIONS – ROUGE INTERNATIONAL

レバノン

判決、ふたつの希望

 

L’insulte

監督:ジアド・ドゥエイリ
出演:アデル・カラム、カメル・エル=バシャほか
日本公開:2018年

2018.10.10

レバノン社会に山積した負の感情が、希望に生まれ変わる時

レバノンの首都・ベイルートで自動車修理工場を営むキリスト教徒のレバノン人・トニーと、住宅補修に従事するパレスチナ難民・ヤーセル。水漏れを直しにきたヤーセルの対するトニーの粗野な対応は、ヤーセルの「クズ野郎」という一言を招き、トニーはそれに対して謝罪を要求する。

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そして、二人のこの些細な口論は裁判に発展してしまう。両者の弁護士が論戦を繰り広げメディアの報道も加わり、事態はレバノン全土を巻き込む騒乱へと発展していく・・・

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旅をすることで素晴らしい歴史・文化を知ったり、景観を眺めたり、人々と交流したりすることは私たちの感性に大きな影響を与えてくれます。しかし、旅をするだけでは感じ取るのが難しいこともあります。その一つは、人々の本音です。

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最近私は編集作業のため経済制裁中のイランに行き、様々な困難や国を出ようとしている人々の話を聞きましたが、心の中にある不安や記憶というのは基本的に「潜んでいる」ものです。町を歩いたり、ひとときの交流の中で何かそうしたことがキャッチできるかと言うと、なかなか難しいといえるでしょう。

本作は、日本人にはなかなか踏み入れがたいパレスチナ問題の実像を、感情面からわかりやすく私たちに示してくれます。「この映画を見ればパレスチナ問題がわかる」というわけでは決してありません。しかし、MeTooムーブメントのようなSNSによる急速な情報の拡散、そして同調の気運が日常的になった私たちに、本作はパレスチナ問題が決して理解不能ではないということを気づかせてくれます。

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わからなく掴み難い状態はそのままで、なんとなく「こういうことか」と思わせてくれる。それだけでも理解促進において大きな一歩ではないかと私は思います。

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そして何より本作の価値は、暗くなりがちな題材を、邦題にある通り「希望」を以って描いている点にあります(原題は「侮辱」の意)。パレスチナ問題に対して様々な立場が渦巻く中で、勇気と信念がある制作者だけがこうした作品を作ることができます。それは決して映画の制作者にとってだけ重要なものではなく、生きるパワーとして観客に伝わるものなのではないかと思います。

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全国で絶賛上映中の『判決、ふたつの希望』、上映詳細等は公式ホームページからご確認ください。

レバノン一周

レバノンが誇る5つの世界遺産 レバノン杉の森や数々の歴史遺産が残るレバノンを巡る8日間

beirut

ベイルート

レバノンの首都で、経済・政治の中心地。住民はキリスト教徒、イスラム教徒が共存しており、文化的に多様な都市の一つともなっています。