ONCE ダブリンの街角で
監督: ジョン・カーニー
出演:グレン・ハンサード、マルケタ・イルグロバほか
日本公開:2007年
アイルランドの首都ダブリンに、
寄せては返すミュージシャンたちの人生
アイルランドの首都・ダブリンの路上で日々ギター演奏をしている「男」は、ある日チェコ移民の「女」と出会います(この映画には、メインキャラクター2人に名前がありません)。男が偶然掃除機を修理するバイトをしていたことなどから交流が始まり、女にピアノの才能があることを男は知ります。男は女のために曲をつくり、その曲でセッションをして素晴らしいハーモニーが生まれ、二人はひかれあっていきます。
この映画を見ながら、私は以前アイリッシュ・ミュージックを聞くためにアイルランドに旅したことを思い出しました。ダブリンはそれほど大きな街ではなく、メインストリートのオコンネル通りからすぐの場所にアイリッシュ・パブがひしめき合うテンプル・バーというエリアがあります。物語が展開する上で重要な場所となるグラフトン通りもまたそのすぐ近くにあり、世界各地から集った路上ミュージシャン(バスカー)たちが昼夜を問わず思い思いの演奏をして賑わっていました。
バスカー(busker)という単語について、不思議な響きの単語なので一度その語源を調べたことがありますが、スペイン語の”Buscar”という単語が由来で、英訳するとseek(探し求める)という言葉でした。ダブリンの街角でバスカーたちを眺めていると、演奏すると同時に自分の行き先や音楽のスタイルを探し求めているという感じがして、単語の持つルーツに納得したのを覚えています。
メインとなる2人はプロのミュージシャンですが、演技はこの映画の時が初めてだったそうです。自然な演技をとるための工夫かと思いますが、望遠で遠くから撮影されたシーンも多く、おそらく予算の関係で通行人はエキストラではなく実際に通りを行き交う人がおさめられています。その結果、さながらドキュメンタリーのような、ダブリンの街で実際に起きた出来事を記録したような雰囲気で物語が展開していきます。さらに、主人公たちの名前が匿名なことによって、私がダブリンで見た光景の中でそうした数々のドラマがあったのではないかと想像させてくれました。
ダブリンのリズムを感じてみたい方、一度でも音楽に心を動かされたことのある方にオススメの作品です。
ダブリン
この町の最大の見所はトリニティカレッジに残る旧図書館です。この旧図書館には「ケルズの書」と呼ばれる装飾写本が保存されています。