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湾生回家
監督: ホァン・ミンチェン
出演:冨永勝、家倉多恵子、清水一也、松本洽盛、竹中信子、片山清子 他
日本公開:2016年
故郷は台湾、国籍は日本
6人の湾生の心を探るドキュメンタリー
1895年の下関条約締結から終戦の1945年まで、台湾は日本の統治下にありましたが、この間に台湾で生まれ育った約20万人の日本人は湾生(わんせい)と呼ばれます。「回家」の「回」は中国語で「帰る」という意味を持ち、本作『湾生回家』は湾生たちがそれぞれの思い出を胸に、心から愛してやまない台湾を訪れるドキュメンタリー映画です。
湾生たちの多くは敗戦後も台湾にそのまま住んでいたいと願っていたそうですが、ほとんどの人々が日本に強制送還されました。この映画では台湾を去った湾生とともに、台湾に残った湾生も紹介されていて、戦争の終結という歴史的出来事が人々の人生にどのように影響してきたのかを映し出しています。
旅に出る目的の中でも、自分のルーツを振り返る旅であったり、思い出を探し求める旅というのは美しく、また時に悲しいものです。「回家」という単語が示す通り家に帰るのであれば「ただいま」と言えますが、台湾を去った湾生にはそうした帰る家は残されていません。かわりに自分と同様に年齢を重ねた同志や、友人の子どもや、自然の景観に触れ合っていきます。
劇中では数十年来の感動的な再会、70年・80年のあいだ家族の墓を探し求めてきた人の姿、戸籍という文字の資料が一人の人間の中に眠っていた感情を涙が溢れるほどに喚起させる場面に遭遇することができます。
戦後70年以上がすぎ、人々から忘れられようとしている湾生の人々に目を向けることで私たちは何を学ぶことができるでしょうか。湾生を生んだのは戦争です。日本が台湾を統治したこと、湾生たちが台湾を離れなければいけなかったこと、そのどちらにも戦争が関わっています。 たとえば、現在ヨーロッパでは中東や北アフリカなどからの移民が大きな社会問題となっていますが、日本人にとってそれはどうしても実感がわきにくい問題です。かつて日本と台湾の間で何が起こったのか、そしてどのように人々が交流してきたのかを振り返ることで、そうした現在の諸問題に対して日本人らしい関わり方を持てるかもしれないと私は思いました。
湾生の人々の儚く美しい思い出に触れることで、きっと自分の故郷への思い出も湧き出てくることでしょう。
『湾生回家」は11/12より岩波ホールほかにてロードショー。その他詳細は公式ホームページをご覧ください。