白い風船

114567_01

イラン

白い風船

 

رنگ خدا‎

監督: ジャファール・パナヒ
出演:アイーダ・モハマッドカーニ、モフセン・カリフィほか
日本公開:1996年

2016.9.7

7歳のテヘランっ子がお金をなくすと、イラン社会に風が吹く?

イランの映画には子どもが主人公の名作が多いですが、この『白い風船』 は可愛らしい女の子の主人公(素人とは思えない堂々とした演技!)や、シンプルで見やすい展開のため記憶に残りやすい作品です。

イスラーム暦の年明けをあと数時間で迎えようとしているテヘランで、7歳の女の子・ラジェが新年のお祝いのためにお気に入りの金魚がどうしても買いたいと母親にねだります。なんとかお金をもらったものの、ラジェはそれを落としてしまったり、大人の都合に巻き込まれたりしてなかなか金魚が手に入りません…

一見単純なストーリーの中に、稼ぎに苦労している大人たち、お金がなくて田舎に帰れない兵隊、アフガン難民の少年などが特に説明もなくひょっこりと登場し、ラジェとの関わりの中で巧みに社会問題が描かれていきます。イランではイスラム革命後から文化イスラム指導省が映画上映の可否を判断する規則が設けられ、どんなテーマでも映画の中で描けるというわけではありません。

実際、ジャファール・パナヒ監督は映画を撮り続ける中で2010年に反政府活動をしたということで逮捕され、6年間の実刑とイラン国内における20年間の活動禁止を言い渡されました。その後『これは映画ではない』というなんとも矛盾したタイトルの映画を自らiPhoneで撮影した動画で作り上げました。新作はテヘランを走るタクシー(監督は現在タクシー運転手をしているそうです)の中だけで物語が展開する『タクシー』で、日本での公開が待たれています。

ジャファール・パナヒ監督や、先日惜しくも亡くなった巨匠アッバース・キアロスタミ(この作品では脚本を担当)は、この映画の中で子どもの住んでいる社会問題を溶け込ませるようにしてストーリーを展開させ、制限を逆手に取ってストーリーとは別に映画が何かをささやいているような謎めかしい雰囲気を生んでいます。タイトルの『白い風船』も、映画を見ているうちに忘れてしまいそうな形で登場しますが、一体そこにどのような意味がこめられているのか、いかようにも解釈ができる描き方にご注目ください。

イランの新年(お昼に年が明けます)の様子やテヘランの市井の人の暮らしぶりを見てみたいという方から、タイトルに隠された謎を解いてみたいという方にオススメの1本です。

ペルシャ歴史紀行

精緻を極めたタイル装飾に美しいレリーフ、数々の王朝の栄華を物語る都の跡。かつてのオリエント世界の中心として君臨したペルシャの歴史を辿る、イランの旅の決定版。

teheran_bazaar

テヘラン

イランの北西部に位置する同国の首都。エルブルース山脈の麓に広がるこの街は、全人口の10%に当たる人々が生活する大都市です。近代的な建物やモスク、道路に溢れかえる車の数、バザールなどの人々の活気など満ち溢れたエネルギーを肌で感じることが出来る街です。