ビッグ・シティ
監督:サタジット・レイ
出演:マドビ・ムカージー、アニル・チャタージーほか
日本公開:1976年
美しいモノクロームに彩られた、
品性漂うインド映画
舞台は1953年、東がバングラデシュと接するインド・西ベンガル州の州都・コルカタです。
主人公のアラチは、銀行員である夫のシュプラトが稼ぎに苦しんでいるのを見かねて働きに出ることを決意します。主婦が働くということに不賛成なシュブラトの父の制止を振り切って、編み機を売って回る仕事にアラチは励みます。そして、会社の社長にも認められるほどの才能をアラチは発揮していきます。夫としてのプライドから段々とシュブラトはアラチに不満を抱くようになり、二人の関係に変化が生じてきますが、不運なことにシュブラトの銀行が倒産してしまいます…
監督のサタジット・レイはアジアの偉大な監督の一人として世界中に認知されていますが、日本の巨匠でたとえると黒澤明と小津安二郎の魅力を兼ね備えたような監督です。
この映画がつくられた1960年代前半のインドにおいては、女性は家を守り外では働かないという考え方がまだまだ揺るぎないものだったといいます。そうした時代に女性が積極的に仕事をして家の大黒柱になるという、ある種タブーに触れるようなストーリーを描きダイナミックな問題提起をするあたりは、原水爆問題に真っ向から立ち向かう黒澤明のスタイルのようです。
また、長らく英国統治下にあった大都会・コルカタは、1947年のインド・パキスタンの分離独立やインド・パキスタン戦争による大量の難民の流入により大規模スラムが発生しましたが、サタジット・レイはそうした貧困(主人公たちのレベルのではなく、もっと低層のレベルの意味での)については一切言及せずに、主人公のアラチの努力や女性としての品性に焦点をあてることに徹しています。この辺りは、キャリアのある時点から戦後の荒廃をあえて描かずに浮世離れした優雅なドラマを撮り、フレームの中の細かな美術ひとつひとつ、セリフの喋り方、細かな動作まで全てに品を求めた小津安二郎のようなスタンスを感じます。
サタジット・レイの鋭い洞察が反映されたこの映画は、時代を越えて「生きるとは何か」という普遍的なメッセージを私たちに訴えかけてきます。英領インド時代を感じさせるコルカタの街の雰囲気や、強い女性が活躍する映画を見たいという方に特にオススメの映画です。
コルカタ
西ベンガル州の州都。イギリス統治時代は「カルカッタ」の名称で知られていました。この町を訪れると混沌とした熱気、町の雑踏を肌で感じることができるでしょう。