彷徨える河

彷徨える河_表_チラシ©Ciudad Lunar Producciones

配給: トレノバ、ディレクターズ・ユニブ

コロンビア

彷徨える河

 

El abrazo de la serpiente

監督:シーロ・ゲーラ
出演:ヤン・ベイブート、ブリオン・デイビス、アントニオ・ボリバル・サルバドール、ニルビオ・トーレスほか
日本公開:2016年

2016.10.5

「コロンビア人も知らないコロンビア」で 交錯する2人の来訪者の記憶

舞台は20世紀初頭コロンビア・アマゾン川流域。ドイツの探検家・テオの病気を治すために、先住民・カラマカテの案内でヤクルナという聖なる植物を探し求める旅が始まります。

main

数十年後、テオの著作をもとにヤクルナを求めて同じ地に訪れたアメリカの植物学者・エヴァンが年老いたカラマカテと出会います。カラマカテは昔の記憶を失いかけていましたが、エヴァンの旅に同行することで少しずつ過去の出来事を思い出していきます…

sub04

植民地としてのコロンビアの歴史もストーリーに大きく関わっていますが、物語の源泉をじっと見つめると、「記憶」あるいは「知識」というテーマが潜んでいることがわかってきます。老年になり記憶を失ったカラマカテは、自身のことを「チュジャチャキ 」と呼びます。おそらく先住民の言葉かと思われますが、写真に映った人物のことを指したり、字幕では「無の存在」と訳されています。そして、シーロ・ゲーラ監督は、会話の中で巧みにカラマカテと欧米人の時間軸の違いを描き出していきます。

sub06

カラマカテは侵略者によって村を滅ぼされた中で唯一の生き残った男で、記憶をバトンタッチする相手がいません。この映画の原題は「大蛇の抱擁」という意味だそうですが、記憶を受渡す相手がいないカラマカテを、アマゾンの大自然が包み込んだというのがチュジャチャキという言葉の本質ではないかと思います。つまり、一個人の記憶がなくなるということはごく自然なことである、という考え方を示しているのではないかということです。

自分の記憶が確実に失われていることに当惑しているカラマカテは、知識を伝達することを目的とした植物学者・エヴァンに共鳴するかのように旅に同行したいと自分の意志で申し出ます。

何かを得るということは、何かを失うことになるかもしれない…そうした疑念を抱くかのように、訪問者たちはカラマカテと仲良く旅をするというよりはお互い背中合わせのような状態で、不思議な間柄のまま旅をしていきます。

sub01

この映画の大きな見どころの一つは、老年のカラマカテが実際にオカイナ族という民族の最後の一人であるアントニオ・ボリバル・サルバドールによって演じられていることです。物語もドイツの民族学者テオドール・コッホ=グリュンベルクとアメリカの生物学者リチャード・エヴァンズ・シュルテスの実際の手記を元に構成されていますが、製作陣が先住民の人々に協力を請い説き伏せるまでの学者並みの努力は敬服に値します。

コロンビアやアマゾンに興味がある方、ジャングルの奥深くまで冒険に出た気分になってみたい方に特にオススメです。

sub08

『彷徨える河』は2016年10月29日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次上映。

詳細は公式サイトからご確認ください。

黄金郷コロンビア

オリノコ源流域に隠された虹色に輝く川カーニョ・クリスタレスと黄金郷伝説の残るコロンビアのみどころを巡る9日間の旅。植民地時代の面影を今に残す世界遺産カルタヘナも訪問。