少女は自転車にのって
監督: ハイファ・アル=マンスール
出演:ワアド・ムハンマド、リーム・アブドゥラほか
日本公開:2013年
コーランを覚えるのは、自転車のため!10歳の少女が背負うサウジアラビアの未来
舞台はサウジアラビアの首都・リヤド。コンバースのスニーカーをはき、英語のポップミュージックを聞く10歳の少女ワジダは、男の子と競走するための自転車を手に入れたくて仕方ありません。しかし、「女の子が自転車に乗るなんて・・・」と母親に反対されます。途方に暮れるワジダは、学校でコーラン暗唱コンテストに賞金があると知り、自転車を買うために必死に暗唱に取り組みます。
私もイスラム圏の国に仕事や旅行で多く訪れたことがありますが、サウジアラビアの規律の厳しさは皮下のイスラム諸国とは全く別だということを常々聞いてきました。劇中では特に女性の境遇(一夫多妻制など)や立ちふるまいについての慣習知ることができます。「女性の声は肌と同じ」と笑い声を制されるシーンなど、ここまで厳しいのかと驚いてしまうシーンも少なくありません。女性が一人で外出すること、夫以外の男性と外で会うこと、車を運転することも許されていません。近年ではインターネットで連帯して女性の権利を訴えるデモが増えてきているといいます。
サウジアラビアでは公共の場での音楽・舞踏・映画が禁止されており、映画館も国内にありません。(家庭でのソフトの視聴は可能。)エジプトで映画製作を学んだ監督は、全編サウジアラビアロケにあたり、車の中から遠隔で指示を出していたといいます。
ポスターにも「因習」と書かれているしきたりをテーマにしながらもこの作品が皮肉な内容に偏ることがないのは、10歳の少女が主人公であることが大きく機能しているからでしょう。サウジアラビアの慣習もテーマのひとつですが、どちらかというと少女が何か目標に向けて頑張るというパワーが映画を動かしていきます。
まっすぐで無邪気な視点が多くの観客の心を動かし、2014年度アカデミー賞・外国語映画賞候補にノミネートされたこの作品は、サウジアラビアやイスラーム文化の入門としてもおすすめの作品です。