(C) 2015 Ravi Films, LLC
ソング・オブ・ラホール
監督:シャルミーン・ウベード=チナーイ、アンディ・ショーケン
出演:サッチャル・ジャズ・アンサンブル、ウィントン・マルサリスほか
日本公開:2016年
パキスタン伝統音楽×ジャズ!
NYとラホールの間に音楽が架ける橋
「文化と文化の接触」という言葉を聞いた時、皆さんはどういった場所や事柄を連想されるでしょうか。私が真っ先に思い浮かべるのは、パキスタンのラホール美術館で見たガンダーラ仏の展示です。特に弥勒菩薩立像の筋骨隆々とした姿はギリシャ彫刻の影響をはっきりと確認することができ、かつて本当にアレクサンダー大王がパキスタンの地まで来たのだと実感させるものでした。
物語はそのラホールから始まり、かつては芸術の都と呼ばれていたラホールの音楽文化が1970年代後半にパキスタンのイスラーム化政策がはじまったことにより衰退したことが説明されます。ラホールのサッチャル・スタジオのメンバーたちは廃れてしまった伝統音楽を復活させるべく、youtubeで自分たちの音楽を世界に向けて発信します。
シタール・タブラなどインド音楽でもおなじみの楽器を用いてユニークな解釈で演奏されたジャズのスタンダードナンバーは多くの人の心を打ち、アメリカの超一流トランペッターであるウィントン・マルサリスの耳にもその響きは届きました。
サッチャル・ジャズ・アンサンブルの面々がウィントン・マルサリスの招待によりニューヨークに旅立っていく過程や、素晴らしい演奏技術が見ごたえ抜群なのはもちろんですが、本作にはもうひとつ重要な意味合いがあります。それは、彼らが世の中が持つパキスタンのネガティブなイメージを刷新させたいと切に願っていることです。
私もパスポートにパキスタンビザが押されているだけでヨーロッパやアメリカでの怪しまれて入国審査で理由を事細かに質問されるということがありました。「パキスタン人はテロリストじゃないとわかってもらいたい」とメンバーたちは劇中でつぶやきますが、きっと彼らが生み出す音楽は人々の心に直接歩み寄って一番よい形でそのことを伝えてくれるでしょう。
世界の遠く離れた場所どうしの民話が時に全く同じような話であることがあるように、国境や文化を隔てていても人間は同じ人間なのだということ、そして同時に「違い」が世界を成り立たせているのだということをサッチャル・ジャズの音色は見つめなおさせてくれます。
8月13日(土)よりユーロスペース、8月27日(土)より角川シネマ有楽町にて公開。
ラホール
パンジャーブ州の州都にしてパキスタン第2の都市。パキスタンの文化・芸術の中心地で、 インドとの国境へも車で約1時間。両国の「雪解け」を感じる町でもあります。