今日の海が何色でも

タイ

今日の海が何色でも

 

監督:パティパン・ブンタリク
出演:アイラダ・ピツワン、ラウィパ・スリサングアン
日本公開:2025年

2025.1.22

知られざるタイ・ムスリム圏の恋愛模様

イスラム教徒が多く暮らすタイ南部の町ソンクラー。かつてこの町には美しい砂浜があったが、高潮によって侵食され、現在は護岸用の人工の岩に置き換えられている。保守的なイスラム教徒の家庭に生まれ育ったシャティは親から結婚を急かされているが、親が決めた相手と結婚させられることに疑問を抱いていた。

そんなある日、シャティは町で防波堤をテーマにした美術展を開くため都会からやって来たビジュアルアーティストのフォンと出会い、彼女を手伝うことに。

正反対の環境に生まれ育った対照的なふたりは、互いを深く理解していくなかでひかれあうようになるが⋯⋯

タイというとどのようなイメージを思い浮かべるでしょうか。プーケットなど、「きれいな海」というイメージは思い浮かぶかもしれません。

宗教でいうならば、仏教のイメージが強いかと思います。本作はマレーシアにほど近いムスリム圏の町を舞台にしています。作品の写真だけ見ると、町並みや人々の顔立ちも、マレーシアやインドネシアの作品かなと思うような雰囲気がします。

そういう意味で、とてもめずらしい、知らない世界を旅したような気分を味わえる可能性が高い一作です。実は監督が友達なのですが、2018年に出会った時から本作を企画していました(企画が実現して、しかも日本で公開されてとても嬉しく思います)。

彼と直接色々話した記憶をたどりながら、本作のキーワードをひとつ挙げるとするならば「ボーダーレス」です。

何かが進展・発展すると、同時に何かが失われることがあります。本作において、まずそれは環境・景観です。防波堤によって失われた景観は、もとに戻すことはできません。

監督はその事象を「環境問題を描く」というような真正面からの描き方ではなく、あくまで人間模様を通じて、特にLGBTQといった現代的ジェンダーの「ボーダー」を通じて描いています。

海の色や状態が、片時も一様ではないように、人の気持ちや世の中のゆらぎが渾然一体となって物語が展開されているのがとてもユニークな作品です。

『今日の海が何色でも』は、1月17日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷などで上映。その他詳細は公式HPでご確認ください。