© 1997 Les Films du losange
恋の秋
監督: エリック・ロメール
出演: マリー・リヴィエール、ベアトリス・ロマンほか
日本公開:1998年
ワイン畑で人生談義―エリック・ロメール監督が描くロワールのテロワール
舞台は南仏のローヌ渓谷。小さな農園でワイン作りに勤しむ陽気な女性・マガリと、本屋を営むイザベルは親友同士で共に40代。
夫を亡くして以来独身のままでいるマガリを心配するイザベルは、マガリになりすまして彼女の再婚相手を探し始める・・・・・・
近年、デジタル・リマスターされた名作映画が多く公開となっています。2010年に亡くなったエリック・ロメール監督の作品も、ここ数年でリマスター化が進んでいます。日本の作家でも、『ドライブ・マイ・カー』でカンヌ映画祭やアカデミー賞をとった濱口竜介監督や同世代の深田晃司監督は、共にロメールの演出に強い影響を受けています。
すごく大雑把にまとめると本作(および他のロメール作品)は、「登場人物たちがまとまりないことをうだうだと喋っている映画」です。いわゆるラブ・ストーリーを見慣れている方にとっては、何も起こらなさすぎて面食らう作品かもしれません。「ここからどうなるのだろう?」という類のドキドキ感はほとんどありません。
むしろ主人公のマガリは、ずっとウジウジしていて「純粋な友情なんてない」とか「結婚はしたいけどでも条件がないわけじゃないしねぇ、まあ難しいよね」と、どちらかというと悲観的。そしてとても自己中心的に描かれます。だからこそ、愛情の萌芽がほんの一瞬感じられたときに、とても顕著に観客はそれを目撃することができます。
「幸せがときめく瞬間」という公開当初のポスターに記載してあるコピーはまさにその通りで、ダイナミックさよりもそういう微細な心を描いているのです。
なぜそういう演出なのかというもうひとつの狙いは、ローヌ渓谷という場所の性質そのもの(ワインでいうところのテロワール)を監督が描きたいということもあったのではと思います。季節の移り変わりの中で、うつろう心。フランスの田舎を散歩しながら、人生談義をしているかのような気分になる作品です。