(C)Winds – France 2 Cinema – Daisy G. Nichols Productions LLC – Chapka – Vendome Production
世界のはしっこ、ちいさな教室
監督:エミリー・テロン
出演:サンドリーヌ・ゾンゴ、スベトラーナ・バシレバ、タスリマ・アクテルほか
日本公開:2023年
西アフリカ・シベリア・東南アジアで―女性たち三者三様の「教えと学びの旅」
ブルキナファソの首都ワガドゥグで夫と2人の娘を育てる新人教師・サンドリーヌは、6年間の任期のもと、僻地・ティオガガラ村に派遣される。50人強の児童は公用語のフランス語をほとんど理解できず、教室では5つの言語が飛び交う。
バングラデシュ北部のスナムガンジ地方。モンスーンによって村の大部分が水没した農村地帯のボートスクールに、人道支援団体から派遣されたタスリマは、女性の権利の擁護や教育の意義の啓蒙をひたむきに行う。
雪深いシベリアに暮らす遊牧民で、伝統言語・エヴァンキ語の消滅を危惧するスベトラーナ。トナカイの牧夫である両親を持つスヴェトラーナは6歳で寄宿学校に入学し、両親と一緒に伝統的な 生活を送れなかったことを悔やんできた。彼女はロシア連邦の義務教育に加え、エヴェンキ族の伝統や言語、アイデンティティを伝えるカリキュラム、魚釣りやトナカイ の捕まえ方も実地で教えている。
子どもたちに広い世界や学びの楽しさを知ってほしいという一心で教師の仕事を全うしている、3人の女性の飽くなき探求をカメラは映し出していく。
『世界の果ての通学路』という人気映画の題名を聞かれたことがある方は多いかと思いますが、本作はその製作スタッフが手掛けた作品です。英題には”Teach Me If You Can”(「私に教えられるなら、教えてみて」の意)というユーモラスな言い回しが採用されている通り、映画はほのぼのとしたタッチで進んできます。
僕自身の個人的なタイミングでいうと、子どもがこの4月から小学校に通い始めて、子どもが自分の足で通学し、帰ってきて、宿題をやっている姿が日常になったため、本作は僕にとっての「学び」「教え」の根本を問い直させてくれたように感じました。
舞台は発展途上国や僻地が中心なので、色々な意味で日本よりも「大変」な環境です。ですが、「こういう大変な思いをしながら学んでいる子どもたちや、学びたくても学べない子どもたちが世の中にはいるのだから、日本の子どもたちというのは恵まれていると思わなきゃ」というふうには感じませんでした。
映画を観ている最中ずっとぐるぐると考えを巡らせていたののは、「”学ぶ”とはどういうことなのか?」です。暗記や教科書をただこなすだけではなく、「学びたい」と思った瞬間に「学び」というのは訪れる。そう思わせてくれる瞬間が多く本作には記録されています。
もう1つは「教え」です。もちろん、「教えることによる学び」というのもありつつ、基本的には教師と親というのは教える側の人間です。しかし、「教えることできる」ということはその主体となっている人が全能的というか「全てを知っている」ということを意味しないのだと再認識しました。
むしろ、そうした「教えている」というある種の権力をうまく抑えて、「自分にも知らないことがある」という前提のもと、子どもたちと一緒に考え始めたときに、いつの間にか「教え」が手渡せている。そんな瞬間を目にしました。
『世界のはしっこ、ちいさな教室』は7/21(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次上映。そのほか詳細は公式HPをご確認ください。