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青いカフタンの仕立て屋
監督:マリヤム・トゥザニ
出演:ルブナ・アザバル、サーレフ・バクリ、アイユーブ・ミシウィ ほか
日本公開:2023年
ペトロールブルーは熱い色―ベテラン仕立て屋夫婦の人生と、モロッコのジェンダー
モロッコ、海沿いの町、サレ。旧市街(メディナ)の路地裏で、25年連れ添った夫婦・ミナとハリムは小さな仕立て屋を営んでいる。
家業を継いだハリムは女性を美しく包むカフタン作りの伝統を守り続けてきた。夫の技術と人柄に惚れ込むミナは、完璧を求めるあまり作業が遅れがちなハリムを急かしつつ、完成を心待ちにする女性たちとのやりとりを楽しんでいた。
ある日、2人はユーセフと名乗る若い男を助手として雇い入れる。より紐作りも刺繍も慣れた手つきでこなし、古い手刺繍を愛でる審美眼もある。
ハリムはユーセフを気に入り、豪奢なカフタン制作に参加させることにした。しかし、その順調さにミナは嫉妬を抱く・・・
本コラムで以前ご紹介した『モロッコ、彼女たちの朝』の監督の最新作。前作ではマラケシュの町にあるパン屋さんを軸に、場所はほとんど動かないまま物語が展開されていました。本作についてもそのスタイルは踏襲されています(ちなみに主演の女優さんも続投しています)。
仕立て屋からほとんど動かずに、現代モロッコの伝統文化と近代化の相克、ジェンダー、LGBTQ当事者たちの葛藤が描れています。
物語が進むにしいたがって、ミナは乳がんで死期が近く、ハリムは同性愛者であることをひた隠しにしていることが明らかになってきます。
まったく作風は違うのですが、『アデル、ブルーは熱い色』という2013年のフランス映画(監督はチュニジア出身)を思い出しました。『アデル〜』はクローズアップ・手持ちカメラを多用してレズビアンの若者2人の出会いと別れを描いた作品なのに対し、本作は静かで滑らかなカメラワークを基調として中年夫婦を描いています。
両作がまず似ている点は、青という色がテーマなことです。本作ではただの青ではなくて「緑と青の中間」のような色であるブルー(ペトロールブルー)がシンボルカラーになっています。抑えつけられている感情や、ジェンダーマイノリティの立場など、作中の様々なエッセンスを象徴しているように思えました。
また、食事シーンが官能的であることも似ています。『アデル〜』は若さや恋心の表現を食事シーンが助長していましたが、本作ではミナが体調を崩した時、青の補色であるオレンジ色のタンジェリン(マンダリンオレンジ)をミナが口にしたり、タジンやルフィサなどの伝統食がストーリーにしっかり紐づいているなど、ただの「食事シーン」ではない綿密な計算された演出がなされていると感じました。
ちなみにロケ地のサレという町は、西遊旅行のツアーでも訪れる大西洋沿いの町・ラバトの近郊にある小さな町だということです。ラバトには行ったことがあるのですが、海辺のキレイなシーンが終盤にあり「この町にも行ってみたかった」と思いました。
未だ見ぬモロッコをみせてくれる『青いカフタンの仕立て屋』は6月16日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町・新宿武蔵野館ほか全国公開。その他詳細は公式HPをご確認ください。