ラサへの歩き方~祈りの2400km
監督:チャン・ヤン
出演:チベット巡礼の旅をする11人の村人たち
配給:ムヴィオラ
日本公開:2016年
聖なる大地・チベットを包む、
巡礼者たちの小さな祈り
舞台はチベット自治区。東チベット・マルカム県プラ村の人々が1200km離れた聖地・ラサ、そしてさらに1200km先のカイラース山への巡礼の旅に出ます。 それぞれの思いを胸に巡礼に臨む11人は、両手・両膝・額を地面に投げ出して祈る五体投地を何百万回と繰り返しながら、まさに体をすり減らして進んでいきます。
五体投地は実際にしばらくやってみるといかに体力を使うかがわかりますが、小学校低学年ぐらいの少女も含む一行は基本的に標高3000m越えの環境で五体投地をひたすら繰り返して、途中4500mを越える峠をも越えて聖地を目指します。
この作品の驚くべき点は、実際の村人たち本人が自分たち自身を演じているフィクションであるという点です。出演者たちの敬虔さや、荘厳なチベットの風景といった実質的要素が手伝って、物語はフィクションとドキュメンタリーの境目を足音なく行き来し、観客に手を差し伸べてくれます。
カメラは幾度となく誰が誰だか判別できないくらい遠くからのアングルで、風景に同化させるようなとらえ方で登場人物たちを映します。命の生き死にが人間から近いところで行われている描写も随時はさまりますが、物語は「チベット」という場所を越え、鏡が光を反射するように私たち自身の生活を省みさせてくれます。
一般的な感覚からすると、時は過去から未来へと一方向に進み、人生は何かを積み重ねていくもののように感じます。社会生活の中で私たちは何かを身につけたり、経験したり、増やしたりすることに価値を感じがちです。旅の途中で巡礼者たちが祈りながら道端に小石を積み上げる様子が度々映しだされますが、私はその度に彼らの中の何かが削ぎ落とされていくような印象を受け、「減らす」ということの美徳を感じました。積む動きをとらえたシーンで減らす美徳を感じるというのも不思議な話ですが、登場人物たちのちょっとした行為の節々から、彼らが持つ美しい感覚を感じ取ることができます。
私自身ラサには数回訪れ、道路脇で五体投地している人やポタラ宮やジョカン(大昭寺)で熱心に祈りを捧げる人を目にして、彼らがそこに至るまでの果てしない旅路を想像していました。この映画は、私がその時知りたかったことに対する一つの答えを見せてくれました。
チベットに興味がある方から、日々の複雑な悩みを単純にみつめなおしてみたい方にオススメです。
7/23(土)よりシアター・イメージフォーラムにて公開。その他全国順次上映。
詳細は公式サイトからご確認ください。
ラサ
チベット自治区の区都。チベットの政治的・宗教的中心地。 7世紀にチベットを統一した吐蕃王国のソンツェンガンポ王により、チベット(当時は吐蕃王国)の都として定められました。