(C)2021 GO TO SHEEP, BLACK SPARK FILM &TV, MADANTS, FILM I VAST, CHIMNEY, RABBIT HOLE ALICJA GRAWON-JAKSIK, HELGI JOHANNSSON
LAMB ラム
監督:バルディミール・ヨハンソン
出演:ノオミ・ラパス、ヒナミル・スナイル・グブズナソンイほか
日本公開:2022年
羊人間を育てる羊飼いと人間生活の本質―アイスランド発の哲学的スリラー
アイスランドの山間に住む羊飼いの夫婦イングヴァルとマリアは、羊の出産に立ち会う。すると、羊ではない「何か」が産まれてきた。
子どもを亡くしていた2人は、その「何か」に「アダ」と名付け育てることにする。アダとの幸せな生活の奥底で、2人の運命は大きくうごめいていく。
前回は「遠い」国としてマリの『禁じられた歌声』をご紹介しましたが、アイスランドも色々な意味で遠い国です(ちなみに「日本から遠い国」で検索したところ一番距離的に遠いのはウルグアイとのことでした)。遠いですし、氷河・オーロラ・間欠泉・動物など、様々な環境の違いがあり、常識の尺度も違います。たとえば、本作の大半は真夜中になっても日が沈まない白夜の設定で展開されますが、さほど説明無く物語が進むので白夜だと気付いた瞬間にハッとします。
本作はホラーとしてカテゴライズされることもありますが、僕の解釈では、人間の深淵を描いている(がゆえに若干怖い)作品で、哲学的スリラーと表現することもできるかと思います。なので「ホラーはちょっと・・・」という方も、ぜひ避けずにご覧になってみてください。
「秘境」と呼ばれる中でもその度合が高い場所に行くと、自分がそこにいるという事実自体に、不思議を抱くことがあるのではないかと思います。僕は、添乗中ではあるものの、度々その感覚に浸ったことがあります。
羊を無意識・潜在意識の象徴として小説の初期作に登場させたのは村上春樹ですが、『ノルウェイの森』の終盤で、色々なドラマを経た主人公が「どこにいるの?」と問われて「僕は今どこにいるのだ?」となる感じとでもいいましょうか。
『LAMB ラム』を観ていると「どういうことなんだこれは??」というシーンが続きます。主人公の女性の名前がマリアであったり羊飼いという職業が暗示する通り、キリスト教の比喩も多く含まれています。
夜が長い冬にも、白夜までは日本はもちろんいきませんが日照時間が長い夏にも楽しめる秀作『LAMB ラム』は、鑑賞中から鑑賞後にいたるまで「揺さぶられる感覚」がとても楽しく秘境旅行的でオススメの一作です。