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パンドラ配給
シアター・プノンペン
監督:ソト・クォーリーカー
出演:マー・リネット、ディ・サーベット、ソク・ソトゥン、トゥン・ソーピー、ルオ・モニーほか
日本公開:2016年
映写機から放たれる未来への光
カンボジア人女性監督による決意の一作
映画の舞台は現代カンボジア。首都・プノンペンは、1970年代のクメール・ルージュ(ポル・ポト派)による恐怖政治の時代を経て、今ではグローバルなダンス音楽が街中に響くようになっています。一方、テレビでは大量虐殺を繰り広げたポル・ポト派の裁判がいまだに続く・・・そうした描写から映画は始まります。
主人公の女子大生・ソポンはふと入った映画館「シアター・プノンペン」で流れている作品に自分の母が出演していることを発見します。その作品『長い家路』はポル・ポト派による作品処分を切り抜けた貴重な作品で、母の美しい姿にソポンは魅了されますが、フィルムの最後の一巻が欠けていることを映写技師から聞きます。そして、ソポンは病床の母のために物語の結末を自分で完成させたいと思うようになります。
ソボンの熱意は徐々にまわりの人々の感情や人生を動かしていきますが、その原動力となっているのはカンボジアの過去をみつめる監督自身の眼差しの強さに他なりません。自国の目を背けたくなるような歴史をしっかりとみつめ、一体何が起きたのか、これからの世代に何を伝えられるのかということを必死で模索しているエネルギーが映画から伝わってきます。
私自身、クメール・ルージュによる惨劇を世界史の授業で学ぶ知識以外で実感した出来事があります。Dengue Feverという2000年代アメリカのカンボジアン・サイケデリック音楽バンドがきっかけで知った人気女性歌手パン・ロン(劇中でもうっすらと似たような曲が流れています)がポル・ポト時代に粛清されたと知ったことです。パン・ロンの曲を聞くと50・60年代当時のにぎやかな雰囲気がそのまま私の耳に響いてきましたが、何の罪もない彼女の身にあった悲劇を知った時、まるで曲が何か重要なものを置き去りにした状態で鳴っているように聞こえました。ソボンもきっと未完の映画から何か抜け落ちたイメージを受け取って、それを必死で埋めようとしているのだと終始共感しながら鑑賞しました。
監督のソト・クォーリーカーはこれから東京国際映画祭製作のオムニバス映画への参加も決まっている注目の新人女性監督です。映画の冒頭から「おそらくこの作品は女性が撮ったのだな」とわかる独特の瑞々しいタッチで物語が描かれます。期待の女性監督の情熱を体感したい方、カンボジアの今と過去を見つめてみたい方にオススメの作品です。
7月2日(土)より岩波ホールにて公開
以後、全国順次公開予定。
その他詳細は公式サイトからご確認ください。
プノンペン
カンボジアの首都。フランス植民地時代の美しい建物が残り、「東洋のパリ」とも称される。カンボジア国王の居住地・カンボジア王宮には、今も国王一家が暮らす。