風の波紋

日本(越後妻有里)

風の波紋

監督:小林茂
出演:越後妻有の人々
日本公開:2016年

2022.12.21

雪、雪、緑、そして雪―新潟・越後妻有の生活サイクルが都市生活に示唆するもの

新潟県の豪雪地帯・越後妻有の里山に東京から15年前に移住した木暮さんは、茅葺屋根の古民家を自らの手で修繕し見よう見まねで米を作って暮らしてきた。ヤギの角が生えてこないように電気ゴテで除角する光景にも、いまだに葛藤をおぼえる。

特に冬の豪雪の間厳しい自然に悩まされながらも、個性豊かな仲間たちが木暮さん・家・集落を支えながら共に生きていく光景が映し出される。

先日福岡市で初雪が降りましたが、雪が降るとこの映画のことを思い出します。新潟の越後妻有の集落のことを、心のなかに思い描くということです。たまたま11月には新潟市に行く機会もあったのですが、新幹線に乗っているとき、魚沼を過ぎたあたりから「この辺りが越後妻有か」と西の方角を見やりました。

映画の中では、移住者の木暮さんが近隣の人々・有識者の知恵や力を得ながら、家の柱・床・茅葺屋根を一生懸命メンテナンス・リノベーションしていく過程が描かれます。それと同時に、非常に残酷ではありますが、クレーン車によって伝統家屋が壊されていく様も描かれます。家屋がなくなるということは、集落に息づく伝統文化が危機にさらされるということに等しいです。

僕は制作者として、その作業を撮影するとき業社さんに何と言って交渉しているのかを思わず想像していました。おそらくこう言ったのではないかと思います。「数百年の歴史を持つこの伝統家屋を壊す作業をしているあなたは悪くない。あなたを責めるためにこの映像を撮るのではないし、そもそも良い悪いを映し出そうとしているのではない。暮らしを紡ぎ永らえようとしている人の傍らで、こういうことが起きているのだと、そのままの姿を映したい。この地の現状を伝えるだけでなく、日本の都会でも、世界各地の都市・地方でも同じような“厳しさ”が存在しているのだと伝えたい。それは、限りある時間・空間・資源の中で、人間は何を残し、何を未来に向けて選び取っていくのかということだ」と。

越後妻有とネットで検索をすると、どんな場所なのかということよりも先に2000年から3年に一度開催されている「大地の芸術祭」の情報が出てきます。芸術祭開催期間に限らず、野外彫刻や、旧小学校での食事・宿泊を体験できるプログラムがあります。芸術というのは、そのような“厳しさ”を抽象化して、より間口を広くする手段であると思います。実際、映画の中でも印象的なシーンに活用されている廃校では、絵本作家さんが地域の人々と連携して「カラッポになった校舎を舞台に、最後の在校生と学校に住みつくオバケたちとの物語」が作り出されたそうです。

本作を観てから、あるいは越後妻有を旅してから本作を観ると、より広く深く作中で描かれている場所のことが理解でき、僕のように「雪が降ると越後妻有を思い出す」と心の中に「場」が宿るようになるかもしれません。

大地の芸術祭の里・越後妻有とみちのく現代アートの旅

ゆっくりと美術館の鑑賞をお楽しみいただくため、8名様限定コース。加賀百万⽯の城下町・⾦沢から⼤地の芸術祭の⾥・越後妻有、秋⽥、⻘森と新幹線と特急列⾞、専⽤⾞を利⽤して6⽇間で効率よく回ります。新潟県南部の越後妻有は現代アートの作品が多く残る芸術の⾥としてだけではなく、川や⼭などの豊かな⾃然に恵まれ、「清津峡」「美⼈林」「棚⽥」など美しい景⾊を鑑賞する訪問地にもご案内します。

越後妻有

新潟県の越後妻有地域は、縄⽂期からの豪雪という厳しい条件のなかで⽶づくりをしてきた⼟地で、農業を通して⼤地とかかわってきた⾥⼭の暮らしが今も豊かに残っています。この地域では2000年から3年に1度芸術祭が開催され、世界中から注⽬を集めています。芸術祭開催期間だけでなく、1年を通して⾃然を⼤きく活⽤した野外彫刻作品や、廃校や空家、トンネルを丸ごと活⽤した作品など、地域を切り拓いて⽣まれた作品が約200点常設展⽰され鑑賞することができます。