極北の怪異(極北のナヌーク)
監督:ロバート・フラハティ
出演:ナヌーク、ナイラ、 アレイ
日本公開:1922年
約100年前に極北の地で撮影された、
世界初のドキュメンタリー映画
サイレント映画をお気に入り映画として挙げる映画監督は多くいますが、その中でも『極北のナヌーク』はフィンランドの名匠アキ・カウリスマキ監督など、ユニークな監督が好む作品です。監督はドキュメンタリーの父と言われるロバート・フラハティです。
映画の発明者・リュミエール兄弟がパリで初めて映画上映をした1895年から20年ほど経過した1910年代後半に、アメリカ人・フラハティはカナダのバフィン地方・北ウンガヴァ地方へカメラを持ち出す決意をしました。
エスキモーのナヌーク一家の日々の暮らしをカメラは追っていきます。移動の様子(小さいカヌーに一体何人が乗っているか、ぜひ注目してください)、セイウチやアザラシをしとめる様子、交易所で毛皮を売る様子、雪や氷でかまくらのような住居・イグルーを一時間足らずで作る様子など、博物館の展示が現実となったようなリアルな映像が展開されます。
実はこの映画は、フラハティがプリント・上映機器まで持参して自分のやりたいことをナヌーク一家に説明して信頼関係を築き、演出をし、映画のために原始的な暮らしを再現する演技をしてもらったという作品です。この映画が撮られた時にはエスキモーたちは既に原始的な狩猟生活ではなく銃を使ったり、西欧文化に大きく影響を受けた生活をしていたということです。(ナヌークたちがレコードプレイヤーをいじる場面も劇中に描かれています。)
こうした演出は、今ならやらせと言われてしまうかもしれません。しかし、彼らの身体に刻み込まれた生活習慣は決して嘘ではなく、とらえようによっては監督の演出が彼らの風習を復活させたともいえます。何より、映像記録に残されていなかった彼らの生活ぶりを、現代の私たちは他にどのような方法で目撃できたでしょうか。
ナヌーク一家が厳しい環境下でも幸せそうに暮らす姿から、監督とナヌーク一家が築いた信頼関係、監督が映像にこめた問いかけが時代を越えて伝わってきます。
人間性の源を見つめなおすことができ、かつエンターテイメント性の高い、約100年前の映画とは思えない映画です。極北へのロマンを是非この作品で膨らませてみてください。