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コロンバス
監督:コゴナダ
出演:ジョン・チョウ、ヘイリー・ルー・リチャードソンほか
日本公開:2020年
人の心身に寄り添う建築がある アメリカの地方都市・コロンバスでの邂逅
講演ツアー中に倒れた高名な建築学者の父を見舞うため、モダニズム建築の街として知られるアメリカ・インディアナ州のコロンバスを訪れたジンは、父親との確執から建築に対しても複雑な思いを抱いており、コロンバスに留まることに乗り気ではない。一方、地元の図書館で働く建築好きのケイシーは、薬物依存症である母親の看病のためコロンバスに留まり続けている。ふとしたことから出会った2人が建築をめぐって語り合う中で、次第にひかれあっていく。
建築は映画ととても親和性があります。私は福岡で建築ファウンデーションというNPOに入っているのですが、実際、映画監督や脚本家になろうと思っていたという建築家の方や、映画好きの建築家の方は多いです。
建築というのは、ただ地面に建って居住や利便性のために使われるのではなく、人の記憶や土地の風土と密接に関わってストーリーを紡ぐ生き物のような存在です。本作では、登場人物たちがコロンバスの町のあちらこちらを訪れる中で、建築が人に寄り添うようなシーンが物語の随所にあらわれます。「建築が人の体に効いている」というのが私は一番適切な表現だと思うのですが、建築が醸し出す空間が、人の感情作用に強く影響しているということです。
数万年前、人類は洞穴で暮らしていました。そこには、「洞穴絵画」(または「洞窟壁画」)と呼ばれる、旧石器時代の人の営みや動物を描いた天然のフレスコ画がいつしか描かれるようになりました。私はこの洞穴絵画が描かれた洞穴が「最初の建築」だと常々思っています(「最初のアート」は洞穴絵画のもっと前に記録に残らない形であったはずです)。
もちろん、もうすこし後になれば、ストーンヘンジやピラミッドなど今でも観覧可能なシンボリックでダイナミックな建築があります。しかしもっと前の太古の人類は、特に寒さや飢えをしのげるわけでもないのに、なぜ洞穴に絵を描いたのでしょうか? おそらく、狩猟等のサバイバルや自然との対峙の日々で疲れた心身に、絵を描いたり見たりすることは良く効いたのでしょう。そうした絵をいまだに私たちは、遺跡の一部として自分自身の目で確認でき、絵は彼らの記憶を現代人の心に甦らせてくれます。
本作の舞台となっているコロンバスのモダン建築は、旧石器時代の洞穴絵画のように主人公2人の喪失・不安を受け止め、内省のための時間や再生に向かわせるパワーを与えています。建築が「3人目の主人公」ともいえる珍しい作品で、空間・時間の見え方を変えてみてはいかがでしょうか。