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ホテルニュームーン
監督:筒井武文
出演:ラレ・マルズバン、マーナズ・アフシャル、永瀬正敏ほか
日本公開:2020年
From バブル時代の日本 to 現代イラン ― 未来を自らつかみ取る たくましきイランのミレニアル世代
生まれる前に父を亡くし、教師の母・ヌシンと2人でイランの首都・テヘランに暮らす女子大生・モナ。過保護なヌシンは1人娘に厳しい門限を課して交友関係にも目を光らせ、ボーイフレンドもいるモナはそんな母にうんざりしていた。ある日、ヌシンがホテルで見知らぬ日本人男性と会っている姿を目撃したモナは、自身の出生を巡る母の話に疑念を抱き始める・・・
日本・イラン国交樹立90周年を記念してつくられた本作は、ここ数十年の国際交流の軌跡がストーリーに織り交ぜられています。
海外を旅をしている最中に「トヨタ!カワサキ!スズキ!」となぜかカーメーカーの名前で呼びかけられた経験がある方は多いのではないかと思いますが、イランの町を歩いていて日本人だということがわかると(特に中高年以上の方は)かなり高い確率でNHKドラマ『おしん』の話を出してきます。
(私は1986年生まれでリアルタイムでは観ていなかったので、イランと映画制作で関わるようになってから、話を合わせられるように数話だけ『おしん』を鑑賞しました)
『ホテルニュームーン』の重要な出演者の一人は、おしん役の小林綾子が演じています。もしかするとイランの観客は、日本の観客よりもこのキャスティングに喜ぶかもしれませんね。
逆に、日本でイランの話題を出すと(特に中高年以上の方から)かなり高い確率で「上野公園でたくさんのイラン人がテレホンカードを売っていた」というエピソードが挙がります。当時はイラン・イラク戦争後のイランでの不景気と、バブル景気に沸く日本という状況が掛け合わさり、多くのイラン人が稼ぎの場を求めて日本にやってきました。
『ホテルニュームーン』のストーリーは、現代イラン(モナは大学生)と、ヌシンがモナを身ごもりつつも日本の町工場で働いていた過去を往復しながら進んでいきます。
現代のシーンでは大都会テヘランの様々な光景が映し出されます。2007年に建てられた高さ435mのミラードタワーの壮観さや、モナの行きつけのカフェのモダンさや、4000-5000m級の山に囲まれた活気ある都市の様子は、「上野公園でたくさんのイラン人がテレホンカードを売っていた」という印象でイランのイメージが止まっている方が観たら、かなりビックリされるのではないかと思います。
私自身、映画祭や編集作業のためにイランに何度も足を運んでいますが、知人や友人に「イランなんて 行って危なくないのか?」と聞かれることが多いです。その度に「そんなことはない」とイランの様々な魅力を説明するのですが、おそらく今後は本作を鑑賞することが、日本人にとって最も手軽かつ深くイランを知れる方法になるのではないかと思います。
筒井武文監督の手腕と永瀬正敏の好演が光る『ホテルニュームーン』は、9月18日(金)よりアップリンク吉祥寺ほか、全国ロードショー。その他詳細は公式HPをご確認ください。
テヘラン
イランの北西部に位置する同国の首都。エルブルース山脈の麓に広がるこの街は、全人口の10%に当たる人々が生活する大都市です。近代的な建物やモスク、道路に溢れかえる車の数、バザールなどの人々の活気など満ち溢れたエネルギーを肌で感じることが出来る街です。